横濱・ リーディングコレクション#FINAL「三島由紀夫を読む!」

◎リーディングの枠を超えた4本、幅広く多彩に
山田ちよ(演劇ライター)

「三島由紀夫を読む!」公演チラシ1人の作家を取り上げ、3~4人の演出家がその作品の中から選んで、リーディング形式で1時間程度の舞台作品をつくる。これが横濱・リーディング・コレクションの基本的なスタイルだ。5回目となる今回は、三島由紀夫が選ばれ、4人の演出家が挑んだ。

私は、この公演の「共催」である横浜SAAC(横浜舞台芸術活動活性化実行委員会)のメンバーで、その関係から、この公演の「主催」、横濱・リーディング・コレクション実行委員会の委員にも入っている。私の役まわりは、主に制作に協力している横浜SAAC事務局の相談役といったところで、作品づくりや作家・作品選びには係わっていない。全5回、17作の舞台はすべて(うち2作はゲネプロで)見た。

今回は最終回(FINAL)と銘打たれた。この企画のプロデューサー、矢野靖人がスタート時、「3年間で区切りを付ける」と決めたことが、理由の一つだ。これまで毎回、読むスタイル、作品との向き合い方などはすべて演出家にゆだねられ、その結果、「リーディング」の枠に収まらない舞台が次々と生まれている。今回もその特色がよく表れるとともに、4人の選んだ作品、手法がちょうどよく散らばり、4本を通じた印象に、幅広さや多彩さをもたらした。

「三島由紀夫を読む!」公演から
【「横濱・ リーディングコレクション#FINAL「三島由紀夫を読む!」」公演フライヤー(表紙)】

Aプロの初め、田口アヤコが取り組んだ『美と共同体と東大闘争』から、既にリーディングの枠を楽々と超えた。テキストは、1969年に行われた、三島と東大全共闘のメンバーとの討論を記したものだ。彼らが投げ合う言葉は、抽象的な語彙とこねくり回したような言い方、一口で言うならば、観念的で難解だ。2時間半に及んだ討論の言葉を圧縮して、1時間ほどで演じたのだが、それでも、言葉に追い付いていくのは大変だった。

素舞台(ほかの3作も)の、中央から少し上手寄りに、田口アヤコがフレアの大きな白いワンピースを着て座り、三島の言葉を読んだ。この格好で男性的なせりふを言うと、見る側が抱いていた三島のイメージは飛ばされ、語られる言葉への関心が促される。三島の発言には、すごみや余裕も感じられるものの、内心は神経質になっていたにちがいない。意外な外見は、そうした複雑な内面を、観客に意識させる仕掛けのようにも見えた。全共闘の人々も、学生服を着た男(久堂秀明)が途中、頭にローマ時代の闘士のようなかぶりものを付けたり、もう一人は「ピンクハウス」の服、つまり、フリルなどの多い服の女(八ツ田裕美)で、それに即したしぐさをしたり、スナック菓子を食べたりする。

「美と共同体と東大闘争」から
【「横濱・ リーディングコレクション#FINAL「三島由紀夫を読む!」」公演から】

パーカッションの演奏家(江村桂吾)も登場する。上手の脇に居て、ボンゴなどをたたき、議論が緊迫してくると、同調するように激しくたたく。しかし、ただ、効果音を出すのではない。せりふは言わないが、「言葉をもてあそぶような議論はうんざり」などと感じたかのように、責めるようなたたき方をして、突然、演奏をやめてしまう場面があった。それで私は、パーカッションの男は、全共闘からも三島からも一歩引いた、第三者的な存在だと解釈したが、後で誰がどういう役だったか、田口に尋ねたところ、江村は「三島2」という。そう教えられると、発言とは裏腹の、三島の内心を表していたようにも思えてきた。

テキストに表されたことから離れた衣装や動き、音楽の挿入などは、意外性を高め、観客を引き込む仕掛けになる。こういった手法は、この企画ではしばしば、と言うか、普通に行われてきた。この舞台の場合、言葉が難解だから、その手法が一層目立った。しかも、例えば、牛の話が出ると、牛の着ぐるみを着た女(音響オペレーションでもある吉田明代)が舞台に現れる、というように、それぞれの仕掛けは、語られる言葉と接点を持っている。接点があるから、観客はいったんは笑ったりしても、再び、難解なせりふを追う作業に戻された。

片山雄一は、戯曲『わが友ヒットラー』を再構成して、普通にやれば2時間近いものを1時間弱で見せた。内容は、独裁体制確立を図るヒットラーが、自ら率いるナチス党内の実力者らを粛正するまでを、ヒットラーと、粛正される運命にあった側近レーム、シュトラッサーら3人の男とのやりとりで見せていくドラマだ。原作を大胆にカットして構成してはいても、流れるようなせりふや豊かな言葉遣いなど、三島がつむぐ言葉の味はしっかりと感じさせた。

「わが友ヒットラー」から
【「横濱・ リーディングコレクション#FINAL「三島由紀夫を読む!」」公演から】

ヒットラーを演じたのは女優(林佐智子)で、口ひげに、ロリータ・ファッション風の黒い衣装を着ている。この趣向は、ヒットラーを脇に回し、男優が演ずるレーム(好宮温太郎)とシュトラッサー(小菅紘史)に焦点を当てる意図から、と見終わってから片山に聞かされた。なるほどとは思ったが、それよりも、再構成のやり方に感心させられた。戯曲のせりふ量を約半分にし、見る側の焦点が2人の内面に絞られるように構成し直す、という作業がなければ、このような演出も生きなかったと言える。

このリーディング企画では、作家の限定、上演時間の制限、けいこ期間(準備期間)が短い、といったことも関係して、原作そのままを使わないで再構成する、という作業が欠かせない。だが、再構成が舞台全体にもたらす影響は、作品によって異なる。この『わが友ヒットラー』の場合は、再構成による上演台本づくりが、舞台全体の出来映えにとって、かなりの部分を占めていたと思う。再構成により、原作とは別個の作品としての面白さを生み、また、原作の魅力を引き出す効果もあったのでは、と察せられた。

Bプログラムの石神夏希が選んだ『三島由紀夫レター教室』は、雑誌に連載されたもので、手紙の書き方を指導する文章と、三島がつくった例文とで組み合わされたもの、という。

「三島由紀夫レター教室」から
【「横濱・ リーディングコレクション#FINAL「三島由紀夫を読む!」」公演から】

舞台上では、このテキストと関係のないようなことが起きる。女2人(寺西麻利子、石神夏希)と男2人(田中新一、吉田能)が登場し、歌ったり、絵を描いたり、テレビを見たり、友達と笑い合ったりする。それと並行して、4人の誰かが何かを声に出して読む。例えば、女がゴミ箱から本を拾い上げ、興味深そうにページをめくり、読み始める。トイレに入った男がペーパーを引っ張ると、そこに文字が書いてあり、驚きながらも読んでいく場面もあった。

舞台上の人物が読み上げるのは手紙の例文で、書き方を指導する文章は、録音の声(下田寛典)として聞こえてきた。録音の声は初め、舞台上にあったテレコのボタンを押すと、流れ始めた。こうして、生の声も録音の声も、何気ない雰囲気で聞かされるうち、『レター教室』という元の作品の特徴が徐々につかめた。書き方の指導では、言葉遣いはもとより、礼儀についても、なぜそうすべきか、理由を示して説明している。例文は、人間関係や設定が凝らされていて、部分的に聴いただけでも、小説風の複雑な展開を想像させた。

4人が次々と見せることは、いわば、日常で簡単に手に入れられる楽しさ、といったものだろう。ペピン結構設計などで石神が書いている作品にも、主に若い世代の日常を感じさせる場面が、よく出てくる。そこから、この舞台は、石神が自身の好きなものや得意分野を生かして、三島という作家の一端を示そうとしたもの、と受け取られた。

最後、〈『近代能楽集』より「班女」〉はこの企画のプロデューサーで、演出家としても過去3回参加している矢野靖人が構成・演出した。

「三島由紀夫を読む!」公演から
【「横濱・ リーディングコレクション#FINAL「三島由紀夫を読む!」」公演から】

『班女』は、愛した男を待ち続ける花子と、彼女を独占しようとする実子、花子が待っていた吉雄という3人のドラマだ。舞台上には実子(百花亜希)、花子(川渕優子)、吉雄(櫻井晋)を演ずる3人に加え、「女」(大川みな子)と「ト書き」(青木佳文)という役の2人が登場した。「女」は時には実子のせりふを語り、時には花子になって語った。私には、それぞれのせりふの中から、強い思いのこもった言葉を取り出して、語らせているようにも聞こえた。

せりふの分け方について矢野に尋ねると、メールで「『女』は、作劇上の設定としては戯曲『班女』に書かれてある言葉を”切実に必要とする”人物として措定しています」などの答えが返ってきた。この企画の初回で福田恆存の『龍を撫でた男』を演出した際、矢野は当日パンフレットに「今回のshelf版『龍を撫でた男』も決して戯曲の紹介というていのものではなく、『私はこの戯曲をこう読んだ!』という別の作品に仕上がっています」と書いた。この言葉通り、この企画中の矢野の舞台はどれも、原作そのものではなく、それから何を感じたかを見せる、ということに取り組んだ跡が伺える。それを裏付けるような答えだ。

ある人物のせりふを、別の人物に言わせるという手法は、これまでも矢野の舞台で使われてきた。それにより、引き付けられることもあれば、分かりづらくなる場合もあった。今回は、「女」が実子と花子の両方を語っていると、すぐに察せられたせいか、この手法がうまく働いたように感じた。言葉による表現力に優れた、三島という作家の特性も関係しているのかもしれない。

ここまでの文章で、横濱・リーディング・コレクションという企画は、本番に向けた稽古の途中段階を見せるものでも、戯曲の内容をそのまま伝えるものでもないことは、伝わったと思う。しかし、制作の手伝い役という立場で、私がこの企画の特徴を新聞記者などに説明しようとすると、「リーディング」という言葉が先に伝わるからか、簡単には理解されない。また、「リーディング」を超えているとは言っても、一方で「舞台上で読む」ことは守っていて、リーディングだからこそ、実現できた面白さもある。今回の石神の舞台のように、読み方の特徴やその変化などが見せどころの舞台も、つくられてきた。

私は、第1回の「福田恆存を読む!」で、前述のような方針で解体された矢野作品に加え、インパクトが大きかった扇田拓也演出の『堅壘奪取』を、事前情報を持たずに見た。『堅壘奪取』は、やり合う主人と客のやりとりを、主人のせりふは男女10人、客のせりふは男女9人で分担して読む、という趣向だった。同じ時、『わが母とはたれぞ』を手掛けた椎名泉水は、劇団でのリアルな動きの演出から離れ、視覚的効果で遊んだりした。こうしたことから「この企画は、テキストを土台にどこまで飛べるか、といったことを目標に、それぞれの演出家の色や力を出し合うものだ」という認識を自然と抱いた。

以後もさまざまな趣向や工夫が繰り広げられた。3回目の「宮沢賢治を読む!」でロックのライブを思わせる趣向で客席を楽しませた大岡淳演出『セロ弾きゴーシュ』(ワンダーランドで小笠原幸介さんの劇評掲載)もその一つだ。一人の作家を多面的に紹介した成果も見逃せない。宮沢賢治などよく知られた作家でも、有名でない作品が引っぱり出され、興味をそそられたりした。

制作側の視点で言うと、この企画が、演出家の育成や支援、幅広い観客への紹介といった役割も果たしたことも確かだ。3~4人ずつ「競作」の形にしたことも、演出家の意欲を刺激したり、互いの交流を促して磨き合う効果を生んだ。その結果、作品の質を上げ、さらには、企画の評判を高めることにも貢献したと言える。横浜を拠点とするstudio saltの椎名とペピン結構設計の石神の参加は、横浜の演劇活性化などを図る横浜SAACの一員としてよかったと思う。

最後となったのを惜しまれるほど、確かな成果に導いた要因は、矢野のプロデューサーとして力量や演劇界でのネットワーク、横浜SAACという組織の特性など、いくつか挙げられる。経済的、人的、時間的な限界が、逆に、プラスに働いた面があるかもしれない。だから、この企画を別の人や組織、地域で再現できるかどうか、はっきりとは言えない。ただ、この企画で行われたことが、演劇のつくり手の育成や支援にとって、重要な参考になると信じている。(2月21日昼・夜観劇)
(初出:マガジン・ワンダーランド第130号、2009年3月13日発行。購読は無料。手続きは登録ページから)

【筆者紹介】
山田ちよ(やまだ・ちよ)
横浜市生まれ。フリーで、ジャンルを問わないライター業と並行して、「演劇ライター」の肩書で劇評、俳優インタビューなどを手掛ける。神奈川県内の演劇動向の取材に力を入れ、神奈川新聞で「かながわの演劇時評」(毎月1回掲載)を担当。横浜SAAC委員、横浜未来演劇人シアター実行委員会委員、神奈川県立新ホール開設推進委員会委員、日露演劇会議会員。個人サイト<a uno a uno>。

【上演記録】
横濱・リーディング・コレクション#FINAL「三島由紀夫を読む!
相鉄本多劇場(2009年2月21日-22日、1プログラム2作品全4回公演)

Aプログラム(21日15:00、22日19:00)
▽『美と共同体と東大闘争』
劇作:田口アヤコ(COLLOL)
演出:全参加者
出演:田口アヤコ、江村桂吾、八ツ田裕美、久堂秀明
研究・出演:角本 敦
音響・出演:吉田明代
照明・出演:小川貴大
衣装・出演:川合恵生
協力:d’UOMO ex machina

▽『わが友ヒットラー』
演出:片山雄一(NEVER LOSE)
出演
アドルフ・ヒットラー:林佐智子
エルンスト・レーム:好宮温太郎(タテヨコ企画)
グレゴール・シュトレッサー:小菅紘史(第七劇場)
グスタフ・クルップ:服部健太郎(タテヨコ企画)
制作:松丸琴子(NEVER LOSE)
協力:NEVER LOSE、タテヨコ企画、第七劇場

Bプログラム(21日19:00、22日15:00)
▽『レター教室』
構成・演出:石神夏希(ペピン結構設計)
出演 田中新一(東京メザマシ団)寺西麻利子、吉田能(PLAT-formance)石神夏希(ペピン結構設計)
声の出演:下田寛典
協力:里見有祐、急な坂スタジオ

▽『近代能楽集』より「班女」
構成・演出:矢野靖人(shelf)
出演
狂女 花子:百花亜希
老嬢 実子:川渕優子(shelf)
青年 吉雄:櫻井晋
女:大川みな子(shelf)
ト書き:青木佳文(shelf)

演出助手:秋葉洋志(shelf)
協力:アトラプトカンパニー

スタッフ(4作共通)
音響:島貫聡
照明コーディネイト:伊藤孝(ARTCORE design)
照明操作:三浦詩織
舞台監督:小野八着(Jet Stream)
宣伝美術:西村竜也
写真:藤倉善郎
制作協力:川井麻貴(SEABOSE)
プロデューサー・総合ディレクター:矢野靖人(shelf)

主催:横濱・リーディング・コレクション 実行委員会
共催:横浜SAAC、横浜市市民活力推進局
助成:(財)私的録音補償金管理協会(sarah)
協力:福永友紀(これっきりプロデュース)、新野美奈子、市村由香、横浜演劇サロン、ほか
料金:前売り2,200円、当日2,700円(日時指定・全席自由席)
セット券(前売りのみ)3,800円

【横濱・リーディング・コレクション#0~#3

#0 福田恆存を読む!
2006年2月8日(水)~12日(日)
『わが母とはたれぞ』演出:椎名泉水
『堅壘奪取』演出:扇田拓也
『龍を撫でた男』演出:矢野靖人

#1 太宰治を読む!
2006年8月23日(水)~27日(日)
『駈込み訴え』演出:椎名泉水
『冬の花火』演出:前嶋のの
『古典風』演出:矢野靖人

#2 宮沢賢治を読む!
2007年2月21日(水)~25日(日)
『飢餓陣営』演出:椎名泉水
『オツベルと象』演出:鳴海康平
『セロ弾きゴーシュ』演出:大岡淳

#3 岸田國士を読む!
2007年8月9日(木)~12日(日)
Aプログラム
『動員神話』演出:楢原拓
『顔』演出:矢野靖人
Bプログラム
『クニヲと俺と。(入門編)』演出:菊川朝子
『紙風船』演出:明神慈
会場はいずれも相鉄本多劇場

【関連情報】
COLLOL http://homepage2.nifty.com/taguchiayako/
d’UOMO ex machina http://web.mac.com/d.uomo.ex.machina/domus/porta.html
NEVER LOSE http://www.neverlose.jp/
タテヨコ企画 http://tateyoko.com/
第七劇場 http://dainanagekijo.org/
ペピン結構設計 http://pepin.jp/
PLAT-formance http://platformance.fc2web.com/
shelf http://theatre-shelf.org/
横浜SAAC http://www.honda-geki.com/saac/saac.html


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