劇団 山縣家「ホームビデオ」

◎創作と上演の関係について考えたくなってきた
中野成樹(中野成樹+フランケンズ主宰)

横浜は鶴見に暮らすある一家。父と母と息子が二人。父母は自営業をいとなんでいる。父は今年のはじめに体を壊し、入院し家族を心配させたが無事退院、日常に戻った。母は家事をこなし仕事をこなし、たまにバイトもしてるとか。息子二人は双子なのだが、二卵性なので顔はあまり似ていない。兄は最近家を出て実家の近所で暮らしている。弟はまだ実家にいる。二人ともいわゆる就職はしていない。まあ、ごく普通の家族である。劇団山縣家とは、つまりそんな人々で成り立っている。こんな言葉があるかないかは知らないが、家族劇団である。「家族のような」でもなく、「もはや家族だ」でもなく、正真正銘ただの家族である。そして劇団でもある。家族でわいわいとアイディアを出し合い、いちおう父が作・演出の総まとめ。90年代後半より一・二年に一本のペースで作品を発表している。

「Summerholic2006」のチラシ

7月のはじめころ、そんな家族が『ホームビデオ』なる作品をSTスポット横浜にて上演した。内容をごくごく簡単にいうと、見知らぬ3人の男女が家族になりすまし、その架空の一家がかつて遭遇した各々の恐怖体験を語り合うというもの。恐怖体験といっても大それたものではなく、自転車に乗っていて車にはねられたとか、昔キャンプにいったとき暴風雨に遭遇したとか、海で溺れかけたとか、宇宙についてふと考えたらなんともいえぬ虚脱感におそわれたとか、そういった程度のことである。そしてその会話の模様は、映像作品としてビデオに収録していますという設定でもある。配役は、やまがたひろとも(父)が「チチさん」、山縣恵子(母)が「ハハさん」、山縣太一(弟)が「ムスコさん」。ムスコさんは、そのビデオ撮影の企画発案者であり監督でもある。ちなみに山縣耕太(兄)は舞台からはなれたブースにこもり音響を担当していた。

気になるのはもちろん、実際の家族が架空の家族として芝居をすることである。そこに演劇特有の「ごっこのおもしろさ」や、「実際の家族も結局はお芝居である」というありきたりなテーマをみてとるのはしごく当然であり、しごく簡単なことでもある。だがその当たり前はひどく魅力的でもあった。これは一体どういうことなのか?

実際の家族が芝居ってものをすること自体の美しさなのか。あるいは、実際の家族が家族を題材にした芝居をするってことが興味深いのか。いや、これは私見ではあるが、おそらくは実際の家族が家族を題材に創り上げた演劇作品がことのほか上質であったということが、そのまま先の魅力なのではあるまいか。つまり『ホームビデオ』は純粋な作品として十分に魅力的であったと。ストーリーがキチリと完結していて、役者はその物語を嫌みなく演じ、それでいてところどころに観客の頭をほぐす遊び心のネタが散りばめられていて。冒頭からのお芝居が実は撮影をおえた直後に家族役の役者三人でそのビデオを見返していたのだというしかけもそつがないし、「家族」を求める青年がこのビデオ撮影の企画者であるという、作品テーマへの歩みよりもそつがない。なによりこういった作品に「ホームビデオ」とタイトルをつけたことも的確であると感じられる。

もちろん、この作品を創り上げ、上演をこなしたのが実際の家族であったというところに大いなる重みがあるのは確かだろう。そこに劇団山縣家の本領があるのは間違いない。だが、もしこの作品を劇団山縣家ではない人々が上演をしたらどうなるのか? 大御所、中堅、若手、どんなメンバーを配しても、意外とすんなり面白くなるのではという気がしないでもない。

それはそうと、物語のオチはこんな風だった。ビデオの撮影をおえ、そのビデオの鑑賞もおえ、つまり架空の家族は仕事をおえ、みなバラバラに帰宅をしようとする。その時、ムスコさんはその別れにふとした寂しさを覚え、父役、母役の役者をひきとめようとする。振り返る偽の両親。溶暗。再び舞台に明かりがつくと、そこにはムスコさんがただ一人たたずむ。偽とはいえ、両親はやはりいつかはいなくなってしまうといったところだろうか。たとえば、こんなクライマックスを、実際の家族がおこなうことと、そうではない役者たちがおこなうのことに、何らかの差は生まれるのだろうか。

公演最終日のカーテンコール。突如ブースから音響担当の兄が舞台に飛び込み、出演者と共に観客に礼をしていた。いわく「いや、何かいてもたってもいられなくなってさ!」。これって何だ?

演劇作品の創作と、その上演の関係について、なんだかいろいろと考えたくなってきた。(2006.8.6)
(初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」第2号、2006.8.09)

【筆者紹介】
中野成樹(なかのしげき)
1973年東京生まれ。演出家。中野成樹+フランケンズ主宰。日本大学大学院修士。修士論文「翻訳劇の演出-誤意訳への道」

【公演記録】
劇団山縣家『ホームビデオ』
STスポット横浜(2006.7.7-10日)

演出=劇団 山縣家
出演:やまがたひろとも、山縣恵子、山縣太一
音響:山縣耕太

※ オムニバス公演「Summerholic 06 -恐怖劇場-」参加作品。

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