#1 岡田利規(チェルフィッチュ)

劇評サイトWonderland は特別企画の枠で、演劇シーンで活躍している人たちのインタビューを始めます。 第1回は、『三月の5日間』で第49回岸田國士戯曲賞を受賞したチェルフィッチュの岡田利規さんです。早い段階からチェルフィッチュの作品をフォローしてきた柳澤望さんにインタビュアーをお願いしました。今回は前半を掲載、後半は25日公開予定です。(北嶋孝@ノースアイランド舎)
【写真=岡田利規さん(左) 柳澤望さん(右)】

自分にフィットした方法で いま を記録したい

柳澤 今日は、チェルフィッチュのこれまでを振り返りつつ、これからの展望をうかがいたいと思います。今年は岸田戯曲賞を受賞(注1)されて岡田さんは劇作家として評価されましたが、それに先立ってダンス方面から評価されていました。戯曲や言葉のレベルで注目される以上に、身体性や身体表現のおもしろさで注目されて、去年(2004年)はダンスフェスティバル(注2)にも出場されました 。その両面で突出しているところが岡田さんのとてもユニークなところだと思います。ではそれらはどう結びつくのか。その関連を確かめられればいいなと思います。

台本の書き方

柳澤 はじめに、言葉に関してですが、ガーディアンガーデン演劇フェスティバルに出たときの「稽古場レポート」インタビュー(注3) によると、大学サークル当時は映画を作りたかったそうですね。台本を書くことから演劇に向かったわけですか。

岡田 書きたいという意欲は前からあったんですよ。創作したいという気持ちですね。高校時代も小説を書こうとか思ってたんだけど、完成したためしがなかった。作品として初めて完成したのが大学1年の時に書いた台本でした。

柳澤 舞台用の台本ですか。

岡田 学園祭用の短いものですけどね。

柳澤 そのとき初めて、書き上げる手応えを感じた、と。

岡田 あったんだと思います。それから大学を卒業するくらいの間までは、脚本を書き終えたことの手応えというか充実感は、いまよりずっとありましたね。

柳澤 いまは、脚本を書き上げただけでは、あまり充実感はないのですか。

岡田 ないです。当時は脚本を書くことが自分にとって救いみたいな行為でもあったし、また脚本がひとつの作品として完結しちゃってたんですね。いまはそうじゃないから書き終えても、当時のような高揚感はないですね。

柳澤 書き上げてすぐ舞台でどう立ち上げるかにシフトする感じですか。

岡田 いまは書いているとき、なんとなく解決するべき課題のようなものが見つかっても、後回しにしてることが多いですね。脚本の穴というか隙間を、脚本のレベルで解決しなくともいいや、といういい加減な気持ちで書くようになってきて、そこは稽古場に投げちゃうように書いているから、書き終えても何かが完成したという意識はないです。

柳澤 岡田さんは箱書きしない、構成をあらかじめ考えてあとから埋めていくような書き方はしないとおっしゃっていましたが、初めからそうだったんですか。

岡田 いまのスタイルになる以前はまだ、箱書きのようなことをしていました。

柳澤 ではいまは、言葉のディテールから、言葉をつなぐように書いていくんでしょうか。

岡田 いろんなことを考えて書くので、次に書くためのきっかけを言葉のディテールから拾っているかどうかは、自分でもよく分析できません。例えば俳優の出番のような現実的なことを考えながら書くことがありますから。だれが舞台に出ているか、だれが引っ張っているかとかいうことですね。動線とか仕草とかも、書くときは考えていません。

柳澤 それは稽古場で考える。

岡田 そうですね。

柳澤 あて書きも岡田台本の特徴として語られているようですが、仕草や口癖などを知っている役者に向けて書いていくということも、2001年の転換以前からあったのか、それとも転換以後に始まったんでしょうか。

岡田 あて書き度ががぜん上がったのは、2001年のスタイル変更以後ですね。
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岡田利規(おかだ・としき)
1973年7月、横浜市生まれ。1997年個人ユニット「チェルフィッチュ」旗揚げ。2001年3月発表の『彼等の希望に瞠れ』から、超リアルな日本語を用いる作風に転換。第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル参加作品「三月の5日間」(2004年2月初演)が第49回岸田國士戯曲賞受賞(2005年3月)。著作は、戯曲集「三月の5日間」(白水社)。
チェルフィッチュ サイト:http://chelfitsch.net/
チェルフィッチュ ブログ:http://chelfitsch.exblog.jp/

柳澤望(やなぎさわ・のぞみ)
1972年、長野県飯田市生まれ。
法政大学大学院哲学専攻博士課程単位取得退学。 専門はベルクソン哲学。
小劇場レビュー紙「CutIn」などで劇評を執筆。舞台芸術をめぐって情報と意見の交換を行うMLエウテルペ主宰。 ダンスの学校PASで「ダンス批評」のクラスを担当していた。

(編注)チェルフィッチュに関する柳澤さんの主な論考は次の通り。

(注1) 第49回岸田國士戯曲賞選評(白水社Webサイト)
(注2) We love dance Festial (2004年8月17日-29日)のプログラム「ユーモア in ダンス
(注3) 第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル稽古場レポート<チェルフィッチュ編>