まごころ18番勝負「錯惑の機序、或いはn質点系の自由度」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 2)

まごころ18番勝負 第15回公演チラシ クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編の第2弾はまごころ18番勝負公演です。この劇団は2001年に旗揚げ。その後名前を現行にあらため、2006年頃からミステリ上演に向かいます。凝ったタイトルと込み入った仕掛けの舞台が本格化しました。今回は、絶海の孤島を舞台にした連続密室殺人事件。密室はどう解明されたか。犯人は、動機は…。二転三転する舞台を五つ星と400字コメントでレビューします。掲載は到着順。コメント末尾の括弧内は観劇日時です。(編集部)


大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★
 台風で交通手段を絶たれた孤島という密室的な状況で起きる連続殺人事件。事故を起こしたマジシャンの再起をかけたショーには、かつての関係者がよばれているが、招かれざる客も…。解き明かされたかと思いきや真相は二転三転、本格ミステリーを舞台にという意欲作。
 ただ、双子の入れ替わりはさておくとしても、整形という手が加わる(昨今の事件では実際に行われてるとはいえ)と、ちょちょっと、それじゃあトリック的に何でもありにならないかなあ~?と。あと、謎解きの部分をすらっと台詞で言われただけでは、やや理解が追いつかないところがある。文章なら、読み返すということもできるのだけど。そして折角のマジックショーという設定、もっと派手めに、目眩ましチックに道具立てを生かせる展開はないものだろうか。きっちり律儀に語っていくのみならず、なるほどこれは舞台でなくちゃあという文字通りのイリュージョンを見たかった気もするのだが。
(7月5日 19:00の回)

小林重幸(放送エンジニア)
 ★★★
 ミステリー×マジックという組み合わせは「このあと何かが起こる?!」という期待を観客に常に抱かせる。その期待に最後まで応えるストーリーとなっており、「次々と明かされる驚愕の事実」をこれでもかと用意した、力業とも言える脚本の賜物であろう。
 しかし、推理小説の会話文をそのまましゃべらせたような台詞は説明臭さが払拭できず、日本語の「会話」には聞こえない。生身の人間が演じているにもかかわらず、その存在にリアリティや必然性が伴わないのはあまりにももったいないのではないか。
 小説であれば現場の状況を文章でありありと描くこと自体が、一つの成果となり得るだろう。しかし、これは舞台。状況は既に見えているのであって、そこに居合わせた犯人を含む人物の心の内や背負ってきた過去などが、情報ではなく心情として観客に伝わってこそ、その場面に説得力が出るのではないかと思えてならない。
(7月7日 18:00の回)

福田夏樹(演劇ウォッチャー)
 ★★★
 無理なスケジューリングのせいで、冒頭5分ほど、遅刻してしまった。まずは、関係者、その回を観に来ていた観客の皆さんに心からお詫びしたい。また、その上でのレビューであることをご容赦願いたい。(投稿を控えることも考えたが、逆に、投稿し、レビューを公にすることが、逆に作品に報いることになるのではないかと思い、投稿させていただくことにした。)
 お話としては、マジックショーの最中に起きた殺人事件にまつわる犯人推理のミステリー。 観客席最前列の前の演技空間にマジックショーの観客席を配置し、観客席と演技空間をシームレスに見立てることで、冒頭、劇世界に観客を引き込むことに成功している。この劇団をみるのは今回が二回目だが、おそらくこのような観客の劇世界への導き方へのこだわりが、この劇団の特徴であるのだろう。
 しかしながら、その後の推理を行っていく会話部分は単調でだれた。確かに、ミステリーの肝は謎解きの妙にあると思うが、好みの問題もあるとはいえ、それだけでは余りに理屈にばかりよってしまう。謎を追う登場人物の心の動きをもう少し丁寧に描ければ、マジシャンという存在、そして、そのマジシャンが生きていく世界の不気味さ、という本来描きたかったであろう部分がもっと心を抉ったのではなかろうか。劇世界への導入という部分に期待も込めて星3つ。
(7月8日 17:00の回)

齋藤理一郎(会社員 個人ブログ rclub annex
 ★★☆(2.5)
  物語自体には捉えられました。導入部から事件の発生と展開、さらに謎解きからエピローグに至るまで本格推理小説のテイストで貫かれていてぶれがない。観客を導きあるいは欺く仕掛けにも厚みがあり、かりそめの探偵役を置いて推理を誘導した上で覆してみせたりミスディレクションやレッドへリングといった手法を提示した上でその罠に陥れたりと飽きさせなかった。 しかし、脚本が秀逸であってもそのクオリティほどに舞台が満ちていかないのです。新たな展開を生みだすはずの暗転は前のシーンに膨らんだ世界が萎んでしまうほどに長いし、役者がニュアンスを醸しだし空気にメリハリを作ってもその立ち位置があやふやで舞台のミザンスが平板に思えたり。美術や照明などにも創意や切れを実感できず場に物語に見合った密度が保ちきれない。終盤の女性の消し方などは鮮やかでしたが、台詞の重なりから現れる筋書きの面白さはあっても、舞台に観客を魅了するようなテンションは訪れてきませんでした。
(7月5日 19:00の回)

中村勉(教員)
 ★★★★
 殺人の謎解きはマジックの種明かしと並行して進んでいく。これはホワイダニットのミステリだ。殺人の動機はマジシャンのアイデンティティが深く関わる。マジシャンという存在がいかに特異であるか。
 マジックの道具が中央にどんと置かれているところから、マジシャンのマジシャンらしさは「絵」でみせるのか…というとすべては台詞で語られる。最後に探偵はひときわ小さな声で「ほんとうのこと」を言う。ミステリだから「謎解き」。劇の最後にあらわれる「ほんとうのこと」。「告白」、「主題」、「真実」。そのほんとうらしさは声の出し方で補強される。それぞれに与えられた役割もパーソナリティやキャラクターというより役割。その役割は「声」によって果たされる。「解説」「パニック」「悔恨」その他。「声」を信じている舞台。だがその「声」を聞いている人物のたたずまいは? というと少し疑問が残る。「絵」も「空気」も「声」に奉仕する舞台を期待します。
(7月7日 14:00の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★★
 事故による後遺症で引退していたマジシャンの、絶海の孤島にあるアトリエで連続殺人が起きる。その犯人を探すミステリー。生の舞台で殺人事件+謎解きが可能なのだろうかと思っていたが、驚いたことに可能だった。ただ、「謎解き」そのものについては、私自身の注意力散漫か、論理的思考力欠如か、またはその両方のため、整形手術が何回か出てきた時点でついて行くのを断念した。その場で起きたこと以外は、結局、言葉で説明されるし、その説明をきちんと理解+記憶していなければならないので、ご愛嬌程度のミステリーならともかく、「本格」となるとぼーっと見ていてはダメだということを確認。それでも繰り返されるどんでん返しを認識することはできて、「本格」のカタルシスはなかったと思うけれど、それなりに楽しんだ。私のような、謎解きについていけない観客のお楽しみがもう少しあるともっとよかったと思う。
(7月4日 19:00の回)

中野雄斗(学生)
 ★★☆(2.5)
 3年前、脱出マジックに失敗し引退していたマジシャンが復帰を宣言し、孤島に人々を集める。集められた人々には何かしら関連性があるようなのだが…。そして密室と化した孤島で事件が起きる。
 ミスディレクション(意識の誘導)など、マジックにおける概念や用語が紹介され、推理物との関連が語られていくのは見事。中盤まではよくある推理物の展開で退屈にすらなるが、実はそれ自体が壮大なミスディレクションで…というどんでん返しには「やられた!」と思ってしまった。
(7月5日 19:00の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★★
 密室殺人事件をマジで舞台化する心意気が頼もしい。おどろおどろしいタイトルに「メフィスト」風味が色濃く漂い、芸術臭ときっぱり無縁なのも潔い。舞台手前が劇中の招待客席に設定され、リアルの客席と地続きに展開される仕掛けもポイントを挙げている。王子小劇場がこの演劇祭にぶつけてきた劇団の公演だけあるなあ、と感心した。
 確かに登場人物の造形に厚みが足りない。しかし本格ミステリの「主役」は登場人物ではなく、解かれるべき「謎」にあるから傷は浅い。問題は「本格」の中身だ。
 劇中で犯人と指摘されたのは二代目マジシャンだが、その正体は。以前の事故で死んだのは一体誰か…。二転三転するうちに、結局ぼくは「錯惑」してしまった。犯人が違えば犯行動機も異なる。殺害方法も「見えない糸」でなければ何か、凶器は、死体の移動は…。不透明な謎がタイトルに込めた作品の狙いなのかもしれないと思いつつ、舞台の濃密空間と裏腹に肝心の「本格」がすっきりと飲み込めないので★を一つ増やし損ねた。
(7月8日 17:00の回)

【上演記録】
まごころ18番勝負 第15回公演「錯惑の機序、或いはn質点系の自由度 The Slight Light Like Sleight of Hand.」(佐藤佐吉演劇祭2012参加作品)

王子小劇場(2012年 7月 5日- 8日)
脚本・演出 待山 佳成

CAST(五十音順)
稲村 優奈(ATプロダクション)
大久保 藍子
小田 久史(アーツビジョン)
川原 元幸(ベストポジション)
榊原 仁
谷田部 勝義

さこう ひとみ
鈴木 健太
中村 豆千代
簗木 由貴
ゆきを

イベント
・プロマジシャン『雷人』によるマジックショー(7月7日終演後20:20ごろから)
チケット
前売/当日 2,700円
高校生以下 500円(各回5名まで・要予約)
マジックショー 500円(7日18時本編終演後・自由席)
マジックショーと本編のセット 3,000円(7日18時の回限定)


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