連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第12回

||| 一人一人が満足できるものを

-国内のアーティストやカンパニーを呼ぶ場合は、どういうふうに選ぶのですか。

藤田直義さん藤田 以前は、できるだけ地方で公演をしていないカンパニー、例えば今は活動休止していますけど、「水と油」は地方では高知県立美術館が初めてお呼びしました。「ク・ナウカ」も、1995年とかなり早い時期でしたね。
 できるだけ新進気鋭の劇団、伸びそうな劇団に、また、できれば初演をということでお願いをしていましたが、最近は、当館で制作という方向に移ってきています。当館で制作するにはそれなりの理由がいるので、高知ゆかり、もしくは四国在住といった方々にお願いしてきました。最近では「ポかリン記憶舎」の明神慈さんや、奥様でダンサーの井関佐和子さんが高知出身というご縁がありました「Noism」の金森穣さん、奥様の「ももこん」が高知ゆかりの「カンパニー・デラシネラ」の小野寺修二さんなど。ただ、そろそろ次の段階を考えないといけません。

近藤 うちはあんまり国内外ということは意識してませんが、海外もののパフォーマンスは意外に数多くやっているわけではないんです。強いて分けると日本人の作品が多い。すでにアーティトとしての経験値が高い人から若い人まで、経歴は問わず、必ず、自分自身の中にある実験性みたいなものにトライアルしてみてくださいねと、お話しています。
 時代の流れがあるのでしょうが、特にダンス関係、身体表現者が、劇場という空間でやることに限界を感じ始めた頃に、うちがオープンした。そこである種の期待感というか、あそこだったら何か新しいことができるんじゃないか、という可能性を感じていただけたのだと思います。
 それでレジデントアーティストとして、金沢で作品を作っていただくことを大事にしたいと思ったんですね。いろいろな方が言ってくださるんですが、「金沢は食べ物も美味しいし(笑)魅力的な街だから、ぜひ金沢で創作したい」と。そう思って集中して作っていただけるのがいいんですよね。
 それに滞在制作をやると、うちのスタッフのスキルアップにもつながるんですよ。作っていく過程に参加するのが、制作のいろんなノウハウを学ぶ体験として一番有効なんですね。そういう意味でも、レジデントは年に1回は必ずやりたいなと思います。

-そちらで制作したアーティストとしては、鈴木ユキオさんや白井剛さんなどが印象に残っています。チェルフィッチュは、現代美術家の塩田千春さんとのコラボレーションでしたね。

近藤 はい、そうです。チェルフィッチュはうちの開館5周年を祝って、展覧会の中でのパフォーマンスということで、非常にユニークなものでした。今の学芸課長の不動美里が、彼女自身、太鼓を作ったり、パフォーマンスの経験もあり、「展示作品としてのパフォーマンス」みたいなものを今まで実践してきた一人なんです。あの時も彼女が、展覧会の中でリアルタイムで起こっていく表現ということを考えて、チェルフィッチュが塩田さんと組んでやることになった。あれは本当に、 チェルフィッチュの岡田利規さんにとっても、チャレンジングな作品だったと思います。
 2週間の間、塩田さんの作品のある展示室でずっとリハーサルみたいな形で繰り返されていくパフォーマンスでした。彼らが午後1時から6時くらいの間ずっとやっているところに、お客さんが入ってくるんですが、出入りする時間も自由という形でした。ちなみにこの作品は当館の“収蔵作品”にもなりました。

―ところで、地元の人たちとの付き合い方はどうされていますか。もちろん県や市に対して芸術というものが地域に還元されうることをアピールする必要もあるでしょうし。あるいは、東京や他の地域からお客さんを呼んでくれば、観光という側面もありますよね。それに当然、その地域に住んでいる人たちに直接的に何かもたらすこともできるとも思いますが。

近藤 それを話し出すと長いですよ(笑)。

―では話を絞らせていただきますと、たとえば藤田さんはもともと映画の上映会をされていたとお話にありましたけども、以前、高知の映画上映グループに、知り合いの自主映画監督たちが招聘されたことがあって、私も同行したんですね。その時に高知で文化的な活動をされている人たちにお会いして。たとえば有名な沢田マンションに住んでいるアーティストだとか、倉庫を改造してショップを作っているgraffitiを運営されている方だとか。
 それで結構、地域にも文化的なネットワークが根を張りつつあるのかな、とも感じたんですけども、実際、地方都市において芸術の受容のされ方が今どうなっているのかなというのは気になるところなんです。藤田さんもそもそもは草の根の上映活動をされていたのだと思いますし。

藤田 うーん、実際はまだ、そこまでつながりは生まれていないという感じですね。うちも美術の出前教室を前々からやっていて、今では演劇・ダンス・音楽の出前教室と、どんどんメニューを増やしているんですけど、どこまで実際的に効果があがるのかっていうのは分からない。とにかく、できるだけユニークな作品や今までになかった手法をご紹介して、それにお客様が何百人も来てくれているわけですから、とりあえず何でもチャレンジしてみたい。それは一定程度、受け入れられてきたと思います。
 美術の展覧会でも、たとえば巡回展などは、何千人入りました、何万人入りましたというだけで、アーティストには何ももたらさないわけですよね。現代美術作家の自主企画をすれば、その作家にとってはチャレンジの機会になる。パフォーミングアーツにおいても、できるだけ単に巡回地の1か所ということで終わらない、うちで上演することによって何らかのプラスをアーティストやカンパニーにもたらすことができたらという思いでやっています。
 そのような公演をすれば、県外の人たちも来る可能性があるわけだし、同時に県内のある程度コアなお客さんが集まる。間接的に多くの県民の方が、高知に住んでいても全国から注目されるような作品も来るんだな、と感じられるのではないかと思います。
 音楽でいえば、一般にはクラッシックのコンサートが多いと思うんですけど、人の趣味趣向はそれぞれ違うわけで、一番集客のしやすい公演をやろうとすると同じものばっかりになっちゃう。それじゃ誰も納得しない。逆に一人一人は、全然満足してない。Aさんにとって「すごい。こんなものが見られるんだったら高知に住んでもいいよ」という気持ちになるような、一人一人が満足するようなものを順番にやり続けないと、県民の方は満足してくれない。で、Aさんがすごいって言ってても、Bさんは全然興味がない、でもAさんがすごいって言ってるものをやってるんだ、と間接的に評判になることもある。そういう状況を作りたいと思っています。

近藤恭代近藤 金沢21世紀美術館は、市民とのつながりということで言うと、一番大きなものとしてはたぶん、開館の年に、金沢市内の小中学生を全員招待した「ミュージアム・クルーズ」ですね。3年目以降は、小学校4年生は必ずコレクション展を見にこようという「ミュージアム・クルーズ」を続けてるんです。だから今の金沢市の高校生以下の子どもはみんな、必ず1回は美術館に来たことがあるんです。
 その時に「もう1回券」を渡したんですんね、そうすると、子どもが親を連れて来てくれるんですよ、「もう1回行きたい!」って言って。親が「行こう」って押しつけるんじゃなくて、子どもが自発的に、親やおばあちゃん、おじいちゃんを連れてくるようなことが広がっていったんです。
 ただね、同じことをずっと繰り返していたら飽きちゃうじゃないですか。その都度、そこに何か新しいエッセンスを入れていかないとね。だから現状維持はダメで、いつも、一つ一つのプログラムについて、次はこうしよう、今度はああしようっていうのをやり続けることが、結局、いろんな形でつながっていくのだと思います。それを「まあいっか、今回は」って妥協してしまうと、出てくるプログラムに反映されて、どこかでお客さんにキャッチされちゃう。
 開館時、うちの美術館は、市民の方から距離感があったそうなんです。非常に否定的な人もいて、タクシーの運転手さんの対応で分かるらしいんですけど、最初の頃は「あー、あそこね、なんだかね…」と言われてた。ところが今じゃあ「あ、あの美術館いいですよ。自分も行ったけど」と、そんなふうに答えてくれるそうなんです。
 今年の1月にすごくいい体験をしたんです。白井剛の「THECO」をやったんですけど、いつも来てくれてる友の会の方が「THECOって何なのかよく分からなかったんだけど、とりあえずシアター21に行けば面白いのやってるから、それで来たのよ。何かよく分かんなかったんだけど、すごく良かったわ!」って言って帰っていかれた。そういう言葉を聞くとこちらも、ああ、やってて良かった!! って。ここに行けば知的好奇心を満足させられるっていう場所であり続けるために必要なのは、一言で言えば「おもてなしの心」かなと思います。それを忘れず頑張り続けないといけない。上から目線とか、美術館だからこうしなきゃいけないとか、そういうふうに考えてしまうと意外とうまくいかないですね。( >>

「連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」第12回」への24件のフィードバック

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