サイバー∴サイコロジック「掏摸-スリ-」(クロスレビュー挑戦編第24回)

「掏摸-スリ-」公演チラシ
「掏摸-スリ-」公演チラシ

サイバー∴サイコロジックは、早稲田大学演劇倶楽部出身の松澤孝彦さんを中心に、2007年結成。「富山県葉暮町で起こる『ナンセンス・ミステリ』を創作し続ける。異常な建築美術で繰り広げられる、シュールな会話と地元愛が特徴的」というのに、今回は芥川賞作家中村文則作「掏摸」の舞台化に挑む話題作。広げた風呂敷を、最後に一気に収束するというこの劇団の荒技がどう発揮されるのか-。以下、5段階評価と400字コメントを到着順に掲載しました。末尾の括弧内は観劇日時です。じっくりご覧ください。(編集部)

佐々木敦(批評家、HEADZ代表)
 ★★★★
 劇団は初見だが原作は読んでいた。中村文則が大化けした大江賞受賞作。ドストエフスキー的と言ってよい「悪」の主題を、ほとんどマンガ的(浦沢直樹的?)とも呼べるような荒唐無稽な設定に溶け込ませた小説を如何にして舞台化するか。とにかく物語がブッ飛んでるので、そのままやれば面白いわけだが、その分、ストーリーを語るだけに終始してしまう危険性もある。若い劇団ゆえの青さは随所に感じられるものの(特に音楽)、役者たちのいずれ劣らぬ大熱演(とりわけほぼ出ずっぱりの主演と中学生の女の子役は好演していた)と、舞台を富山県葉暮町に設定し、皆に富山弁を喋らせるという趣向(これはこの劇団のいつものパターンらしいが)、叙述トリック的な要素を上手く活かした台本によって、二時間を飽きさせずに観せることに成功していた。劇団紹介によると、オリジナルは「ナンセンス・ミステリ」が特長というが、実はこれもそうだったと思ってみると更に興味深くなるような。
(3月18日13:00の回)

藤沢美里(フリーター)
 ★★★
 描かれる世界観がとても映画的に語られてきて、開始直後は少し辟易としたが、役者達のもつエネルギーがそれを徐々に観客を舞台でしか味わえないところまでぐるんとひっくり返したように感じた。その力はとても心地よく感じられるものだ。原作の文字に負けている瞬間もあったり、音楽の使い方など恥ずかしく感じる演出もあったが、役者がどうにかして役に近付き本物を生み出そうという必死さが、汚い路地裏の社会やしがらみから足掻いて足掻いて傷だらけで何かを掴もうとする役の様子とうまくあいまっており、ギリギリの良い効果を得られていたように思う。少し残念なのは、何度か出てきた錯乱、混乱といった表現が一本調子なこと。そして事実以外何も伝わらないこと。演出家も演者も、その闇をもっと丁寧に掘り下げ、何かが感じられたら更に深みが増したのではないだろうか。次回公演も期待。
(3月17日19:00の回)

夏目深雪(批評、編集)
 ★★★☆(3.5)
 男が少女に抱く邪(よこしま)な欲望が、話を捻じ曲げていく。日本の純文学やミステリーが持つ独特の湿った暗さに思いを馳せずにはいられなかったのだが、原作を読んだらそんな要素は全くなかった。
 少女への性的虐待が、話に奉仕するための要素になりがちな「小説」に較べたら、少女の痛々しい怒りも、その後の荒廃も、文字通り「そこに存在する肉体」で表現するこの演劇は、腹が据わっている。女優たちの好演(特に定塚ユリカ ! )もあり、禍々しさは十二分に伝わってきた。ただ、「スリ」と「性」という最も肉体的なものを題材にしながら、それが演劇として何か成果を得ているかというと疑問が残るし、「悪」の象徴としての父親と木崎も凄みには欠ける。最後のオチはよくできているが、要素を盛り込みすぎたのか、それぞれがバラバラのままで未消化感があったのは残念。主役の荒川ユリエル始め役者も好演しているし話もよくできているので、次回はもう少しハジケてほしい。
(3月16日19:30の回)

徳永京子(演劇ジャーナリスト)
 ★★
 原作の小説を私は未読なので、舞台を観て感じた欠点は原作に依るものかもしれない、ということを前提にして-。
 主人公の青年が、実の父親から「至高の邪(よこしま)」になるべく育てられ、愛する少女を守るためにその手で父を殺すも、殺すことで一層強固な父の呪いをかけられ、そんな自分を幸福の外側に置くためにスリになった、という設定なのだが、暗黒の思想を持つ「至高の邪」と、“悪”と言うより“犯罪”止まりのスケール感しか持たない「スリ」とのバランスが悪く、その違和感が最後までぬぐえなかった。
 バランスの欠落はそこだけではない。木崎という巨悪の黒幕が登場するが、彼が語る悪の哲学は、神の定義に及ぶほど壮大なのに、木崎の手下も、狙われる首相も、その言動がバラエティ番組のショートコント並みに単純で軽率なのだ。
 継承者も部下も敵さえも小さい時、いくら力を込めてせりふで語られても、悪に魅力は、そして舞台上に緊張は宿らない。
 かつて愛した女性の現在を観た時の主人公の反応など、原作を読んでいなくても伏線の張り方にこまやかな注意を払っているとわかるところ、キャスティングの工夫など、評価したい点はいくつもある。が、前述の不満を凌ぐには至らなかった。
(3月17日14:00の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★★
 終演後、思わず書店に駆け込み同名の原作を買い求めた。この劇で感じた手応えが、どのくらい中村文則の小説の力によるものなのかを確かめに。設定やストーリーは、ところどころ変えられている。特に大きく違うのは、キーパーソンとなる〈悪〉の権化たる人物が、原作では主人公にヤバい仕事を強要する闇社会の男なのだが、今作では父親であるという点(どちらにも、もう一人に相当する人物は出てくるのだが…)など。
 だが、そうした差違はあまり問題にならないくらい、この舞台は〈悪〉なるものの一断面を差し出して、原作のエッセンスを抽出しながら独自の圧力をも生み出していた。初っ端、なぜか体の傾いだ状態の父親が登場した時点で、食事の一口目にガリッと噛んだような異物感が強烈で、それがずっと持続する。一旦巻き込まれてしまえば、なぜ息子をそんな酷い目に合わせるのかといった説明は全く必要ないのだ。謎解き的なラストは、甘すぎる蛇足か? と首を傾げるし、あげつらえば傷はほかにいくつもありつつ、圧倒的な一点をもつ強さに星4つ。セリフが方言だったことも効いていた。
(3月18日13:00の回)

都留由子(ワンダ-ランド)
 ★★★★
 大江健三郎賞を取った中村文則の小説が原作というので、どうなるのかと興味津々で見に行った。120分という長い上演時間だったが、終幕まで引きつけられた。終わってから考えると、決着のついていないこと(ラームラのテロは? 首相は? )もあるし、説明されていないこと(そもそも木崎はなんで主人公をあのように支配できるのか? )もあるし、圧倒的な「邪」というには父親も悪玉ラスボス木崎もちょっと迫力不足とも思ったのに、それらがあまり気にならなかったのは、舞台上のエネルギー(熱演という言葉はそぐわない気がするので)と、狭い舞台をうまく使って物語を進めた脚本の手柄だろう。設定は現実離れしているが、それぞれの役には手触りが感じられるようで、楽しませてもらいました。
(3月16日15:00 の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★★
 今回は中村文則「掏摸」が原作といいながら、実は同じ著者の「悪と仮面のルール」と抱き合わせ。謎解き=収束の十数分がオリジナルという公演だった。舞台上で起きたことからイメージを構成しようとしても、これら原作の筋書きを事前に知っていることで逆に舞台像が定まらない。珍しく迷ってしまった。
 あり得ない展開をそれらしく、という誇大妄想の常道からいうと大いに称揚していい出来映えなのだろう。掏摸師の青年(「掏摸」)を「邪」の家系(「悪と仮面…」)に引き合わせた着想はおもしろい。ともかく結末へ持っていく剛力も頼もしい。しかし…。
 スーパーの万引き女が実は昔の「恋人」という設定は、主人公の男が整形して他人になりすましている(「悪と仮面…」)前提がなければ成立しない。「邪」を体現する父が半白眼のまま観音開きの扉の向こうから登場するのは、なぜか仏壇からご先祖が顔をのぞかせているように見える。おぞましさも人並みで、あまりに無「邪」気すぎるのではないか。結局難度Eの技に挑んで着地でコケてしまった感がある。でも減点対象ではない。果敢な攻めの姿勢にポイントを差し上げよう。舞城王太郎の向こうを張って、富山県葉暮町を舞台にこれからも妄想の花道を突っ走ってもらいたい。
(3月15日19:30の回)

【上演記録】
サイバー∴サイコロジック⑨龍眼の公演 『掏摸-スリ-
北沢OFF・OFFシアター(2012年3月14日-18日)
原作 中村文則(河出書房新社刊 『掏摸[スリ]』・第四回大江健三郎賞受賞作)
脚本・演出 松澤孝彦

出演者:
白井肉丸(サイバー∴サイコロジック)
平平平平(サイバー∴サイコロジック)
松澤孝彦(サイバー∴サイコロジック)

荒川ユリエル(拘束ピエロ)
勝山智世
黒沢佳奈
澤田一輝(ジャスティスプロダクション)
定塚ユリカ(アステカダイナマイト)
武子太郎(クロムモリブデン)
浜崎仁史
松島やすこ
横田総之
李そじん

スタッフ:
原作:中村文則(河出書房新社刊「掏摸[スリ]」(第4回大江健三郎賞受賞作))
脚本・演出:松澤孝彦
舞台監督:土居歩
舞台美術:坂本遼
音響:田中亮大
照明:吉村愛子(Fantasista?ish.)
小道具:白井肉丸、定塚ユリカ
宣伝美術:南裕子(milieu design)
舞台写真撮影:奥山郁
映像撮影:木下幸太郎
プリンティングディレクター:青山功
演出助手:栗原香、三瓶美菜
当日運営:塩田友克
制作:伊崎亜津子
製作:サイバー∴サイコロジック
協力:(株)トゥインクル・コーポレーション、(株)河出書房新社、フォセット・コンシェルジュ、ジャスティスプロダクション、アステカダイナマイト、拘束ピエロ、クロムモリブデン、舞台美術研究工房 六尺堂、milieu design、(株)リトルウイング、Fantasista?ish.

チケット料金:
全席自由 [一般]前売2700円/当日3000円[学生]前売2300円/当日2500円
◆ 高等遊民の集い(16日(金)15:00の回)
 一般2500円、学生2000円(当日は300円増)
三すくみ割引(前売のみ) 天使・お助け・悪魔のような仲良し3名様は、一般7500円、学生6300円
掏摸割引 小説版「掏摸[スリ]」をご持参のお客様は200円割引!! (三すくみ割引との併用は不可)

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