だるま食堂「お床と女」

◎大らかに、笑ってくれればいい 芸歴20数年の覚悟と間合い
岡野宏文(ライター&エディター)

「お床と女」公演チラシ人間、うれしいことばかりではない。楽しいことばかりでもない。ちょっと憂鬱だったり、人を見たら泥棒だと叫びたくなったり、たまには犬も歩けば棒にガンガンぶち当たるような辛さもあり、つまり劇場に行くのがどうにもおっくうなこともあるものだ。

で、結局最近は滅多に小屋に行かない。体調、良くないしね。それはそれで平穏な日々である。

が、しかし、どんなに調子を崩していても、だるくて仕方なくても不思議と見られる芝居もある。だるま食堂である。森下由美、星野理恵、さとうかずこ、の女性3人によるコントグループだ。80年代から活躍しているから、芸歴は少なく見積もっても20数年。テレビ朝日の伝説の芸能番組「テレビ演芸」で10週勝ち抜いた経歴を持つ。同時期に10週勝ち抜いたのが爆笑問題だった。

で、だるま。演劇というよりはかなりみっちり「芸能」寄りのテイストなのだが、演技が丁寧でしっかりしているからコントと言っても見ごたえがある。お笑いをベースに、美声を武器に(コーラスが抜群に上手い)、たまに稽古不足を暗示しつつも毎回90分をしっかり和ませるのである。最近は暗転中に自作のヘタウマなコント映像を流しているが、これも脱力の出来映えだ。

「お床と女」公演1
「お床と女」公演2
「お床と女」公演3

「お床と女」公演4
【写真は「お床と女」公演から。撮影=伊藤雅章 提供=だるま食堂 禁無断転載】

お笑いというのは自由に見えて、流行はあるし思いこみも多いジャンルと言える。どっかんどっかん笑わせるのが勝ちと思っていたり、知的でシュールでおしゃれじゃなきゃと頑張っていたり、なんか批評的な視線と現代の退廃と若者の無秩序を並べ立てないと気が済まない人達もいて、いや別に思想信条は自由なのだが、どうにも見ている方がへなへなと疲れることが多い。お笑いのためのお笑いなんていうものも、あるよね。

だが、だるまはそのあたりは大らかだ。「笑ってくれればいい」。どっしりした構えである。ネタで湧いてくれれば一番だが、体型を笑ってもいい、衣裳でもいい、とちったり、カんだりしたことでも構わない。すべて器用かつ無器用に笑いに持っていく。誰にでも分かる内容だし、立っている姿は近所の面白いおばさん達でしかないのだが、しかしその不動の覚悟と絶妙の間のとり方は並のものではない。たとえ稽古が足りなくても、これまでの経験と試行錯誤が実り、全編のらりくらりとした隙のなさであふれている。

「お床と女」と題された今回は、男と女をテーマに、たまにぬか床やら旅館やら「床」モチーフもからめつつ、数分の作品を複数構成して展開してみせた。芸達者な森下に頼り過ぎな面もあるものの、それぞれの持ち味を生かした配役ではあった。特に嫁をさとう、姑を森下、「ぬか床の精霊」を星野が演じたコントは秀逸だった。先祖伝来のぬか床をかき混ぜる儀式を姑が嫁に指導するうち、お互いが心に秘めた憎しみをぬか床に八つ当たりさせることで、善良なぬか床の精霊が踏んだり蹴ったりの目にあうというお話。

1度は見てほしい舞台である。確実に毛細血管の血流がよくなって免疫機能が上がる。寄席が近所にあって、こういうのがちょこちょこ見られる日本になってほしいと思うね。
(初出:週刊マガジン・ワンダーランド第68号、2007年11月14日発行。購読は登録ページから)

【筆者略歴】
岡野宏文(おかの・ひろふみ)
1955年、横浜市生まれ。早稲田大学文学部仏文科卒。白水社の演劇雑誌「新劇」編集長を経てフリーのライター&エディター。「ダ・ヴィンチ」「せりふの時代」「サファリ」「e2スカパーガイド」などの雑誌に書評・劇評を連載中。主な著書に「百年の誤読」「百年の誤読 海外文学編 」(豊崎由美と共著)「ストレッチ・発声・劇評篇 (高校生のための実践演劇講座)」(扇田昭彦らと共著)「高校生のための上演作品ガイド」など。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/a/okano-hirofumi/

【上演記録】
だるま食堂「お床と女」
下北沢「劇」小劇場(2007年10月23日-28日)

出演:
森下由美
さとうかずこ
星野理恵

スタッフ:
舞台監督 佐藤昭子
照明 磯野眞也
音響 今国真理子
映像制作 マツバラリエ
衣装 太田家世
宣伝美術 新倉晃
制作協力 ぷれいす

入場料:指定/一般3000円 小中学生2000円

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