#2 関美能留(三条会)

企画公演で教えられる

松本 話はちょっと戻りますが、本拠地・千葉での活動を中心にしながら、その後、企画ものにちょくちょく参加されてますね。

声を掛けてもらって、うれしかったんですよ(笑)。

松本 印象深い企画はありますか。

ク・ナウカとの合同公演(郡虎彦作「鐵輪」)とか、「COVER」(夏井孝裕作)のドラマリーディングなどいろんな企画に参加しました。ぼくは千葉で活動していますから、東京の演劇界というものがあるとしても入るつもりはないんですが、ただどんなものか知っておかなきゃいけないということはありますから、とても楽しくやれました。当然いい点もありましたしね。

松本 おもしろいのは、いわゆる「小劇場すごろく」的なところとはちょっとずれた会場で上演することが多くて、ある種、演出家というくくりの中での企画が多かったというふうにみえます。

そうですね。受賞してからの年間公演数の増え方はとんでもなかった。年間8本も上演してますから。でもともかく、ぼくを含めてウチの俳優たちに場数を踏ませたかったということがあります。千葉にこもっていると、自己満足ではないかとか自分たちのやり方に疑念が湧いたりして、最初にク・ナウカさんに引っ張ってもらって実際に舞台に立って「なるほど、ぼくらは甘ちゃんだったな」と感じましたしね。

松本 「鐵輪」公演はク・ナウカとの合同企画(法政大学学生会館大ホール)、「COVER」はガーディアン・ガーデンという演劇フェスの一環、「ユビュ王」も演劇フェス、「卒塔婆小町」「班女」は東京のこまばアゴラ劇場での単独公演です。アゴラは最近、小劇場のメッカみたいな雰囲気もありますから、まあ、東京での公演を集大成したような印象もありますが、アゴラで三島作品を上演するときは、どんな意気込みだったんでしょうか。

そうですね。実は、あんまりやりたくなかったんですよ(笑)。また今度もやらせてもらうんですけど、うーん、お客さんを集めるにはこんなにいいところはないですが、集まるお客さんはこんな感じかなというのが何となく分かってしまうところがあるんです。

松本 客層が均質化していて、ある程度反応が読めてしまうということですか。

いや、読めないですけど、何かこう、びっくりすることがない感じでしょうかね。千葉でやってると、別に千葉がいいという意味じゃなくて、おそらくこれまで芝居を見たことがないだろうという人がいたりするんですよ(笑)。

松本 その後は昨年末にBeSeTo演劇祭で「ひかりごけ」を上演して、今年になって「若草物語」と「山椒太夫」などかなり幅の広い演目を手がけていらっしゃいます。舞台作品としても、「若草物語」のビジュアルや音楽のカラフルさと「山椒太夫」のそれはある意味対照的ですらあるし、構成というか作り方からなにから違いつつ、それらがほぼ同じメンバーで作られていて…と思っていたところに、静岡での「メディア」上演がありました。これはかなりはっきりと三条会の新しい面が浮かびあがった舞台だと思いました。

確かに幅が広いですけど、いまがそういう時期なんだと思います。今年の新作は「若草物語」と「メディア」と、平田オリザさんの「S高原から」なんですが、うん、ともかく何でもやってみようという時期ではあると思います。もちろんその中で学ぶことはいっぱいあるし、こんなふうにいろいろやってみれば、お客さんも楽しいと思うんですよ(笑)。三条会は三島作品しか取り上げないとか、武田泰淳とか思想系文学しか取り上げないということもない。取っ掛かりとして思想系文学に取り組んだのはとてもよかったと思いますが、それだけじゃなくて、ほかのこともやりたいと思って今年は幅を広げました。

文化芸術新人賞の説得力

松本 「メディア」以後の展開についてはこの後でふれることにして、少し戻りますが、おめでたい話をしておきましょう。今年の3月、関さんは千葉市文化芸術新人賞を受賞されましたね(注2)。そこで、改めて自治体との関わりや千葉を拠点に活動する意義などについてうかがいたいのですが。

千葉市の芸術文化新人賞は今回が3回目ですが、1回目2回目に受賞できなかった(笑)。利賀演出家コンクールで最優秀演出家賞をいただいたときの方がすごくうれしかったんですが、千葉に住んでいる人たちには、怪しい感じがするんでしょうかね。そこでコンクールの説明から入らなければいけなかった。利賀や鈴木忠志さんのことなどいろいろ説明するのですが、最後に「賞金300万円」と言うと、これがいちばん説得力がある(笑)。今回は千葉市からいただいた賞なので、それだけで説得力があって、あまり怪しまれずにみていただけました。

松本 一般社会との架け橋という意味では、地元行政の賞の方が有効だったということですか。

そういうふうになるんですかね。受賞してからは、大学を中退して麻雀ばかりやっていたのに、こういう賞をもらっていいのかと考えたり(笑)。ともかく行政が「芸術家」と言ってくれたので、個人的には随分楽になりました。それから、親が喜びましたね(笑)。 >>


(注2) 第3回千葉市芸術文化新人賞 受賞者の決定について」(千葉市文化振興課)