オイスターズ「雑音」(クロスレビュー挑戦編 第15回)

「雑音」公演チラシ
「雑音」公演チラシ

 オイスターズは名古屋を拠点に活動してきた劇団。座付 作・演出家の平塚直隆さんは、仙台劇のまち戯曲賞大賞、劇作家協会新人戯曲賞最優秀賞、若手演出家コンクール優秀賞を受けるなど高い評価を得ています。劇団サイトには「くすぶる可笑しさ すこぶる快感 ~トッキントキンに研ぎ澄まされた脱力系会話劇」とありました。クロスレビュー挑戦編に名古屋の団体が登場するのは初めて。7月の名古屋公演に続く、満を持しての東京公演はどうだったでしょうか。レビューは★印の5段階評価と400字コメント。掲載は到着順です。(編集部)

カトリヒデトシカトリ企画プロデューサー・舞台芸術批評)
 ★★★
 私は2010年度劇作家協会新人戯曲賞受賞作の「トラックメロウ」を名古屋で見ているので、このカンパニーの力は知っている。今回、なんとも難しい球を放ったものだと思う。言語学でいうところのシンタックス(どうことばを配列するか)。シンタグム(そのことばが語彙の中から選ればれる理由)。それぞれを惑乱させ、攪乱させ、線的に進行するのを避けていく。だから尻尾をつかまれるのを恐れるようにストーリーは外れ、逸れ続けていく。ブニュエルの「自由の幻想」のようだ。そういう作りなので、意地悪な言い方になるが、観客を劇世界に引き留めるためにはナンセンスな「笑い」を採用するしかなくなる。知名度が定着し観客がついてる地元でなら、こういう作品をぶつけるのもよいだろうが、知名度のない東京でいきなり提示するのはかなり苦しいと思う。カンパニーのイメージが、単に面白いことをやるところと思われたのではかなりもったいない気がする。
(9月26日14:00の回)

「雑音」公演の舞台写真1
【写真は、「雑音」名古屋公演から。撮影=新井亮 提供=oysters 禁無断転載】

高野しのぶ(現代演劇ウォッチャー/「しのぶの演劇レビュー」主宰)
 ★☆(1.5)
 ここ数年間で俳優の至芸を味わう機会を幾度も得られた。俳優が未熟でも物語や演出の面白さに魅せられ満足することもあるが、私は基本的に、舞台は俳優次第だと感じている。
 『雑音』は見知らぬ者同士が共にある目的地へと向かう道程を描いた不条理劇だ。出来事に必然性はなく、人々は衝突やすれ違いを無視するので物語は重要ではない。表層的な言葉を重ねるコントのような会話には興味が持てず、笑えなかった。たまに入れ子構造を匂わせるが、深読みできる余白が増すわけではなかった。
 意味も主張も主だって表すことのない脚本で、おそらくかみ合わない会話のおかしさや、不可解な事象から立ちあがる恐怖などが見どころなのだろう。美術、音響、照明等の演出効果を敢えて抑えたがゆえに、俳優への負荷は大きく、残念ながら俳優はそれらの課題に応えられていなかった。
 まだ「試してみた」段階なのだと思う。過激な挑戦を続けるうちに、いつか劇団特有の空気が生み出されることを願う。
(9月24日19:30の回)

宮本起代子因幡屋通信発行人)
 ★★☆(2.5)
 車で移動しながらの噛み合わないやりとりは、「別役実風不条理ロードムービー」のおもむき。作者の得意な手法らしい。
 タクシーの車内なのに人物を横並びにする見せ方や、絶妙な間合いの台詞の聞かせ方は実に巧みで、客席から笑いが絶えない。
 いっしょに移動しているように見えて、もしかすると彼らはまったく違う場所で、それぞれが見えない相手に向かって一方的に話し続けているのかもしれず、現代人の絶望的な孤独と荒涼たるディスコミュニケーションの様相を描いているという捉え方もできる。
 しかし結局のところ、作者は何を見せたかったのだろうか?
 俳優は戯曲のリズムをよく体得しており、人物のなかでは正常にみえる男1(平塚自身が演じる)、ほんとうに怖いのはこの人ではと匂わせる女1(経理社員)の立ち位置によっては、劇世界を予想外の地点へ導く展開もあると思われ、ある一点に向かって物語がじわじわと不気味に凝縮していく高揚感がほしかった。
(9月26日 14:00の回)

プルサーマル・フジコBricolaQ主宰)
 ★★
 漫才っぽい冒頭のやりとりから醸し出された不条理への期待は、残念ながら、登場人物が増えるあたりから低空飛行に沈んだ。ツッコミが単調で説明的なせいか、どんなボケも「正常の軌道」=「既視感のある予定調和の流れ」へと押し戻されてしまう。これでは、心霊写真や屋根裏部屋のネズミといったせっかくのモチーフも活きてこない。グルーヴ感がないためか、書かれたセリフを順繰りに喋っているように見えてしまった。まあ、とはいえですね、タクシーに乗り込む後半あたりからはちょっと持ち直した。特にあの、幸せを運ぶ運転手(笑)が「お前だーっ!ハッハッハ」と繰り返し悪ノリするのは、あんまりにもくだらなくってわたし好みでした。ああいうのは好き。でもきっとオイスターズの本領は「ん?」で切り返していくあのやりとりだと思うのですが。
 せっかくの遠征公演でもあるし、妥協的なサービス精神はむしろ不要。観客の受容力や欲望を信じて、もっと突き進んでほしかったです。確かにそれっぽいツッコミを入れれば、観客は条件反射的に笑いを洩らすかもしれない。でも果たしてそれが心に残るものになるのかっていうと……? どうですかね。もっと訳分からなくても全然オッケーじゃないでしょうか。東京だから、ではなく、どの土地であっても、もっと攻めても全然大丈夫だとわたしは思うのです。きっとそれが新時代のエンターテインメントではないかと。
(9月26日19:30の回)

「雑音」公演の舞台写真2
【写真は、「雑音」名古屋公演から。撮影=新井亮 提供=oysters 禁無断転載】

川端康史(投稿雑誌InsideOut代表)
 ★★★★
それは会話であった。
単に最初から会話であった…ように見え、しかし、最後舞台に残る保険の外交員が、否が応にもそれが単に会話ではなかったことを突き付けてくる。
外交員。
構造としては舞台表現上での“語り”に、入れ子的に“舞台表現”を組み込むことで生まれるメタ演劇的な様相を呈しているが、最後に残された外交員、彼のみがその解釈を頑なに阻む。
外交員!
彼は何のために用意されたのだろう? 観客はそう考えながら、結局回収されなかった伏線のあわいを佇むことになる……。
これが、意外にも不快ではないのだ。
外交員の存在は、作品のメタ的構造やコンテクストと相まって、伏線の回収などどうでもよくなってしまう奇妙な場を生んでいる。不思議に笑いのこみ上げてくる伏線キャンセルとでも呼ぶべき場! これは相当な事態だ!
その場に居たものしか味わえないこの感覚を、是非皆々様方も。
(年9月26日 19:30の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★
 大学時代の友だち同士の男2人。韓国料理の出ない韓国料理店の店長とコック。最初に出てくる男の妹の彼氏らしきパン屋の若い男。彼らの話は、どこまでも笑っちゃうくらいに噛み合わない。一見、人のことはおかまいなしで、自分の向いてる方向にどんどん穴を掘っているようにも見える。でも、どこかでだれかが、もう俺やってらんねーよと帰ってしまってもおかしくない状況なのだが、だーれも帰らない。それどころか、主要な登場人物はその順で、2人→4人→5人と増えていくのだ。意気投合するわけでもないのに、皆ずーっと一緒にいたい奴らなんだなあ、同じ穴の貉かぁ(!?)と、そのぬる~い体温の伝わってくるのが持ち味。ただ、ナンセンスな会話を重ねているようでいて、不条理というよりむしろ条理のストーリーに収束していく感じが物足りない。もっともっとナンセンスが深まって、わけのわかんないとこにどん詰まっていく方が面白いんじゃないかなあ。そのためにも、ゆるんだパンツのゴムみたいな芸風はいかして、でも意外にしぶとい弾力性があるんだというくらいの底力をつけてほしい。「コメダ」など名古屋独特の固有名詞を入れ込むタイミングと“お洒落”じゃないセンスがいい。
(9月27日14:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★★☆(3.5)
 大学時代の知人から、男は相談される。何の気なしに撮った写真に、そこにはいないはずの妹が水着で写っていたという。その後撮った写真にも妹は水着で写っていて、写真の中で妹に首を絞められていた韓国料理店のコックは具合が悪くなる。その呪い(?)を解くために男と知人とコックと韓国料理店の店長は、おかしな運転手の乗ったタクシーで名古屋中を移動する。というような話の筋は、ほとんど意味がなさそうだ。ひとつひとつは自然な会話が、つながっていくと、何とも奇妙で訳わかんない展開となり、でもおかしくて大笑いしてしまった。必要ないことはばっさり切り捨てられ、だから舞台上には何の装置もなく、韓国料理店でもタクシーの中でも、全員、並んで立っている。結局、妹が写真に写りこんでいた説明もない。それなら最後に妹の駆け落ちなんかを持ってこないで、最後まで何だかわかんないままの方がもっとよかったようにも思うが、わたしには好みでした。
(9月26日14:00の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★★
 写真を撮ったら、そこにいないはずの妹が写っていると、男が友人に話しかけるシーンから始まる。やがて料理の出てこない韓国料理店に入り、コックを連れ出してタクシーに乗り込み…とこの話はずるずるとつながっていく。起承転結で追い込んでいくドラマづくりではなく、水が低きに流れるように、文字通り話しの展開に乗っていくスタイル。最初に植え込んだタネを大切に、肥料をまき水を注いで育てる。伸びる枝は存分に伸ばし、力尽きる寸前で刈り込む。タネが違えば咲く花もまた別になるだろう。その手並みはもう練達芸だ。日常を無意識に苦もなく過ごしている人には、笑った後にそこはかとない不安をのぞかせる、不条理テイストの「静かなコメディー」ではないか。安心してみられる逸品だが、それだけに話の徘徊経路が手癖、書き癖という想定の範囲内におさまり、不安と焦燥をわがことにしているぼく(ら)には物足りない感も。
(9月27日14:00の回)

【上演記録】
オイスターズ第9回公演「雑音」-こまばアゴラ劇場サマーフェスティバル〈汎-PAN-〉参加公演
作・演出:平塚直隆
こまばアゴラ劇場(2011年9月24日-27日)

●キャスト
中尾達也 山田マキオ 田内康介 河村梓 伊藤寛隆 吉田愛 二瓶翔輔 高瀬英竹 平塚直隆
●スタッフ
舞台監督:柴田頼克(電光石火一発座)
照明:今津知也(オレンヂスタ)
音楽:青井美都・河村梓
音響:田内康介
宣伝美術:奥田マニファクチュア
制作協力:加藤仲葉
劇団スタッフ:古川聖二・新美要次
●チケット料金
一般 前売 ¥2,500 当日 ¥2,800
一般平日昼割 前売 ¥2,000 当日 ¥2,300
学生 前売・当日共 ¥1,500
学生平日昼割 前売・当日共 ¥1,000
●アフタートーク
9月26日(月)14:00 柴幸男(ままごと)
9月27日(火)14:00 矢内原美邦(サマーフェスティバル・ディレクター)

【東京公演】
主催:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
技術協力:鈴木健介(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)
芸術監督:平田オリザ

【名古屋公演】
七ツ寺共同スタジオ(2011年7月22日-25日)

【参考情報】
togetter「オイスターズ『雑音』【東京公演】」(oysters作成)
 

「オイスターズ「雑音」(クロスレビュー挑戦編 第15回)」への12件のフィードバック

  1. ピンバック: ワンダーランド
  2. ピンバック: ワンダーランド
  3. ピンバック: 矢野靖人
  4. ピンバック: 矢野靖人
  5. ピンバック: 野村政之
  6. ピンバック: なか
  7. ピンバック: オイスターズ
  8. ピンバック: 高野しのぶ
  9. ピンバック: カトリ ヒデトシ
  10. ピンバック: 川端 康史
  11. ピンバック: アサコ クロサキ

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