X-QUEST「金と銀の鬼」

◎役者の肉体とパワフルな台詞で物語を生きる
葛西李奈(フリーライター)

「金と銀の鬼」公演チラシ剣を交える2匹の鬼の姿に、ぎゅっと心をつかまれた。生まれつきの容姿によって、人間からつまはじきにされ、ひとりぼっちになった弟の唯一の支えは、兄だった。その兄に剣を向けなければならない自分との葛藤が、表情を涙でゆがませたのだろう。人間を忌み嫌う鬼と、共存を望む鬼。どちらにしても、悲劇をつくりだす背景には、差別に気づかず日々の生活を営む人間がいるのだ。舞台を観ながら、そんなことを思った。

X-QUESTは、ダンス・アニメ・SFなど、おもに演劇に他ジャンルの要素を取り入れた公演を打ち続けている劇団である。エンターテイメント色が強いが、物語の流れがわかりやすいお芝居とは、ちょっと違う。観客の想像力をふくらませるかのような言葉遊びを積極的に使用し、真相を煙に巻いたりする。終演後、「あれはどういう意味だったんだろう?」という声が観客席から聞こえてくることもめずらしくない。既成概念にとらわれず、あらゆる舞台総合芸術の可能性を追求し、クオリティを高めたい。創り手からは、そんな心意気が伝わってくる。

今公演の舞台は、人里と鬼の里が対立する社会。小さい頃、髪の色が銀であるという理由から隔離されていた人間シロガネ。シロガネは、鬼のコンジキに拾われ「鬼」として成長する。2人は血のつながらない兄弟として鬼の里を治めていた。そんな中、シロガネは飛行術を研究している人間、ライム兄弟に出会う。空を飛ぶ術をコンジキは知らない。兄を驚かせ…そして喜ばせたい。そんな思いから、シロガネは飛行術の研究の参加を申し出る。シロガネが鬼であることに、ライム兄弟は戸惑いを見せるが、可能性の向上を検討し参加を了承する。鬼と人間の交流が新たにはじまろうとしていた。ところが、鬼の里の頭首をねらうクロガネは、それを利用しクーデターを起こそうと企んでいた。クロガネは金色の髪の毛を装い、ライム兄弟の兄であるライトを殺してしまう。ライトの死に嘆き悲しむ弟レフトは、何も状況を知らないままやってきたシロガネを罵る。やはり鬼は憎むべき存在なのだと。ライトを殺した鬼が金髪であったと知らされたシロガネの怒りは、当然のようにコンジキに向けられる。人間でありながら鬼として育てられた自分の存在意義はどこにあるのか。その思いも合わせてぶつけるように、シロガネはコンジキに襲いかかる。

「金と銀の鬼」公演

「金と銀の鬼」公演
【写真は「金と銀の鬼」公演から。撮影=荒 多惠子 提供=X-QUEST 禁無断転載】

柱となる展開はシンプルだが、入り組んだ登場人物の関係性が物語の奥行きを示唆する。
鬼退治のために旅をつづけるモモ太郎。同じく鬼の討伐をねらう剣士ミドリ丸。唯一、鬼を切れる剣を見守る役目を担う人形、桜満。前半は、鬼と人間の対立関係を描いているが、後半になって、それぞれにつながりがあることが浮かび上がってくる。わたしの印象に残ったのは、モモ太郎の存在だ。襲いかかるモモ太郎に対し、コンジキは「おまえは、おれか?」と言い放つ。桜満は「おまえはこの世界の者か?」と問う。その途端、モモ太郎は家来である獣たちと会話ができなくなる。鬼退治といえばモモ太郎、と何の気なしに納得していたわたしは、謎の提示に興味を惹かれた。モモ太郎は、まだ生まれていない頃のコンジキなのかもしれない。けれどもモモ太郎は人間で、コンジキは鬼のはず…。そんな引っ掛かりを覚えながらシロガネとコンジキの対決を観ていたら、ひとつの真実が明かされた。じつは本当の人間は兄であるコンジキで、弟のシロガネが鬼だったのだ。コンジキは自らの孤独を癒すため、シロガネを助け出し鬼里へ連れ帰ったのだという。コンジキが人間を嫌っていたのは、おそらくシロガネと同じように人間に捨てられた経緯があるからだろう。2匹とも人間に捨てられた傷を背負っていたのだ。この世界では、いったい何が正しいのか。大切にすべきことは、何なのか。人間とは、何なのか。弟の剣により息絶えたコンジキを抱き、慟哭するシロガネの姿は、それを切実に訴えかけてくるようだった。

わたしが思うX-QUESTの魅力のひとつは、役者の肉体を存分に生かしている点だ。端から端まで縦横無尽に動き回り、汗水を流しながらパワフルに台詞のひとつひとつを届けてくる。笑いやダンスが数多く盛り込まれ、そして涙があり、役者がイキイキと物語を生きていることがわかる。その姿を観るだけでうれしくなるのだ。言葉遊びなどに野田秀樹氏の影響があるように感じられるが、その面白さも合わせた他ジャンルの融合を目指しているのだろう。喜怒哀楽をひとつの公演で一度に味わいたい、そんなひとにオススメの劇団である。(2007.9.18)
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第62号、2007年10月3日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
葛西李奈(かさい・りな)
フリーライター。1983年生まれ。日本大学芸術学部演劇学科劇作コース卒業。在学中より、演劇の持つ可能性を活かし『社会と演劇』の距離を近づけたいと考え、劇評とプレイバック・シアターというインプロの要素を含んだ心理劇の活動に携わる。wonderland 執筆メンバー。
・wonderland掲載劇評一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/kasai-rina/

【上演記録】
X-QUEST金と銀の鬼
シアターVアカサカ(2007年9月12日-17日)
作・演出 トクナガヒデカツ

キャスト:
伊勢直弘
トクナガヒデカツ
佐藤仁美
市川雅之
荻窪えき
清水宗史
塩崎こうせい
大西小西
谷口洋行
野地春秋
高田淳
金木孝明
横内亜弓
片桐はづき
宮脇愛
猪狩敦子(bpm)
上杉晋平(オフィス★怪人社)

スタッフ:
作・演出 トクナガヒデカツ
照明 田中徹(テイク・ワン)
音響 中村成志(SoundGimmick)
音響効果 中田摩里子(OFFICE my on)
舞台監督 横尾友広
音楽 隆勇人
振付 野地春秋
衣装デザイン 若原幸
衣装 若原工房
衣装製作 田口裕美
小道具 x-ART
小道具製作 御堂志郎
舞台写真 荒多恵子
アーティスト写真 石澤知絵子
宣伝美術 emmy
殺陣 x-BLADE
演出助手 高野麻里恵
制作 高橋のぞみ 山崎志保
制作協力 SUI
企画製作 X-QUEST アップフロントワークス
主催:オデッセー

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