エイチエムピー・シアターカンパニー「最後の炎」(クロスレビュー挑戦編第16回)

 「エイチエムピー」は“Hamlet Machine Project”の略。1999年にドイツの劇作家ハイナー・ミュラーの『ハムレットマシーン』を上演するために集まり、2001年から大阪を拠点に劇団として活動を始めました。かなざわ国際演劇祭、大阪現代演劇祭〈仮設劇場〉WAなど多くの演劇フェスティバルに参加。実験的な舞台創作とリアリティを追及する手法が評価されているそうです。今回は「同時代の海外戯曲」シリーズ第1弾。現代ドイツを代表する劇作家デーア・ローアーの2008年の作品を取り上げました。伊丹公演の後、仙台で10月28日、川崎で11月3日-6日に公演が予定されています。レビューは★印による5段階評価と400字コメント。到着順の掲載です。(編集部)

 

広瀬泰弘(ブログ「習慣HIROSE」主宰)
 ★★★★
 演出の笠井友仁さんのアプローチは主人公に寄り添わないことだ。悲劇の当事者から距離を取るだけでなく、彼らが果たして受け身の被害者でしかないのか、その悲劇はただの偶然にも外側からやってきた不可抗力でしかなかったのか、と問いかける。彼らが内包している悲劇への予感、果たして来るべきものが来てしまっただけではないのか、というあきらめ、そんな感情も含め、ここに生じた事故と、それを巡る物語を見せる。
 単純な善悪の2分法ではなく、加害者と被害者という図式も反故にして、全体をもう一歩引いたところから見つめる。セリフとト書きが混在し、いつのまにかすり替わっていき、演じ手は、自己と他者とを等価に見つめる。ビデオによる映像、リーディングの手法も取り込みながら、笠井さんは徹底的に彼らを冷徹に見つめていこうとする。
ここにいるすべての人々がこの芝居を作り上げる。8歳の少年の死を巡る出来事が彼らの再生に向けての第一歩となる。
(10月20日19:30 の回)

水牛健太郎(ワンダーランド)
 ★★★☆(3.5)
 今回の上演で知った戯曲「最後の炎」は素晴らしい作品である。この作品に取り組んだ意欲と気概を高く評価したい。
 上演はこの戯曲の魅力がフルに引き出された時の姿を想像させるに十分だったが、実際の上演自体はその想像に及ばないきらいがあった。大きいのは技術的な限界だ。
 この戯曲は登場人物のセリフにあたる部分と、その動きや情景、心情までも語るナレーションが区別されず、発話者を指定しない形で書かれている。俳優は登場人物として演技しながらのセリフとナレーションとを、モードをスムーズに切り替えながら、どちらも説得力を持って発話しなければならない。主役級の二人はそれができていると思ったが、他のキャストはばらつきがあった。
 全体にテンポが速めで、個々の場面よりは全体としての構築を重視したとのことだったが、何しろセリフが素晴らしいのでもう少しじっくり見たい場面も多かった。
(10月23日15:30の回)

髙木龍尋(高校講師)
 ★★
 美しい作品であった。ひとつの事故とひとりの子どもの死から始まる、閉鎖された人間関係と精神的な圧迫の物語を、ここまで美しく舞台に載せることは容易ではないだろう。何より、モノローグを多用するこの作品においては役者の力量も高いレベルで求められる。綿密な計算がなければ、この作品は成り立たない。
 ただ、美しいのだ。ただただ美しくて……退屈でならない。題名ともなる「最後の炎」はおそろしき寂寞の「炎」であったが、その寂寞の激しさに乱調が伴わないはずがない。《美は乱調にあり》とは誰の言葉であったか。私の個人的な性質もあって、完成された構図に立ち入れず、絵画を観るような気分になった。その中に激情を十二分に感じることはできたが、もっと別の「最後の炎」があったのではないかという思いがどうしてもしてしまう。もっと乱れきった麻のような「最後の炎」が。
(10月23日15:30の回)

松岡永子(社会人)
 ★★★
 登場した人達は互いに軽く挨拶し、座る。全員揃ったところで始まるのは、八月真昼、男の子が交通事故死した、そのあとの物語。
 裁判のようだなあ、と思う。誰かに罪を負わせるためではなく、何があったのかを明らかにし整理するため、証言を集めてみる。部分を全部集めても全体にはならない。それでも、うまくいくこともある! というオプティミスティックな台詞で始まる。
 これは証言なので、皆が静聴し見つめる。演じていない登場人物も舞台上の薄暗がりにいてじっと見ている。本来、語りごとはこんなふうに大切に扱われる必要があるのではないか。
 舞台前方中央にはサッカーボールがあって、もうここにいない男の子は最も慎ましくすべてを聴いている。
 一方、登場人物が手にしたビデオカメラは侵入的。暴力的に撮り、ちょっとしたタイムラグを伴って背景のスクリーンに映し出す。
 全ての場面が丹念に作られている。その分、集中し続けるのはそれなりの負担。
(10月22日19:30の回)

【上演記録】
エイチエムピー・シアターカンパニー「最後の炎」 <同時代の海外戯曲1>
第3回むりやり堺筋線演劇祭参加作品 平成23年度文化庁芸術祭参加公演
【伊丹公演】アイホール

作=デーア・ローア 『最後の炎』
翻訳=新野守広
演出=笠井友仁

出演=
高安美帆
森田祐利栄 
西田政彦(遊気舎)
武田 暁(魚灯)
澤田 誠(Amusement Theater 劇鱗)
堀部由加里(劇団五期会)
山川勇気
澤野正樹(仙台シアターラボ)

作=デーア・ローア 『最後の炎』
翻訳=新野守広
演出=笠井友仁
ドラマトゥルク=くるみざわしん(劇団_光の領地)
舞台美術=児島三郎(Work shop S)
舞台設計=畠山博明(イロリムラ)
家具製作=住友翔次郎(ni:naruki)
映像=サカイヒロト
舞台監督=塚本 修(CQ)
照明=西岡奈美 坂本幸子(Jelly Beans)
音響=宮田充規(Gekken staff room) 竹下祐貴
宣伝美術=松本久木(松本工房)
演出助手=岡田蕗子
記録撮影=いわしの頭
制作協力=尾崎雅久(尾崎商店) 森 忠治(トライポッド) 藤田晶久(palette&bullet)
協力=イロリムラ 劇団ひまわり (有)ライターズカンパニー
提携=AI・HALL、川崎市アートセンター
後援=ドイツ文化センター
助成=芸術文化振興基金
主催=エイチエムピー・シアターカンパニー

[トーク・ゲスト]
10月20日=西堂行人(近畿大学教授)
10月21日=市川 明(大阪大学教授)
10月22日15時30分=新野守広(翻訳者)
10月22日19時30分=細見和之(大阪府立大学教授)
10月23日=ウォーリー木下(sunday・オリジナルテンポ)
(敬称略)

前売2,800円 当日3,300円
学生・障がい者・シニア(60歳以上)2,000円(当日受付にて証明書を提示)

【伊丹公演】 アイホール 2011年10月20日(木)~10月23日(日)
【仙台公演】 エル・パーク仙台スタジオホール 2011年10月28日(金)
【川崎公演】 川崎市アートセンター アルテリオ小劇場 2011年11月3日(木/祝)~11月6日(日)

「エイチエムピー・シアターカンパニー「最後の炎」(クロスレビュー挑戦編第16回)」への5件のフィードバック

  1. ピンバック: 尾崎雅久
  2. ピンバック: 尾崎雅久
  3. ピンバック: 小暮宣雄 KOGURE Nobuo
  4. ピンバック: 小暮宣雄 KOGURE Nobuo
  5. ピンバック: 水牛健太郎

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