ガラシ×ク・ナウカ「ムネモシュネの贈りもの」

 何者かが仰向けになって舞台の上を泳いでいく。シャクトリムシのように足で体を押し出して。ある者は両腕を体の脇にまっすぐつけたまま、ある者は両腕で交互に水をかきながら。やがて鳥類へと進化を遂げた彼らは、けたたましい怪音を発 … “ガラシ×ク・ナウカ「ムネモシュネの贈りもの」” の続きを読む

 何者かが仰向けになって舞台の上を泳いでいく。シャクトリムシのように足で体を押し出して。ある者は両腕を体の脇にまっすぐつけたまま、ある者は両腕で交互に水をかきながら。やがて鳥類へと進化を遂げた彼らは、けたたましい怪音を発しながら縦横無尽に飛び回る。ある者はやがて立ち止まり、ある者は舞台の壁にぶち当たり。

 インドネシアのテアトル・ガラシとク・ナウカのコラボレーションによる「ムネモシュネの贈りもの」は、記憶をめぐる奇想天外なパフォーマンスでした。

 それにしても、まさかク・ナウカで、松崎しげる「愛のメモリー」とは!


 キャストの内訳は、ガラシから5名(男性2名、女性3名)、ク・ナウカから6名、客演が1名(詳細は下記参照)。ク・ナウカのベテラン陣は美加理のみで、基本的に若手中心のキャスティングでしたが、これはガラシのメンバーの年齢層に合わせたのかもしれません。セリフは日本人の役者による日本語が大半でしたが、ごく一部にガラシの役者による現地語とおぼしきセリフが混じっていました。

 今回、宮城聰は「企画/脚本協力」というクレジットになっており、演出はガラシのユディ・タジュディンが全般的に担当したようです。部分的に、スピーカーとムーバーの役割分担がみられたり、一部のセリフに“ク・ナウカ節”が感じ取られたりしたものの、基本的にはク・ナウカの芝居とはまったくの別物。さしずめ、ク・ナウカの役者が異種格闘技戦に参加し、いつもと異なるルールで戦うといったところでしょう。

 芝居のなかにいわゆるストーリーは存在せず、数々のエチュードを数珠つなぎにしたような構成で、たとえば古代ギリシャの場面だったかと思えば、その後、ある役者のモノローグに登場するのは渋谷のラブホテル。舞台には3つのスクリーンが吊り下げられていて、そこに映し出されるものも、壁画のような画像から、ワープロで文字が埋められていくパソコンのディスプレイまでさまざま。

 ガラシの代表作とされる「ワクトゥ・バトゥ 百代の過客」の公演(4月21日-24日)は残念ながら見逃したものの、今回の舞台に関していえば、ダンス的な動きも含めて、パフォーミング・アートの追求という方向性が強く感じられました。

 70分ほどの上演が終わり、役者の姿がなくなった舞台に、この芝居にはまったく似つかわしくない哀愁のメロディーが流れ始めたかと思うと、アフロヘアのカツラをかぶった男性の役者2名(ガラシとク・ナウカから1名ずつ)が登場。BGMに合わせて松崎しげるの往年のヒット曲を歌いながら役者紹介を行い、最後は舞台上にすべての役者が勢ぞろいして、泣きのサビを大合唱。さすがにこればっかりは、ユディ・タジュディンのアイデアではないであろう、驚きのおまけ付きでした。

 終演後に、ユディ・タジュディンのミニ・アフタートークがあり、今回の芝居の制作過程などが語られました。それによれば、「記憶」と「コンタクト」をキーワードとして、役者一人ひとりのイメージを即興(インプロビゼーション)によって表現させて芝居を作り上げていったとのこと。だとすれば、冒頭に述べた「奇想天外なパフォーマンス」という感想は的を射ておらず、実は極めてナチュラルかつプリミティブな身体表現であったというべきでしょう。もちろん、インドネシア人の抱く「記憶」「コンタクト」のイメージと、日本人の抱くそれらとの間に多少の違いがあり、舞台上でも客席でも、それに伴う化学反応が生じていたこととは思います。
(2006.6.11)

[上演記録]
日本-インドネシア合同作品 ガラシ×ク・ナウカ
「ムネモシュネの贈りもの」
ザ・スズナリ(6月11日-18日)

【出演】
フェリー・ハンダヤニ、チトラ・プラティウィ、ジャマールディン・ラティフ、スリィ・カダリアティン、テオドルス・クリスタント、美加理、野原有未、本多麻紀、大内米治、大道無門優也、石川正義、横須賀智美(流山児★事務所)

スズキケンタロー(演奏)

【スタッフ】
演出:ユディ・タジュディン
脚本:モハマド・ウゴラン・プラサド、大西彩香
構成:ユディ・タジュディン
企画/脚本協力:宮城聰
音楽:ヤヌー・アリエンドラ
映像/舞台美術:アグスティヌス・クスウィダナント
衣裳:山本智美
舞台美術:中里有
照明:大迫浩二
照明協力:吉村俊弘、鈴木健司
音響アドバイザー:AZTEC(水村良、千田友美恵)
制作協力:星村美絵子、桜内結う
制作:大石多佳子

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