中野成樹+フランケンズ「ザ・マッチメーカー」(初日レビュー第12回)

「ザ・マッチメーカー」公演チラシ 中野成樹+フランケンズ、通称「ナカフラ」は最近、チェーホフ「かもめ」をラップ絡みで上演したり、シェークスピアの「マクベス」を大胆に構成し直したり、冒険の多い季節を過ごしていたようです。今回の舞台では、アメリカの劇作家ソーントン・ワイルダーの作品「ザ・マッチメーカー(The Matchmaker)」(邦題「結婚仲介人」)を取り上げました。これまでナカフラが手がけてきたワイルダーの「特急寝台列車ハヤワサ号」「ロングクリスマスディナー」などとはちょっと色合いの違う作品です。どんな舞台に仕上がったのか。各人各様の評価とコメントをご覧ください。掲載は到着順です。(編集部)

 

▽水牛健太郎(ワンダーランド)
 ★★★★
 いいものを見た。人は根は善良であり、誰もが平等に人を愛し、幸せに、そして豊かになる権利がある。それは一時期のアメリカを覆っていた信仰でしかないが、信仰だからこそ強い伝播力があり、人を動かし、時に現実を規定するほどの力を持った。この信仰には深遠なものは何もないが、現実じゃないからこそ、人を勇気づける。一夜の夢としたら上等の部類だ。
 ちゃんと一夜の夢を成立させるのは細心の配慮が必要なしんどい仕事で、その大変さはシリアスな悲劇の場合と何ら変わりない。どこまで原作に忠実かは、本来形式の問題ではなく、セリフとか筋の問題ですらない。もし今後「ザ・マッチメーカー」の原作の舞台を見る機会があったら、おそらく今夜見たのと全く同じ作品だと感じるはずだ。
 初日ゆえに流れがもたついていると感じる場面もあり、特にラストはちょっと変な間だったけど、すぐ修正されるだろう。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ma/mizuushi-kentaro/

 

▽麓 香緒里(高校2年)
 ★★★
 高い天井に、中央の場面からはけるのに時間がかかってしまうような、上下にも左右にも広い舞台。その広々とした空間の中いっぱいにシンプルなセットを置いて、下手にはグランドピアノ。だれもいない、その場所だけで、センスの良さが伝わってきます。
 まくしたてるようなセリフに、ゆっくりとした間があく。セットも一幕ごとに大きく変わる。それは、言い換えれば一幕をその場所だけでやりきる技術もあるということ。小さく切り取ったシーン1つ1つがとってもキレイで、安心して観ていられる劇でした。
 ただ、ストーリーの先に、どうなるんだろう、というドキドキワクワクの緊張感が感じられなくて、そこが残念でした。思った通りの人たちがカップルになって、付け足したかのように残った人たちもカップルになっちゃって、もっと期待を裏切ってほしかったし、もうひとひねりほしかったと思う。

 

▽片山幹生(フランス語フランス文学)
 ★★★
 折りたたみ式の衝立風舞台装置を使った場面転換のスマートさ、翻訳劇を日本人が演じるときの違和感までも台詞のなかにとりこむ独特の言語感覚の面白さ、リズミカルで音楽的な台詞回しと役者の動きの心地よさ、精妙な照明効果によるスペクタクルの洗練など、「誤意訳」様式の妙を楽しむことができる舞台だった。ナカフラを初めて見た人にはあの軽やかさは新鮮だと思う。また既にナカフラを知っている人の期待にしっかりと応える作品だと思う。ピアノの生演奏もあり、洒落たオーガニックカフェで優雅にお茶を楽しんでいるかような観劇体験だった。堅実で安定感のある舞台ではあったが、作品の演出はこちらの予想の枠内にあり、正直なところ、表現上の冒険が感じられず物足りない。ナカフラ流「誤意訳」様式によって手際よく整形された質のよい工業製品といった感じだった。戯曲に対して維持される距離感、劇中人物の対象化といったクールな演出ゆえこのように感じたのかもしれない。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/katayama-mikio/

 

▽大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★☆(3.5)
 お洒落な作品だ。タッパのある舞台をいかした、モダンですっきりした美術。可動壁を駆使して、金持ち男の邸宅、ハイセンスな女性用帽子店、高級レストランなどが出現するのだが、次々と変化していく、かなりの面積の壁の色が印象的。キャッチコピーとタイトルを大胆に入れた装置なんて、はじめて見た。ピアノの生演奏が、ちぐはぐになっていくお話の展開と相まって、弾んでコロコロ転がっていくような進行感を生み出している。
 全体に、ウエルメイドとも言える滑らかな運びなのだけれど、「完璧」を目指しているというのとは違う。どこかがビミョーにはずしてある。たとえば、衣装。見えるともなくチラ見えの履物が、ちょっと変だったりするのだけれど、その絶妙な変さ加減がイイ。お洒落って、これみよがしにバッチリ決め過ぎたりするのの対極にある。それは、シャイってことと表裏一体でもあるのかもしれない。中野成樹は、ワイルダーの前でも観客の前でもはにかんでいるのだ。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/a/oizumi-naoko/

 

▽岡野宏文(エディター、ライター、元新劇編集長)
 ★★
 「ワイルダーならどうする?ビリーじゃなくて」
 僕も大好きなソーントン・ワイルダーの戯曲「わが町」は、神様と人間が牛耳っていた演劇の世界に堂々と天使を持ち込んでみせたマイルストーンである。人間を見守るだけが仕事の天使の導きで、そんなふうに世界が見えてたら生きてけないでしょワイルダーさん、と言いたくなる絶望の深淵へ我々を連れてくからたまらない。が、片っぽじゃこのおとっつぁん飛び切りのファルスを書いちゃうたくましさもちゃっかり持ち合わせる「心ない作家」なのではと僕は踏んでいる。で本作はそのコッテコッテのファルスの一本。恋人のすれ違い、あらぬ人への一目惚れ、最悪の鉢合わせなど、道具立ては万全だ。なのに僕に笑いの慈雨は訪れなかった。人物がちゃんと類型になってねえんだもん。たとえば若造の言葉をちゃんと聞いて返答する強突く張りの独善オヤジなんかこの戯曲の住人じゃないっしょ。でもって幕切れで一人の女優さんが作品解説おっぱじめたせいで帰宅後僕は寝込んだ。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/a/okano-hirofumi/

 

▽都留由子
 ★★★☆(3.5)
 「仲人」がなくなったのが日本の少子高齢化に拍車をかけていると主張する人に会ったことがある。なるほど、仲人経験すでに○回!なんて自慢する世話好きなおばちゃんが、ちょっと前には結構いたっけ。このお芝居の中でもマッチメーカーの大活躍(?)のおかげで、偶然+一目ぼれ+追いかけっこ+大騒ぎの結果、幕が下りるときには5組のカップルが誕生する。どこを取っても冷静に見ればあり得ない展開であるし、まあ他愛ない一夜のお楽しみっぽいお話であるが、すっかり面白く見せられてしまった。さすが。広い舞台面にすっきりした装置と照明、生演奏の音楽、かなりの台詞をかなりのスピードでしゃべり続ける役者、計算が行き届いていて、高い技術に支えられた舞台だと思う。こういうのを「お洒落で都会的」と言うのだろう。泥臭く、田舎っぽく、古臭いイメージの「仲人」を「マッチメーカー」と呼べば少子高齢化対策になるかしら?
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ta/tsuru-yuko/

 

▽齋藤理一郎(りいちろ、会社員)
 ★★★★
 入口はよくある翻訳喜劇仕立て。そのテイストにピアノや照明でメリハリを作りながら、確信犯的に台詞に状況説明を詰め込んでみたり独白で人物のキャラなどを観る側に流し込んだりと、演劇的な手法を随所に生かして、展開がもつれぬようしたたかに物語の種が蒔かれます。
 それが2幕以降にしっかりと生きる。ドタバタでご都合主義な設定のなかでも観る側に物語の道筋への戸惑いがないから、登場人物たちの感覚や洒落た言い回しに縫い込まれた含蓄、さらには上質で切れ味を持ったウィットたちを十分に味わうことができるのです。
 物語にぶれがないから、終盤の誇張された表現や訪れた結末にもあざとさを感じない。ちょっとしたこと、馬鹿と分別、そしてお金。主人公がそのままに語る物語のスピリットと彼女の想いの種明かしから人生のエッセンスが小粋に零れて。
 丁寧に創意が編み込まれた、豊かで凭れない、作り手のセンスに溢れた洒脱な舞台でありました。

 

【上演記録】
中野成樹+フランケンズ 「ザ・マッチメーカー」(座・高円寺 春の劇場26、第8回杉並演劇祭参加作品、WWW2010参加公演)
座・高円寺(2011年2月25日-3月6日、【休演】3月1日)
原作:ソーントン・ワイルダー『The Matchmaker』より)
誤意訳・演出:中野成樹
翻訳:水谷八也
出演:中野成樹+フランケンズ
 ヴァンダーゲルダー 洪雄大
 リーヴァイ夫人   石橋志保
 コーネリアス    村上聡一
 バーナビー     竹田英司
 アイリーン     斉藤範子(Theatre 劇団子)
 ミニイ       小泉真希
 アンブローズ    田中佑弥
 アーメンガード   北川麗
 ガートルード    斎藤淳子
 ヴァン・ホイスン  野島真理
 コック/オーガスト 多根周作(ハイリンド)
 ジョー/ルドルフ  伊原農(ハイリンド)
 マラキ       福田毅

ピアノ:西井夕紀子

スタッフ:
 誤意訳・演出:中野成樹
 美術:細川浩伸(急な坂アトリエ)
 照明:高橋英哉
 音響:竹下亮
 衣装:今村あずさ
 舞台監督:小林秀雄
 制作:加藤弓奈

料金:全席自由 ¥3,500
企画・製作 中野成樹+フランケンズ
提携 座・高円寺/NPO法人 劇場創造ネットワーク
後援 杉並区
助成 公益財団法人セゾン文化財団

「中野成樹+フランケンズ「ザ・マッチメーカー」(初日レビュー第12回)」への4件のフィードバック

  1. ピンバック: 高野しのぶ
  2. ピンバック: 斎藤淳子

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください