連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第11回

||| 京都の小劇場事情

-京都は観客層としては学生が多いですか? 東京でもどこでも学生が多いのは違いないと思うんですが。いわゆる小劇場ファン、学生ではないおとなのファンみたいな層は育ってきてるんですか?

田辺剛さん
田辺 いるとは思いますが、「層」と呼べるほどの人数が京都だけでいるかというと、疑問です。複数人はもちろんいますけど。大阪から見に来る人なんかも含めてなら、関西全体としては「層」になるのかと思いますが、京都に限ってだと、なかなかそうは言えないかなと思います。

-例えばここ10年くらいで見ると、小劇場ファンというのは増えてはいるのでしょうか?

田辺 小劇場ファンは増えている、のかな? 減ってはいないとは思いますが。増えてるかな? 確かに最近の実感としては、ブログやツイッターでよく感想を見るようになって、もちろんファンは昔からいたはずですが、そういう人がいることを知る機会がよくあるのは最近になってということなんですけども。だけど、ファンの人数が目に見えて増えているという実感は私にはないですね。もちろん増えてはいるのかも知れませんけど、少しずつとか、せっかく増えても生活の事情で引っ越していなくなるとか、微増というところでしょうか。
 京都だけで考えると地元の観客は数としては限られてしまいます。ご存知かもしれませんが、京都の演劇やダンスのカンパニーはある時期からは、作ったものをよその地域に持って行くというのが一つの流れになるんですね。京都でもやるんですけど、プレビュー公演であったり、少ないステージ数であったり。まとまった観客数を求めるようになると、大阪公演ということになりますね。京都でやってなお大阪でもやることもあります。京都プレビュー、いろんなところを回って、大阪でもやる、みたいなことでしょうか。

-それは人口の問題ですか?

田辺 人口の問題もあると思います。それはもう全然大阪とは比べ物になりません。京都の人は大阪にも芝居を観に行きますが、その逆は少ないということもあります。

-大阪はある意味でちょっと衰退してきているのではないかと聞いたこともあります。私にはまだそれは実感としては分からないのですが。精華小劇場が廃止されたとか。

田辺 しっかりとやっているところももちろんあって、民間の劇場で活発にしているところもあるので、すべてを「大阪」で一緒くたにして衰退していると言い切るのは乱暴だと思います。発表の場所が減っていて、よその地域のカンパニーがやってきて大阪公演をしようというときに、場所がなくなっているというのはそうだと思います。精華小劇場はそういう公演を引き受けていたので、精華がなくなってから、大阪飛ばしみたいな、大阪はツアーに入れない、みたいなことはあるかと思います。
 が、数年後に梅田駅の北ヤードに新しい劇場ができることが決まっていてもう動き始めているので、ポスト精華という劇場ができて、そこで大きな流れができるんじゃないかなと思っています。それで精華とか、かつてのOMSのような、はっきりした大阪のランドマークというか、そういうものに期待がつながってはいると思いますね。(衰退しているというのはたとえそうだとしても)一時的なものかなという気がします。

-東京に出て行くというのは大阪の劇団にはよくあることかなと思うのですが。移住してしまうというのがたまにありますね。

田辺 そうですね、ありますね。ただ、大阪・京都に関わらず、残って続ける人もいるし、傾向として捉えるのは難しいですね。

||| 創作の場として京都は恵まれている

-それぞれの人の決断ということですね。創作・制作の場として考えたときに、ある意味で京都は恵まれているのかなと思います。劇場も結構あちこちにありますし、町の大きさが手ごろで、小さくてどこにどういう人がいるというイメージがつかみやすい。しかもその規模で、必要なものはちゃんとある。

田辺 確かにコンパクトにまとまっている感はありますね。私がよく言うのは、友だちの友だちを含めれば京都で舞台を創っている人はだいたい全体をカバーできるってことですね。直接は知らなくても、その間をつないでくれる人はいっぱいいる。そういう意味ではつながってはいますし、行政(京都市)が昔から比較的支援してきたということもあるでしょうね。今の創作環境の良さは先輩たちのおかげなんですけど、先ほどの遠藤寿美子さんとか、舞台芸術協会を作った先輩たち。私たちはその後のレールの上を進んでいるみたいな感覚があるんです。
 京都芸術センターは、審査制ではあるんですが、最長3ヶ月の間、ひとつの稽古場を独占もできて、かつ無料で使えます。実際はお芝居の稽古は普通2ヶ月くらいなので、最初の1ヶ月はぽつぽつ使うみたいなことですが、恵まれていれば1ヶ月前くらいになるとずっと連続して使うこともできます。京都芸術センターには制作室が12室あり、それぞれが午前・午後・夜間に分かれて使えるようになっています。ずっと連続して使えるというのは、つまり舞台装置を建て込んだままにできる、衣装・小道具をそのままにしておけるということです。
 舞台装置をそんなに建て込まないなどの理由で、独占するほどでもないということであれば他団体と共有して使います。京都芸術センターの条件がいいというのはもちろんですが、そこに創っている者たちが集まるということの意味は大きいと思いますね。例えば、喫煙所に土田英生さんがいて、まだ土田さんと話したことがない若い人がそこで紹介されたりとか、そういう機会がある。そういうつながりができるような中心の場所があるというのは大きいですね。京都芸術センターができるまでは、京都市内に点在している青少年向けの施設を使うことが多かったと思います。そこも無料でした(いまは有料)。学生出身の劇団は、大学の施設に忍び込んで練習したり(笑)。京都はそういう事情で昔から稽古場にお金をかける発想がないんですね。劇場をひとつぽんと作られるよりも、この稽古場施設の方がとても意義があることだったろうと思います。

-審査制というのは。

田辺 毎年9月と3月の年2回、募集があります。そこで公演の予定、企画書を出して審査を受けます。

-やっぱり劇団や主宰の方の評価みたいなものが、ある程度反映するのでしょうか?

田辺 そうですね。まずは企画書で、今までの評価なども見た上で審査されると思います。最近言われる問題は、新規参入がちょっと難しいということですね。つまり秋などの演劇シーズンで込み合う時期は、主だったカンパニーがあるとそこが優先されて、若手の、今から!というカンパニーは、まあ館内ではありますが、頻繁に移動する状態にもなってしまうんですね。ただ時期をずらしたり、工夫すれば何とかなるくらいではあるのですが。

-アトリエ劇研の場合は、公演の選択方針というようなものはあるんですか?

田辺 基本的には空いていれば貸します。企画書を出してもらって、私の権限で、面談して劇場としてどういう形で支援していくかを決めます。協力公演、提携公演など冠をつけることで、劇研はこのカンパニーを支援しているんだということを示すようにしています。冠のない一般貸し、協力公演、提携公演、共催公演があり、その順に少しずつ協力の度合いが強まっていきます。

-それは小屋代も違ってくるということですか?

田辺 そうです。実質的には小屋代が違ってくるということです。共催は、年に1本程度ですが、ホール代をチケット収入の何%、というふうに設定します。つまり、劇場としてもリスクを負うということです。パーセンテージは企画に応じて変わるんですが、だいたい40%から50%の間くらい。そういうやり方を定着させようとしています。

-その場合には、当然、劇研でも宣伝するということですね?

田辺 はい、そうですね。観客が少ないと劇場の収入も減る仕組みですので。もちろん、協力公演・提携公演の場合でも、京阪神の劇場にチラシをまいたりはします。
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