青年団と緊密な関係を保つ「五反田団」は相変わらず活発な活動を続けています。今年の5月公演「おやすまなさい」が第25回。ぼくの初見は昨2003年春でした。そのときの第20回公演「家が遠い」(5月2-5日、東京・こまばアゴラ劇場)の評をある雑誌に発表しました。以下、その再掲です。
◎ほろ苦い傷みの記憶 五反田団第20回公演「家が遠い」
三方は客席で囲まれ、残りは高い塀で仕切られている。こんな鍋底のような舞台で、塀を背に座り込んだ中学生4人が暇つぶしに過ごす下校途中のひととき-。五反田団の第20回公演「家が遠い」(5月2-5日、東京・こまばアゴラ劇場)は閉ざされたビルの谷間で過ごす中学生の緩やかな時間が描かれている。
学生服の4人はたばこをふかし、ジュースを飲む。親のはげ頭をけなし合い、カツラを話題にする。バンドを始めようと1人がテープレコーダーに吹き込んだ自作の曲を再生すると、ほかの仲間は白けてしまう。楽器を弾ける人がいない、楽器を買うお金がない…。
あちこちに話が飛び移けれども、座り込んだまま口もきかない仲間が1人。その姉が、弟を連れ帰りに現れる。言うことを聞かないため、バイト先に断りを入れる姉。時間がいたずらに過ぎていく。ほかの生徒が無理に立たせようとすると、弟は思い切り暴れ回る…。その役どころはじつは、生身の役者ではなく、人形だった!
劇的でも起伏のある筋書きでもない。淡々というか、だらだらというか、学校の話題や家庭の出来事も突き詰められることなく、うっすらとたなびく雲のように続いていく。退屈だけれど、退廃するほど尖っていない時間-。
事件らしい事件は最後近くに起きる。何度か起きあがらせようとして果たせなかった姉が、寝ころぶ弟にまたがって、無言のまま殴りつける。バシッ、バシッ、バシッ…。殴りつける音だけが会場いっぱいに響く。淡々と進んできた芝居の中で、異様な時間帯だった。
しかしまた、それが新しいドラマを生むわけでもない。とりとめのない話題に転換してしばらくしたあと、ゆっくり暗転して舞台が終わる。
作・演出は前田司郎。近く平田オリザの青年団と合併するという。今回の舞台は、二つの劇団の合同連続公演の一環だった。
五反田団は「静かな舞台」では共通するけれど、青年団のようにステージの奥に社会の影が色濃く差すような作風ではない。今回の舞台はフツーの中学生の一こまが、閉じた形で繰り広げられると思えばいいのだろうか。閉塞というにはあまりに素直。無理にお話を作らない、作ろうとしないスタイルが特色なのかもしれない。
しかし、いや、だからこそ、だれもが記憶の片隅に持つささやかな場所を、ほろ苦い傷みとともに思い起こさせる舞台だった。
(北嶋孝@ノースアイランド舎、初出「ばんぶう」03年6月号)