初日レビュー第7回 The Shampoo Hat「砂町の王」

 最近活躍めざましいThe Shampoo Hatは「実存的な劇空間の創造」を掲げ、作・演出の赤堀雅秋が岸田國士戯曲賞の候補になるなど、その実力が評価されている劇団です。前作「沼袋十人斬り」はこれまでとはひと味違った作風をみせたと評判になりました。新作の第25回公演「砂町の王」はどうか-。12月1日の公演初日をみた6人が五つ星と400字でレビューします。掲載は到着順です。

 

「砂町の王」公演チラシ水牛健太郎(ワンダーランド)
 ★★★☆(3.5)
 15年近いキャリアの劇団だけあって、場を成立させる力がすごかった。脚本は、会話や場面の展開など、ため息が出るほどうまい。役者は劇団員・客演ともに力があって個性的。舞台美術もよい。一つ一つのシーンが面白く、緩んだ場面がない。
 しかし全体として見るとどうか。岡部の純情、東のせこさ、高橋の生活者としての図太さ、社長の現実主義、雅史の得体の知れなさ、ヤクザの悪、秀子の女のサガ、それぞれしっかり描かれ、印象ぶかいが、全部を合わせるとぼやけてしまい、立ちあがってくるものがなかった。
 リアルさが売り物のはずが、よく考えるとそれほどリアルではないのも気にかかる。だいたいあんな計画では雑すぎて、早晩全員お縄だろう。大の男一人○○するのは●●●●●の力では無理だ。警察も犯罪を疑わなければ証拠を見逃すこともあるが、最初から事件扱いでしっかり調べられては、ひとたまりもない。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ma/mizuushi-kentaro/

宮武葉子(会社員)
 ★★★☆(3.5)
 不況の直撃を食らったとおぼしき町工場を舞台にした、世知辛い物語。皆が顔なじみという町の中で、色と金のために複数の人間が殺される。薄幸そうに見えるスナックのホステスと、彼女を取り巻く人々を描いたメインストーリーは明確かつ意外性もあり、おおっそうくるか! と思わされて面白かった。ただ、ふとタイトルに立ち返ると、なんだかよくわからなくなる。「砂町の王」って一体なんだったんだろう。途中で正体明かす場面はあったのだが、名乗る前にそもそもどういう人なのか教えて欲しかった。一カ所、過去に戻って種明かしをするシーンがあったが、知りたいのはそこよりむしろもっと前のところだったんだけどな。細部はとてもリアルなのに大枠が曖昧で、全体の印象が拡散したように思った。まぁ、もしかしたらそれも狙いのうちなのかもしれないし(そんな気がする)、細かいことはあまり考えなくてもいいのかもしれないが。見ている間は面白かったので。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ma/miyatake-yoko/

金塚さくら(美術館勤務)
 ★★★
 はじめから、すべてにおいて過剰なのだった。余分や不要ではなく特筆すべき個性として、何かが濃い。中でもとりわけ台詞が過剰だ。沈黙すら過剰な対話は一つ残らず「劇的な名文句」で構成されているかのようだ。それもギリシア悲劇調の劇的ではなく、「さりげない言葉でありながら何か深い意味を持っていそう」な劇的だ。特に深遠な台詞は二度ないし三度繰り返され、劇的な印象を一層強める。
 寂れた鉄工の町を舞台に、労働者やヤクザや水商売の男、魔性の女がささくれた会話を交わす。殺伐とクライマックスへ向かっていく物語は、ハードボイルドでノワールだ。乾いた空気と灼熱と、湿った暴力、閉塞感。古風な映画にありそうなその世界を役者はきっちり体現していて、気がつくと一生懸命に観ていた。
 舞台は気を抜くことなく最後まで徹底して過剰であり、濃密な1時間50分を過ごすうち、そのクドさが妙にくせになっている。つまり多分、気障な舞台なのだ。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/kanezuka-sakura/

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★
 褪めた朱色。淡いオレンジ。照柿とまではいかないが濃いめの柿色。色調は、オレンジ色のグラデーションだ。ここ砂町は鉄の街、それもかなり錆びついてシケた街だから。たぶん鉄を扱う小さな工場が立ち並んでいるのだろう。大きな煙突からはもう煙も出ず、出ている!と見れば、飛行機雲だったり…。舞台となる工場の壁や天井に張り巡らされた太いパイプの色も、そして、虐げられているかに見えて男を翻弄していた女の服や、いいように利用された男が首に巻いていたタオルの色も、鉄の色のバリエーションだったような気がするが、定かではない…。事件も起きるし、人間関係も錯綜している。だが、どこかくすんでいる。像を結ぶことを敢えて拒んでいるように。〈砂町の王〉の正体も薄い闇の彼方。隔靴掻痒だが、それがまた渋味になっているともいえる。山本リンダ「どうにもとまらない」、おニャン子クラブ「セーラー服を脱がさないで」、AKB48「会いたかった」など、時代を彩る歌の使い方が、わざとらしくもあり効いてもおり。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/a/oizumi-naoko/

都留由子(ワンダーランド)
 ★★★☆(3.5)
 町の鉄工所を舞台に、そこに勤める従業員とその家族・恋人、社長、スナックの経営者、闇金業者とその若い(とても若い)愛人などが登場し、幕が下りるときには裁判員裁判の対象になるような事件が二件も起こっている。対象にならない事件もいくつか起きる。どの場面も面白く、意味深な台詞もあって、舞台から目が離せない。おお、そっちから来るのかという展開で、何度か、びっくり+ニヤリとさせられた。ただ、あのように面白く、文字通り劇的な場面が連続して、つい見入ってしまったのに、終わってみれば全体の印象はなんだか取りとめがない気がしたのはなぜだろう。錆びた鉄がこびりついたような舞台装置が、わびしさを醸し出していて印象的だった。「砂町の王」のイメージがよくつかめなかったのが心残りだが、砂町という場所に対するイメージを共有していれば少し違ったのかもしれない。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tsuru-yuko/

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★
 下町の鉄工所、場末のスナック、再婚家庭の暴力…。うら寂れた町で、吹きだまりに寄り集まる人物のカネとオンナに絡む諍い…。道具はもう十分そろっている。劇団の面々は力演。久保酎吉、村岡希美(ナイロン100℃)ら登場する客演俳優の実力にも定評があるから、喧嘩したり怒鳴ったりする場面は迫力があり、おぞましい雰囲気も漂ってくる。それなのに舞台に「肝」が欠けた印象を受けるのはなぜだろう。おなじみの風景と手慣れた道具立てに、作者も俳優らも巻き込まれてしまったのだろうか。この手の舞台が集中力と挑戦心を欠くと、物語のおぞましい骨組みだけが目立ってしまう。「その夜の侍」公演の優れた凝縮力で揺さぶられた経験があるだけに、手持ちの技と力の範囲で取り組んだ作品にみえるのが口惜しい。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/kitajima-takashi/

【上演記録】
The Shampoo Hat「砂町の王
下北沢  ザ・スズナリ(2010年12月1日-12日)
作・演出 赤堀雅秋

出演
村岡 希美(ナイロン100℃)
野中隆光 児玉貴志 多門勝 日比大介 黒田大輔 滝沢恵 吉牟田眞奈 梨木智香 赤堀雅秋
久保酎吉

スタッフ
舞台監督 伊東龍彦
照明 杉本公亮
音響 田上篤志(at Sound)
舞台美術 袴田長武(ハカマ団)
宣伝美術 斉藤いづみ
宣伝PD 野中隆光
WEB製作 野澤智久
舞台収録 原口貴光(帝斗創造)
舞台写真 引地信彦
制作 武田亜樹
助成 芸術文化振興基金
協力 ワンダー・プロ ダックスープ ギュラ エースエージェント コムレイド UZアドベックス
企画製作 HOT LIPS

チケット料金
先行発売 3,500円、自由 前売 3,500円 / 当日 3,500円 指定 前売 3,800円 / 当日 4,200円

「初日レビュー第7回 The Shampoo Hat「砂町の王」」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: shinorev
  2. ピンバック: 高野しのぶ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください