ピンク「We Love Pink」

◎ピンク:かわいい子には悪ノリさせろ!  伊藤亜紗  高めのポニーテールにリストバンド、揃いのハイソックスにはもちろんミニのスコートか短パンを合わせてめいっぱいの元気をアピールっ!なのはいいけど思いっきり振りあげたナマ足 … “ピンク「We Love Pink」” の続きを読む

◎ピンク:かわいい子には悪ノリさせろ!
 伊藤亜紗

 高めのポニーテールにリストバンド、揃いのハイソックスにはもちろんミニのスコートか短パンを合わせてめいっぱいの元気をアピールっ!なのはいいけど思いっきり振りあげたナマ足はバレリーナだったらちょっとあり得ないようなぽてっとくびれのないラインで……。

 そんな「部活系チアガール」のコスチュームがお約束の3人組ダンスユニット、ピンク(磯島未来+加藤若菜+須加めぐみ)。黒沢美香&ダンサーズから出発して結成は2004年。若いのはもちろん活動歴だけじゃなく彼女たちの年齢と体もそうで、ただそこにいるだけで問答無用にかわいい。なまじバレリーナやモデルとは違うリアルな肉体だけに、魅力がなまなましすぎて見てるこっちが照れくさくなってしまうのだ。肌だってぴちぴちで、気がつけば吸い付いている。というような妄想に悩まされること必須。毎回の公演が責め苦である。

 だがもちろん彼女たちはアイドルじゃない。パフォーマーであろうとしたとたん、このかわいさが問題になる。頼んでもいないのに熱いまなざしを向けてくる観客の前で、どう振る舞えばよいのか。つまりピンクの面白さはひとえに、「アイドルという誤解」にどう乗りつつハズすか、並外れたかわいさが呼び込んでしまうこの宿命とどうつきあうか、にかかっているのだ。いかに自分のかわいさを売り、あるいは距離を取り、見せびらかし、どぎつく押し付けがまし、無駄遣いするか。かわいい自分を徹底的に利用し、主題化し、調理する。

 実はこういうトライアルにはあまり前例がない。というのも、自分の身体的魅力が作品の意図と関係のないところで観客の欲望をかき立ててしまう、というめんどくささは、特に女性のダンサーにとっては多かれ少なかれ普遍的な問題であるはずなのに、「無視」を決め込むのがなかばお約束になっていたからだ。自分の魅力を棚に上げ(気づかないフリをして)、ひたすらパフォーマンスに打ち込む。「私は女性としてでなくパフォーマーとしてここにいるのです、だから私をセクシーだと見るのは不純だし、失礼です」というわけだ。

 ピンクはどんな戦略をとってくるのか。醍醐味は、例えば初の単独公演「子羊たちの遊覧船」(2005/12/27-28@Pepper’s Gallery)で見せたような、3人が床の上でぐずぐずと絡むシーンにある。私は密かにそれを「動物化」いやもっと具体的に「ヒツジ化」とタイトルにならって呼んでいるのだけれど、まるでエサでも求めるみたいに、四つん這いになった3人のヒツジたちが、がむしゃら半分じゃれ半分でどこかにあるらしい「ゴール」を我先にと目指すのだ。邪魔な背中があれば「メェー」とばかりにその存在に気づかないかのように踏み倒すし、よじ上られた方だって負けじと四つん這いダッシュ。落とされた子は目が回ってそれまでの軌道を見失い、かと思ったらたまたま目の前にあったお尻に反応して「ペチ」と叩く。不器用ゆえの「凶暴」とひたむきゆえの「逸脱」。しまいには、絡み合う2人そっちのけで1人だけ椅子の上にお立ち台で踊り出す始末で(「子羊たちの夕焼けボート」in吾妻橋ダンスクロッシング2006/3/24-25@アサヒアートスクエア)、無作法で非生産的な「必死」の過剰は、「過呼吸乙女ユニット」を自称するピンクの必須科目なのだとしても、それがあくまで相互無関係に高まっていく図太さが何とも痛快なのだ。

 お互いがお互いに対して図々しい。つまりそれはコミュニケーションの拒絶。彼女たちが「動物」なのは何も四つん這いになっているからじゃない。バグったようにふがふがと自分の「目先」と「マイペース」に没頭するその姿を見ていると、もしや彼女たち言語が理解できないんじゃないか?そういえばつぶらな目もどこか焦点が合っていないような気がするし、もしかして人間らしい思考を奪われているんじゃないか?ぬくぬくすり寄ってくるのは、中身が空っぽだからなのでは?と本当にそんな気がしてくるのだ。「見た目のかわいさ」を、「中身の空っぽ感」で突き放す。これが動物ピンクの戦略だ。空っぽの相手を前にするのは、どこか不気味である。

 この動物的空っぽ感は、最近ではアンコールというよりハイライトになりつつあるチアダンス(「わっしょいP!I!N!K!?」とカラオケ的に連呼するオリジナルテーマソングにのって踊る)でも、もちろん濃厚に漂っている。顔にだ。特に一人短パン姿の彼女(須加めぐみ)が秀逸なのだけれど、満面のしかし貼り付いたその笑みは、あのイルカショーのイルカが見せる笑顔そのものである。笑ってない笑顔。100パーセント、サービスでやっている。師・黒沢美香の無表情が「ふてぶてしさ」だとすれば、ピンクの貼り付いた笑顔は「押し付けがましさ」なのだ。拒絶を帯びたハイテンション。しかも、うわ不気味っ!とこっちは身構えるのに、そこですかさず無理した片足立ちが「よろろっ」とバランスを崩したりするから、やっぱりかわいい!とほだされてしまう。にくたらしい。この前の公演(「We Love Pink」2006/8/18-19@神楽坂die pratze)のラストでは、ついにショッキングピンクのビキニ姿まで披露され、完全に毒気に当てられた。もうお手上げだ。悪ノリもここまで来たら、果てまでとことん追求して欲しい。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第8号、9月20日発行。購読は登録ページから。)

【筆者紹介】
 伊藤亜紗(いとう・あさ)
 1979年東京生まれ。東京大学大学院にて美学芸術学を専攻。現在博士課程1年。年末には多摩美術大学で黒沢美香についてのレクチャーをする予定。ダンス・演劇・小説の雑食サイト「ブロググビグビ」はこちら。
http://assaito.blogzine.jp/assaito/

【公演記録】
ピンク(磯島未来、加藤若菜、須加めぐみ)『We Love Pink』-ダンスがみたい!8-批評家推薦シリーズ(松澤慶信氏推薦)
神楽坂diepratze (8月18日-19日)

スタッフ:
照明=宇野敦子
音響=矢守学
※8月18日(金)19:30~の回で松澤慶信氏とピンクのトーク。

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