絶対安全ピン「one box 四角い私たちの様子は」(クロスレビュー挑戦編第17回)

今回の「one box」は若手演出家コンクール2007優秀賞受賞作の再演ですが、原型をとどめないほど変わった、と劇団Webサイトに出ています。「想像しえない『宇宙が出来る前』を無理やり想像して、どれだけでたらめなことを語れるかという芝居」だそうです。
レビューは★印による5段階評価と400字コメント。掲載は到着順です。(編集部)

 

大岡淳(演出家・劇作家・批評家)
 ★★★
 ギクシャクした俳優の身体の使い方や、意味をはぐらかす台詞回しが面白く、方法化されている点に好感を持った。音楽に頼らない音楽劇の趣がある。ただ、人物の造形がいずれもchildishなのは、寓話だから必然的なのかもしれないが、既視感がつきまとう。その寓話の内容も「神々が宇宙を創造する」という抽象的なもので、これを俳優たちが決してシリアスではなく、ユルい調子で演じていく。childishな人物像も、抽象的な寓話も、ユルい空気感も、それぞれ、どこかで見たという気がしてならない。その合成のしかたにオリジナリティがあると言えば言えるが、演技スタイルに本当に見合っているかどうかは疑問が残る。例えばベケットの『ゴドー』は抽象的で不条理な世界を描いているが、同時に、作者の心に刻みつけられたナチス支配下のフランスの風景を描いているとも解釈できる。そのような、抽象性に奥深さを与える固有性を獲得できるかどうかが、この劇団の今後を左右するだろう。

山田ちよ(演劇ライター)
 ★★★
 宇宙という入れ物の外側で、それをつくる神々がだらだらと話している…。面白い話が広がりそうな期待が持てたし、箱を生かした視覚的効果は利いていた。しかし、それだけで観客を付いてこさせるのは難しかった。内容のユニークさに演技が付いていっていない気がした。神々を普通の人間のように見せたいなら、変なイントネーションは不要だし、逆に、人間とは違うものと感じさせたいなら、鮮やかな差を演技で出すべきだ。観客に「分かりやすいドラマかと思って一生懸命見ていたら、シュールな話だった」と言わせるような、演技と中身のギャップで仕掛ける手もあるのではないか。
 この作品は、何か一つのものにこだわって話を繰り広げる「ONEシリーズ」の一つだという。箱にこだわり、話がどこかへ飛んでもまた箱に戻る、という造りは安心できた。箱の話にはうまく乗れなかったのだが、このシリーズはほかのも見てみたいと感じた。
(10月21日19時の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★☆(星2.5)
 「こんこん、こんこん、釘をさす…ワラの人形、釘をさす…」という山崎ハコの『呪い』が、開演前に流れていて不吉な予感(笑)…と思いきや、オープニングで登場人物たちの歌う替え歌の歌詞が「霧が峰」→「死神ね」→「犬神家」→「犬がミケ」と変わっていって脱力系な可笑しさ。タイトル通り、舞台上手にはそれなりの大きさの箱。そこに「刺さっている」ものがあり、どうやら女性らしいが、逆さに突っ込まれている格好で足の先だけが上に出ている。しばらくして箱から這い出すのだが、その女も含めて、出てくる人物たちは全知全能の神、箱の中は神が造った宇宙らしく、そこから、アダムやイブが現れたりもする。
 天井からぶら下がっている長いファスナーを世界の出入口のように見立てたり、カニ缶を小道具にして「KAMI」にも「KANI」にも「AI」があるとオチをつけるアイデアはちょっと面白いのだけど、チラシやパンフにあった「ブラックボックス」性への期待感がイマイチ不完全燃焼に終わったのが残念。刺さっている女神は、最後まで刺さってたらどうなのよとか、観客は無理無体なことを要求したくなるのです。
(10月19日19:00の回)

鈴木励滋(舞台表現批評)
 ★★
 会場全体が冷めていた。合唱のような部分もあったし、踊りをあわせるようなこともしていたが、一向に温まらない。いかにも笑いが起こりそうな場面でもほとんど沸かず、単にわたしが意地悪な見方をしているという訳ではなさそうだった。
 その原因は未熟さなんだろうか、とも思ったが、当日パンフの理屈っぽい文章からは考えすぎなくらいの印象を受けた。考えすぎているのに表されたものは洒落も風刺もいまひとつな「お笑い創世記」。全般的におどけて見せていたように映ったのは、観客を見くびっていたのか、それとも格闘せねばならぬ相手からの逃避であったか。
 その結果、「どれだけでたらめなことを語れるか」作ったらしいものの、肝心の“でたらめ”の跳躍が致命的に低く終始した。破天荒を標榜しつつ、「常識」の枠の中でのおふざけに興じたにすぎない。それは、枠をブチ破る彼らなりの必然を、じつは見出せていないからなのではなかろうか。こんな時代に抗するような表現を成り立たせるために、“でたらめ”はひとつの有効な手立てだと、わたしは思っている。そうせざるをえない切実さを纏わぬ、自己目的的な「でたらめ」では、ひとを熱く揺さぶることなんて望むべくもない。
 背伸びなどせず誤魔化さず表したいものを突き詰めれば、たとえ形象がドタバタでも駄洒落でも、観る者が捉えられてしまう何ものかが舞台上に現れたはずである。
(10月21日19:00の回)

プルサーマル・フジコ(編集者、BricolaQ主宰)
 ★☆(1.5)
 中身の見えない箱の存在をブラックボックスに見立てる。その着眼点は面白いと思ったし、意味不明ながらリアリズムに寄り掛からない展開は幾ばくかの可能性を感じながらも、いかんせん演出による俳優の演技があまりにも古くさくてつらかったです。近年の演劇が果たしている話法に関する達成・更新を、(批判的な継承でもいいので)もっと真摯に受け止めたほうがよいのではないか? 唯一、静寂なる異物としてのイヴ(杉香苗)が箱の中から現れるシーンでは心に一抹の清涼剤が流れ込んだけれども、例えば劇中、何度も使われるチャック・ベリーの「You Never Can Tell」(映画『パルプ・フィクション』のダンスシーンで流れるアレ)にしても、ユマ・サーマンとジョン・トラボルタが放っていたユーモア、エロス、エレガンスといったものに匹敵する要素は何もなかった。まずは余計なものを捨てて、何が自分たちの持ち味かを見つめ直す必要を感じます。
(10月22日14:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★☆(2.5)
 舞台上に大きな箱があり、劇場全体も箱みたいになっていて、客席に座ると箱の内部にいるような気がする会場。幕開け、その大きな箱から女性のものらしい脚が突き出し、その箱の周囲にいるのは、どうやら神様の群れ。箱の中で地球を作っている、または地球ができてくるのを待っているようだ。意味やつながりのはっきりしない会話が続く。ついに箱の中からアダムとイブが出てきて、神様が頭の上に載せている「直接理解し合える」河童のお皿みたいなツールを使用不能にしてしまう。あの長いファスナーは蛇だったのか。
 そのアイデアは面白いし、突如アカペラでコーラスを始めるのも面白いと思った。が、このような意味やつながりのはっきりしないお芝居で、最後まで観客を引きつけて離さないためには、脚本や役者にかなりのパワー、できれば圧倒的なパワーが必要だと思う。それはやや欠けていたと感じられて残念だった。
(10月20日14:00の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★★
 「one box」は、3つの空間を提示する。舞台上手に置かれた1m四方の箱は、何かが生まれて消える闇。箱を取り囲む近接の空間は、言葉はあるものの「箱」の命名が出来ず「指示代名詞」が機能していない不可解世界。もう一つは、天井から釣り下がったファスナーで区切られる外部空間。かに缶が宙づりされているので、いまだ混沌としているエリアと言っていいだろうか。無理を承知の神話空間の設定に、まず★を二つ捧げよう。分かっているような振りをしながら、ほとんど見ない知ろうとしない、ぼくらが生きている世界そのものなのだから。
 しかし開闢の不明、不可解、混沌を舞台に出現させようすること自体、とてつもない困難に遭遇する。まあ、舞台に乗りっこないかも、という危惧を持って当然だからだ。その無理筋に立ち向かう気力と胆力に、もうひとつ★印を差し上げよう。
 この3つの世界(空間)を明快に腑分けできないと、残念ながら未分化の混乱状態と区別がつかない。そのためか、アダムとイブの登場と退出も唐突なら、その二人がファスナーを閉じたときに起きた出来事も焦点が拡散してしまった。臥薪嘗胆、深慮塾考、捲土重来…。開闢以来の古~い言葉しか出てこないけれど。
(10月19日19:00の回)

【上演記録】
絶対安全ピン「one box 四角い私たちの様子は」
下北沢・Geki地下Liberty(10月19日-23日)
作・演出 黒田 圭

CAST:
中村軌久
船串奈津子
角北龍
鏑木雄大(PROPAGANDA STAGE)
石川久雄
黒田圭
浅川薫理
二村香央里
小幡りえ
杉香苗(劇団虫の息)
森下雄太(劇団虫の息)
STAFF:
舞台美術:水本紗恵子
照明:申政悦
音響・映像:小林雄介
衣装:二村香央里 金井萌々
舞台監督:宮田公一
宣伝美術:クワタナヲえ
制作:絶対安全ピン
制作協力:J-Stage Navi
協力:シバイエンジン

TICKET:
前売2,500円 当日2,800円 学生2,200円(要学生証) ペア割引4,400円(要予約)
Work In Progress参加者割引500円

Work In Progress:
9月27日(火)19:00~
10月2日(日)15:00~
にしすがも創造舎

「絶対安全ピン「one box 四角い私たちの様子は」(クロスレビュー挑戦編第17回)」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 水牛健太郎

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