モモンガ・コンプレックス「他力ジェンヌ。」

 会場となった桜美林大学はずいぶん遠い。東京の西郊外から電車を乗り継いで2時間近く。JR横浜線淵野辺駅からバスでキャンパスに着いたけれど、集合場所に関係者らしき人影が見あたらない。広いキャンパスをうろうろしてやっと会場に … “モモンガ・コンプレックス「他力ジェンヌ。」” の続きを読む

 会場となった桜美林大学はずいぶん遠い。東京の西郊外から電車を乗り継いで2時間近く。JR横浜線淵野辺駅からバスでキャンパスに着いたけれど、集合場所に関係者らしき人影が見あたらない。広いキャンパスをうろうろしてやっと会場にたどり着いたら、バス停前に戻ってほしいと言われてとぼとぼ逆戻り。しかし困惑と苦労の甲斐がありました。モモンガ・コンプレックスのパフォーマンスを目の当たりにして気持ちが軽ろやかになりました。

 モモンガ・コンプレックスは「桜美林 大学総合文化学科出身の白神ももこ・高須賀千江子によるダンス的グループ。人がそれぞれ抱えるコンプレックスをダンスを通して笑いとともにシビアに提示し、本人にとって不本意な笑いを引き起こすことを身体的に追求していく」(公演チラシ)という集団だそうです。こう書くと、どこかこわばって尖ったイメージがありますが、ダンスやコント風のシーンがいくつか組み合わさっていて、ぎすぎすした感じとは無縁です。

 構成・演出・振付の白神ももこさんが公演1か月前に右足親指を骨折。踊り手でもあるので「しおしおのぱーになりかけた」(プログラム)そうですが、冒頭、仲間にいすを押してもらって登場しました。やがて助手役と見えた女性といすに腰掛けた彼女が音楽に乗って踊り始めます。ターンもきつく、いすを勢いよく回転させたりするのではらはらします。引き揚げるときは仲間に抱えられるのも振付として計算のうちなのでしょう。身体の動きに沿い、踊りの流れの一部として組み込まれていました。負傷を逆手にとって、なるほど納得の動きです。

 手の動きが印象に残ります。手と言えば、指先、掌、腕、肩がしなったりくねったりする東南アジアの伝統的な踊りを思い浮かべますが、それらはおおかた、ともすれが軽快感に欠けがちです。しかしモモンガたちはこともなげに跳ねたり飛んだりしながら軽やかな動きを見せてくれました。ほとんど8頭身の高須賀さんは細長い腕のしなりがひときわ目立ちます。バランスもカッコもいいんだよね。

 白神さんは黒い服装で登場しましたが、ほかの4人は白い衣裳に身を包んでいます。身体の線は白い衣裳のふくらみでほどよく緩和され、木綿地らしい布地はふくよかで柔らかい感触を与えます。なんとなくパジャマ姿を思い浮かべます。そんな衣裳から細くて白い腕がそろって伸び、ねじれ、前後左右に揺さぶられます。流れに乗り、軽く跳ねている感じと言えばいいのでしょうか。汗をまき散らす暑苦しいスタイルではありません。二十歳前後の女性が、淡い肉感というか、フェロモンの香りが少しだけ中和されているような感じと言っていいのでしょうか。力こぶを入れて動き回るのではなく、さりげに急回転し、すぐに反転して退き、メンバー全員が小気味よく踊るのです。空気を切り裂くとか揺さぶるとかいうのではなく、心地よく空気に乗っているイメージです。

 ぼくはダンスを見慣れているわけではないので、彼女たちのダンスが他と比較してどれほどの新しさを持つのか分かりかねるところがあります。ただ、彼女たちでなければ醸し出せないイメージがあることは確かに感じました。モモンガ・グループとしてのちょっと不思議なイメージ。相反した言い回しになるかもしれませんが、透明感の集積というか、不思議感覚が溢れているように感じます。彼女たちのパフォーマンスを見ながら、今年4月に開かれた「横浜ダンス界隈」にモモンガのメンバーが参加して商店街で踊ったシーンを思い出しました。超絶技巧や新奇なコンセプトで驚かせるのではなく、中華料理店や眼鏡店など文字通り狭い道中で十数人がリズミカルに踊ります。踊る姿が背景の街にしっくり溶け込んでいるのです。その自在さと踊りを空間に配置するバランス感覚に驚きました。
 今回の公演でも、体育館の地下の片隅を臨時会場に仕立て、備え付けのロッカーやサンドバッグを折り込んだ踊りも見せています。空間の配置感覚が鋭いのではないでしょうか。透明感の出所が推測できそうです。

 「ダンス的グループ」と規定しているだけあって、ダンスを見せるだけではありません。詩らしきテキストを読み上げ、それに振り付けたりします。いすの底にダジャレらしきメッセージを忍ばせたり、オヤジギャグをとばしたり、コント・パフォーマンスも見せてくれました。

 彼女たちが「ダンス的グループ」として何種類かのパフォーマンスを見せる方向に進むのか、あるいはあまり例を見ない「ダンス」グループとして突出していくのか、まだ見極めがつきません。才能の香りがあって、まだ方向が不分明。それこそ可能性そのものではないでしょうか。

[上演記録]
モモンガ・コンプレックス『他力ジェンヌ。』
桜美林大学町田キャンパス新体育館1階(6月21日-25日)
構成・演出・振付:白神ももこ
出演:高須賀千江子、臼井梨恵、眞嶋木綿、山下彩子(サラダラ)、白神ももこ

スタッフ:
舞台監督 森山香緒梨
照明 伊藤泰行
音響 藪公美子
音響補佐 大園康司
美術・小道具 西邨紀子
制作 藤原里香、伊野香織、梅村祥子、山岸愛子
チラシイラスト 北川結

投稿者: 北嶋孝

ワンダーランド代表

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