桃唄309「月の砂をかむ女」

「月の砂をかむ女」公演チラシSFだった。

ダンスのワークショップなども併せて行っているようで俳優の体の動きが綺麗で、こんなにふわっと動くなら確かにここは重力の少ない天体内の基地なのかもしれないと感じる。
が、その天体が2075年の月の裏側、というのが気になる。
2075年時点の人間は本当に月にいるんだろうか。


状況設定は非常に緻密で、当日パンフには基地の全体像や、月の裏側に基地を作る取り組みが都の管轄で始まっていること、劇中の会話で他国が同じような取り組みをしていたことなどがわかる。

都?
その頃の日本はちゃんと都があるんだろうか。
名古屋に都庁移転計画は実現しないんだろうか。その前に、地球はちゃんと存続してるんだろうか。

何度となく台詞の中には時事的なことが飛び出してくる。覚えてるので言うと

「プラハでね、ほら、例の紛争の時よ。」

という前置きがついた台詞が聞こえてきたりする。
歴史的な事実だけじゃない、ある隊員は基地に昔の彼女が訪れたことで地球の奥さんと喧嘩になる。ねえ、でもそのころ戸籍制度ってまだあると思う?2075年って言ったら孫かひ孫の世代、月に人を送っている地球の事情はどうなってんだろう。
多分にリアリティを出そうとして加味された細かなディティールが、なまじ未来の設定だから現代性を帯びてしまう。

言外の説得力を持った場面だって有ったのにな、と思う。

基地内には二畳の畳が敷いてある。
地球からの物資の供給がなくなっていよいよゆるやかな餓死が迫ってきたとき、基地内の数人が畳スペースに一塊になって座っているシーンがある。
しんと照明が青い。酸素欠乏症にかかっている隊員もいる。
畳スペースのことは劇中一切突っ込まれなかったけど、しんと寄り添った隊員たちを見たとき、これが見せたかったものかと思えた。かなり分量のある台詞がこの場面で途絶える。鮮烈だった。
冒頭、隊員内にアンドロイドがいることを示す場面も上手い。舞台上に続々と集まってくる隊員たちの中で、一人の隊員がアンドロイドの両腕を背中ごしに掴み、筋トレを始めるのだ。
身体で表出したリアリティのほうが断然印象が強い芝居だった。
月面ではなく基地内の一室が舞台ではあったけど、もっと月の重力を感じたいと思った。

<上演記録>
出演
吉原清司 森宮なつめ 吉田晩秋
山口柚香 貝塚建 國津篤志
福岡佑美子 浦出華代 斎藤政希 (劇団レトロノート)

会場
東京/中野 ザ・ポケット

※筆者注……追ってスタッフも追加します。

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