乞局「廻民」

乞局「廻民」公演チラシしっくり来ない作品だった。
元々「しっくり来ない」「すっきり終わらない」作品を作っている劇団ではあった。
あったけど、今作品に関しては「それが乞局の味だから」とは言い切れないように思う。

地下深くの下水道が舞台である。
そこに都の職員によって人が生きたまま捨てられている。
捨てられた人達が外に出るために行動する、というのが大まかな話の筋で、状況は今までの作品の中でも一、二を争うほど過酷である。
王子小劇場の二階の通路を丸々使って地上と地下、
あるいは地下に延々と広がる下水道を演出している。
劇場中を使っているという点は印象に残った。

人が捨てられる理由、というのは劇中では明らかにされない。
実際に人が捨てられる場面は挿入されるが、
殆どの人は意識を失ったときに捨てられていたらしく、正確な理由は分からない。
上からの理不尽な圧力を匂わせる目的なのかもしれないが、
間接的にでも捨てられる理由が分かったほうが良かったように思う。
あんまりにも捨てられた人達が普通なんである。

話は最終的には、
出口を必死で探していた人達がだんだん「出口を捜す生活」に馴れてくる、
というところを描きたかったらしい。
らしい、というのは、登場人物の一人がそのものずばりのことを台詞で言うからである。
しかし言われるまで全くそんなこと気が付かなかった。

個々の場面は丁寧に描かれているし、
だんだん下水の生活に馴れてくる様も上手い具合に挟まっていて、
そういうところは脚本家の安定した実力を感じさせる。
そう、安定しているのかもしれない。
役者も皆上手いし、話もそれなりに構築できてはいる。
だけど肝心の逼迫感が見ていて伝わってこない。
早く外に出ないと死ぬ、という切羽詰った感じが無いんである。

どうして人肉食絡みのことを全面的に描かなかったんだろう、と思う。
お互いの尿や汗を飲んで水分を補給するようになっても、死んだ人間は食べない。
しかし作品中では何度も「死んだ人間の肉食うとかはだめだぞ」といった会話が交わされるし、ラストシーンでもブラックライトと音だけで人肉食が匂わされる。
なんで全面的に描かなかったんだろう。
もし舞台上で人が「普通に」人を食べたら、それだけで下水の生活に慣れてしまったという事実が伝わりそうなものなのに。

最後のシーンも少し抽象的すぎる気がする。
他の人間を殺すようになった人が死体を食べていて、それを見た人が飛び出してきた、のかな?
今考えてようやく漠然と検討づけられるぐらいである。暗いのでどの役者が飛び出してきたのかも分からない。

分かる人には分かるのかもしれないが、
個人的には観客への説明を怠っているように見える。
基礎的な力が安定しているので充分見るに耐えるが、
ちょっと手抜いてないか?乞局。
最近、見ていて思わず笑ってしまうシーンも挟まるようになってきたので、
次回作では一皮剥けてほしいと切に願っている。

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