極東退屈道場「サブウェイ」(クロスレビュー挑戦編第12回)


真夏の極東フェスティバル公演チラシ
 極東退屈道場は2007年7月にスタートした演劇ユニット(主宰・林慎一郎)です。「サブウェイ」の初演は2010年11月。今回の再演は「真夏の極東フェスティバル」と銘打って、真夏の會「エダニク」と2本立ての交互上演でした。地元大阪だけでなく、8月25日から王子小劇場でも東京公演を開きます。同劇場代表/芸術監督の玉山悟さんの誘いで実現したそうです。クロスレビュー挑戦編に関西公演が登場したのは初めて。東京公演を見る予定の方、このレビューを読んで見るかどうか決めたいという方はご注意ください。舞台内容への言及があるかもしれません。知りたくなければ、万一を考えて、ここでストップ! レビューを読んでから舞台を見るか、見てから読むか、思案のしどころです。なにを読んでも大丈夫という方だけ、禁断の木の実(?)を食べてください。掲載は到着順。では、どうぞ-。(ワンダーランド編集部)
(真夏の極東フェスティバル公演チラシ=右)

カトリヒデトシ(カトリ企画プロデューサー・舞台芸術批評)
 ★★★★★
 30年以上小劇場を見ていると自分なりのデータベースがある。普段は役者や団体の過去作品と比較したりしているわけだが、まれに「あ、これ○○みたいだな」とか「これ自慢げにやってるけど、80年代頭に寺山がやったんだよなぁ」なんてことが起こる。それをことさら「引用だ」とか騒ぐつもりなどはない。それじゃおもしろくないよ、と思うだけである。
 今回の退屈道場はゼロ年代を席捲した団体のテイストを感じるのだが、少しも嫌ではなかった。むしろ多くの演劇人に影響を与え、今や伝説として語られる団体の雰囲気に再び触れられて大変心地よかった。珍しい経験である。
 CMや歌謡曲からのネタの拾い方、そのパロディを作る際の少し悪意を交える手付き。さらにそれらが大きな流れの中で適切な場所にある構成力。ネタの解読が行われると全く別の地平が現れてくる驚き。ストーリーとネタとその奥に流れる批評性という三層のレイヤーの切り方のうまさ。私は欣喜雀躍したのである。
(8月11日15:00の回)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ka/katori-hidetoshi/

石塚理絵(自営業)
 ★★★★★
 この作品にはたくさんの物語が散りばめられている。繰り返し舞台上に出てくる広告に混じり、登場人物の独白などの短い物語や、歴史や聖書まで登場する。私は、それら多くの物語が展開される舞台を見ているうちに不思議な錯覚に襲われた。まるでそれらが全てCMのように並列に並べられているような気がしてきたのだ。テレビのCM群のように同じ重さでそれぞれが迫ってきた。広告も人間も神様も。全部CMの様に思えてきた。そして少し恐くなった。これは一体何だろう。その時地下鉄の中で叫ぶ添乗員の声がした。あの台詞で突然涙がでそうになった。長々と繰り広げられていたCMの中で、ふいに温かいだれかに触れたような気がしたのだ。あのとき私は自分の周りにいるサブウェイの乗客の存在を確かに感じた。私たちが確かに手にできるリアルな感覚は揺さぶられ続ける生への恐れだけなのかもしれない。だからわたしたちはサンポールを飲み多くの物語を消費し続けるのだ。
(8月13日 18:00の回)

広瀬泰弘(ブログ「習慣HIROSE」主宰)
 ★★★★
 昨年11月の初演からこんなにも短いインターバルで再演される。しかも、ここまで印象が異なるものになるなんて、思いもしなかった。これが完全版である。スタイリッシュでスマートな作品が、こんなにも混沌として過剰なものへと変貌した。ドラマの枠組みも台本の構造も基本的には変わらない。ドラマのナビゲーターとして、助監督役を付け足して、全体を書き足してはある。だが、大枠は同じだ。
 地下鉄を利用する7人の男女の告白をフォーローしながら、それが複雑に交錯し、地下鉄という巨大な迷路の中で匿名の人間たちのつぶやきと化す。無言の人々が暗闇を走る箱の中で、吊革につかまり、あるいは椅子に身を預けて、過ごす。
 無意味とすれすれのところで、彼らが生きる日常がそこには描かれる。やがて混沌の混迷度がマックスに達した時、思いもしない所へと我々をいざなう。林慎一郎は無意味にすら見える膨大なCMの引用を通して、それを描いた。
(8月13日18:00の回)

片山幹生(フランス中世文学)
 ★★☆(2.5)
 月曜から日曜までの場に分かれ、各場は一人芝居、群舞、コント風会話劇など雑多な形式が混在する。レビュー的な雰囲気の作品だった。まとまった物語はないけれども、月から木までは連作短編小説のように、登場する人物たちによって緩やかなつながりは示唆されている。しかし金、土、日と進むにつれ各エピソードの連鎖はあいまいになり、状況は混沌としてくる。前半はナンセンスでユニークなコントのアンソロジーとして愉しんで見ていた。場によって芸達者な役者に大いに笑わされたこともあった(ナースが「セックス&ザ・シティ」について語る場はとりわけおかしかった)。後半は混乱が放置・拡大され、事態は結局、収拾されることなく解放されたままで終わる。後半のダラダラ感、うんざりするような冗漫さは作品の持ち味とも言えるかもしれないが、私は途中で飽きてしまった。作・演出家がまとまった世界を構築するのを放棄し、未消化なアイディアが雑然と並べられているように私には感じられた。
(8月12日19:30の回)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ka/katayama-mikio/

水牛健太郎(ワンダーランド)
 ★★★☆(3.5)
 地下鉄を利用する人々の日常が知的で洗練されたセンスで切り取られ、哄笑を呼ぶ断片が積み重ねられる合間に、ひっかき傷のように挿入されるイメージが、徐々に心の底に積もっていき、決定的で恐ろしい何かが立ち上がりそうになる。しかしその姿は地中にいる龍のように、はっきり見えない。気が付けば照明も暗めで、影はくっきりと濃いのだった。黒い舞台、白い衣装。サンポールのボトルの緑。スタイリッシュでもあり、役者のうまさが際立つ舞台であった。見応えは十分だ。
 笑いと怖さのバランスがこの作品の肝。その意味では、やはり終盤が冗長で笑いに流れた。”I have a dream” スピーチでいったん終息感が出るので、「いつまでやるのか」という感じになってしまう。東京公演まであと十日。まだ間に合う。二十分縮めて二時間にしたらどうか。
 締めの椎名林檎で0.5点プラス。
(8月14日11:00の回)
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ma/mizuushi-kentaro/

松岡永子(社会人)
 ★★★★
 電車の発着を知らせる電子音、どちらをみても目に飛び込んでくる広告、とりとめもない考えごと。ばらばらな動きでひとつの流れを感じさせるたくさんの人、人。そんな地下鉄の風景をスタイリッシュに見せる。黒一色の舞台に白い衣装がモダン。
 「白線の内側にお下がりください」
 舞台空間と客席の間には白線が引いてある。意識的に線が引いてあるということは、それを越えられるということも意識している。境界線は映画やTVの画面でもある。CMパロディの羅列はオモチャ箱をひっくり返したようだ。
 一週間が経ち、初めのシーンがやや感情的に繰り返される。地下鉄の一週間は、世界創造の七日間を語る字幕と同時進行。大洪水のあと「神様は虹をかけてくださいました」という白い文字が映し出される。
 モノクロームの世界に言葉の彩りが美しい。
(みごとな舞踏にもわたしは言葉を探してしまうが、見ることに圧倒されるだけでもいい)
(8月14日11:00の回)

【上演記録】
極東退屈道場「サブウェイ」(真夏の極東フェスティバル 真夏の會「エダニク」との2本立て公演)
伊丹・アイホール(2011年8月11日-14日)
作・演出:林慎一郎
振付:原和代
出演:あらいらあ、井尻智絵(水の会)、小笠原聡、門田草(Fellow House)、後藤七重、猿渡美穂、中元志保、ののあざみ

舞台美術:柴田隆弘
音響:あなみふみ(ウイングフィールド)
照明:魚森理恵(GEKKEN staff room)
衣装:福田尚子
舞台監督:塚本修(CQ)
宣伝美術:清水俊洋
舞台写真:石川隆三
制作:笠原希((株)righteye)、尾崎雅久(尾崎商店)

◎伊丹公演(アイホール)
8/11(木) 15:00【極東】 19:30【真夏】
8/12(金) 15:00【真夏】 19:30【極東】
8/13(土) 14:00【真夏】 18:00【極東】*1
8/14(日) 11:00【極東】 15:00【真夏】
アフタートーク  *1:岩崎正裕(劇団●太陽族)

◎東京公演(王子小劇場
8/25(木) 15:00【真夏】 19:30【極東】*1
8/26(金) 15:00【極東】 19:30【真夏】*2
8/27(土) 14:00【真夏】*3 18:00【極東】*3
8/28(日) 11:00【極東】 15:00【真夏】
アフタートーク
*1:楫屋一之(世田谷パブリックシアター劇場部長)
*2:中屋敷法仁(柿喰う客)
*3:竹内佑(デス電所)×丸尾丸一郎(鹿殺し)を迎えてのクロストーク(昼夜とも)


「極東退屈道場「サブウェイ」(クロスレビュー挑戦編第12回)」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: Rie Ishizuka

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