TOKYOSCAPE

◎TOKYOSCAPEで、KYOTOトリップ!- 東京6劇団による同時多発公演 in 京都
高野しのぶ(「しのぶの演劇レビュー」主宰)

東京で個性的かつ精力的な活動を続けている6つの小劇場劇団が、京都の4つの会場で同時多発公演をおこないました。それがTOKYOSCAPE(トーキョー・スケープ)。小劇場観劇フリークの間ではこの夏、「京都、いつ行く?」「何と何を観る?」など、TOKYOSCAPEの話題で持ちきりでした。

大好きな劇団が多数参加しているので、私は2005年12月のTOKYOSCAPE東京ワークショップ成果発表から、この企画にどっぷり浸かり込みました。2006年7月から8月にかけての2週間の公演期間中には、東京-京都間を2往復して、7作品中6本を観劇することができました。たまに暑さに参っちゃいそうになりましたが、基本的にはゆったり、しっとりの京都観劇となりました。エエとこどすなぁ、京都♪

一番初めに拝見したのは風琴工房。『紅き深爪』と『子供の領分』という、全く毛色の違う2作品を披露してくれました。人間座スタジオは白い壁に木製のドアがついた、小さくてこぎれいなお部屋のような劇場です。『紅き…』では母親による実の子の虐待を、『子供…』では若者の奔放で不器用な性を描き、両作品とも空間の個性をうまく生かした、密度の濃い会話劇でした。真に迫る生々しい演技で、人間の心の深い闇と、消えてしまいそうなほど小さな希望を感じられました。

地上3cmの楽園”を作り出すポかリン記憶舎は会場が独特でした。東京で既に2回上演されている自信作『煙の行方』を、祇園の須佐命舎で再演。日本家屋と和服美女とのコラボレーションは、大きなガラス窓の向こうの美しい中庭と合わさって、はじめて完成されました。まさに、今ここでしか体験できない特別な風景でした。

観ている方の胸が傷むほどまっすぐに、社会問題に切り込んでいくユニークポイントは、認知症の母親を介護する青年の苦悩を描いた『トリガー』で勝負。京都の演劇通が足を運ぶ、アトリエ劇研という小劇場にぴったりの作品だったと思います。平日マチネ公演に伺ったせいかもしれませんが、観客の年齢層が高かったです。観る側の年齢層を問わない作品であったことは間違いないでしょう。

bird’s-eye view(バーズ・アイ・ビュー)の『girl girl boy girl boy』は、東京の三鷹市芸術文化センター・星のホールでの初演の感動がまだ胸に新鮮です。京都のART COMPLEX 1928では初演時のダイナミック な空間演出は観られませんでしたが、bird’s-eye viewの持ち味であるポップでシニカルな浮遊感と、意外にダイレクトな笑いは健在。上演中は京都の観客からの暖かい笑い声も響き、コントだけに終らない演劇的広がりも味わえました。

reset-N(リセット・エヌ)の『パンセ2006』は、bird’s-eye view『girl…』と同じくART COMPLEX 1928で上演されました。同じ会場があんなに変貌するとは!劇場そなえつけの照明機材はいっさい使わず、手持ちの蛍光灯類をスタイリッシュに配置し、赤いステージ、黒い小道具、出ずっぱりの役者たちを青白く照らします。reset-N独特のクールな世界から、静かに、したたかに燃える意志が伝わる野心作でした。

作品上演以外のイベントも充実していました。風琴工房では終演後の舞台上で“ろばカフェ”が開催され、ラタトゥイユとドイツパン、紅茶のセットをいただきました。作家や出演者と一緒に創作裏話や観劇感想などを話し合い、贅沢で充実した約2時間が過ごせました。マチネとソワレのはしご観劇をする人のための、心づくしのおもてなしでした。
ポかリン記憶舎では、京都の町と自然につながるきっかけを用意してくれていました。会場の向かいにある岩神座ホールで餃子とビールが販売されており、給仕をされていた上品な京都弁の奥様としばし談笑して、夏の夜の至福のひとときとなりました。

他にも、マチネ開演前に有名寺院を散策したり、評判のチーズケーキ屋さんに行ったり、他の地域(福岡など)からいらした観客の方々とランチをご一緒したり・・・。京都の町でTOKYOSCAPEを目指して集った人と出会い、触れ合い、場所が持つ力と人間の体温を実感できる、密接でかけがえのない時間を満喫いたしました。

井上ひさし氏の戯曲『夢の泪』の劇中歌に「人は場所に染み付いている」という言葉がありましたが、その通りだと思います。その場所で生まれるものに、そこにしかない個性、いのちが宿るんですね。小さな演劇の力が日本各地とそこで出会った人々とを確かな絆でつなぎ、日本全体を大きく包む心となって、世界へと広がっていけるような気がしました。

この企画がこの1回で終わってしまうのはもったいないと思います。一観客の勝手な発想ですが、たとえばKYOTOSCAPE in 東京とか、TOKYOSCAPE in 福岡とか、AICHISCAPE in 大阪なども実現可能ではないでしょうか?そうして自分が世界とつながれる機会に、また便乗させてもらいたいです。
(初出:週刊「マガジン・ワンダーランド」第3号、8月16日発行。購読は登録ページから)
(写真はいずれも筆者撮影)

【著者紹介】
高野しのぶ (たかの・しのぶ) 大阪府生まれ。東京都在住。青山学院大学文学部・英米文学科卒業。現代演劇ウォッチャー。「しのぶの演劇レビュー」主宰。

【上演記録】
企画名=TOKYOSCAPE“東京6劇団、京都へ。2005-2006”
期間=2006年7月26日(水)~8月6日(日)
会場=アトリエ劇研/人間座スタジオ/ART COMPLEX 1928/須佐命舎
http://www.tokyoscape.org/

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