北京蝶々「都道府県パズル」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 9)

「都道府県パズル」公演チラシ
「都道府県パズル」公演チラシ
 北京蝶々は2003年、早稲田大学演劇研究会を母体に旗揚げした劇団。「 電子マネーや介護ロボットなど、現代の日常に浸透しつつあるテクノロジーをモチーフに近未来の日常を描く」のが特徴だとホームページで述べています。複雑系のカオス理論由来の劇団名を持ち、若手演出家コンクール2007(日本演出者協会主催)で審査員特別賞・観客賞を受賞した期待の劇団です。今回は、「道州制基本法」をめぐり、国民の意見が推進派と反対派の真っ二つに割れている近未来の日本が舞台。「郷土愛に火をつける、ローカルエンターテイメント」はどんな展開を見せたのでしょうか。レビューは、★印による5段階評価と400字コメント。掲載は到着順。レビュー末尾の丸括弧は観劇日時です。
 東京公演は終了しましたが、9月8日から大阪公演が予定されています。ご注意ください。(編集部)

宮本起代子因幡屋通信発行人)
 ★★
 朴訥な風貌の青森県、みごとに対照的な大阪府など、いかにもありがちな造形とみせてあざとくなく、イメージがはっきりしない地域の人物も微妙に収まって、巧みな筆と的確な演出、俳優の実力がうかがわれる。福島県の女性の発言で会議が混乱に陥った場面に身構えたが、少しだけ理解を深めた彼らが「もう一度話し合おう」と終わってしまい、やや肩すかしの印象だ。
 いやそもそも、国の予算をとって道州制をアピールする大々的な企画において、彼らはどのような選考基準で各地域代表になったのか。決死の覚悟の面持ちの人もいれば、あからさまに観光気分の人もいる。おでんの具や有名人を呼ぶイベントなど、会議の内容があまりに垢抜けず、「器と中身」のバランスが悪く感じるのは作り手の意図なのか。違和感がどんどんふくらんでゆく。
 この感覚を活かす方向での本作の展開を想像した。上演時間が少しばかり長くなってもがんばれる。もっとこの会議の先を知りたい。
(9月4日 14時30分の回)

小林重幸(放送エンジニア)
 ★★★
 会議にはその組織の特徴が凝縮された形で反映される。事なかれ主義だったり、ワンマン体質だったり、などなど。では、「日本」という組織が会議をしたらどうなるかというのが、この芝居の着目点。そういう意味では中盤までの描写は首肯できるし、その後に起きる「そもそも論」的熱い議論は、会議の理想型の一つを描くものとして面白い。
 ただ、扱うテーマが、地方・都市論、就労形態論、イメージ差別論、原発問題とどんどん直接的に大きくなるに従って論点がぼやけ、役者の熱演のみで芝居を推し進めているように見えてきたのは残念。射程距離の短いピストルで遠くの怪獣を撃っているような寂しさを感じてしまった。そんなに大きく構えず、それこそ「各県の名物料理」の議論の範囲内で、今回扱っていた「大きなテーマ」に対して斬り込んでいくことができたのではないだろうか。それを可能としてこそ、凝縮会話劇である会議演劇の魅力が際立つ気がする。
(9月1日 19:30分の回)

齋藤理一郎(会社員 個人ブログrclub annex
 ★★★☆(3.5)
  会議室、登場人物たちが思い思いに座り議論が始まる。黒板には「おおなべおでん」の種の候補が地域ごとに書き込まれ、それが全国から集まった代表の道州制に関するイベントの出し物を打ち合わせだと知れる。最初は地域の薄っぺらなこだわりや思惑でまとまらない議論が滑稽に思え役者たちが織り上げるどこか会議下手なキャラクターたちも絶妙におかしいのだが、やがて参加者が抱く思惑や利害の構図が幾重にも広がり始め、それぞれが代表している道州内の地域間の事情や雇用などの個人的な利害、さらには地名を消したいという福島の問題にまで至って。おでんから始まった会議は道州制を触媒にこの国のありようを様々に詰め込んだ箱庭の如くに変容していく。
 事象や問題をただ列挙するのではなく問題の重なりの質感と共に描き出す作り手の表現から紡がれたこの国の混沌を安易に丸め込まない新たな俯瞰に強く惹き込まれた。
 ただ、惜しむらくは、参加者達が真にその会議に踏み込んでいくラストが少し淡白で作品の印象をやや散漫なものにしていて。場が更なる議論に導かれていく姿にもう一粘りの描きこみがあってもよかったように思う。
(8月31日 19:30の回)

大泉尚子(ワンダーランド)
 ★★★
 「道州制」の導入をアピールするフェスティバルを行うことになり、各地域の代表が集まって出し物の相談を始める。まとまりかけるたびに話を引き戻す発言が出て、一向に決まらない。いるいる、こういう奴って! と見ていると、意外にも、いったいなぜ道州制なんだ? と話は根本的なところへ深まっていく。チャラいと言いたいくらい軽い出だしから、福島出身の女性が福島はなくなった方がいいと逆説的な想いを吐露するに至るまでの運びが巧み。実験性とか斬新さとは距離を置いて、愚直に積み上げたセリフ劇。地方から足を運んだ観客もいたようだが、確かに東京の若い演劇ファンだけに届けようとする類いの作品ではなさそうだ。
 ともあれ、賽の河原状態の議論は日常を映す鏡のようでもあるが、このラストはある種のファンタジーとも受け取れる。だって、これだけ議論が避けられない状況にあってさえも「空気読まなきゃ」という強迫観念にかられて喉元まで出かけた言葉を飲み込むことは少なくないし、よしんば勇気を奮って異を唱えられたとしても、ただ苦いものだけが残って、こんなふうに話が本質的な方向に向かうとは限らないことを、私たちは現実の中でよく知っているから。
(8月31日19:30の回)

中野雄斗(学生)
 ★★★
 「道州制フェスティバル」の企画を話し合うため、日本の各地方から集まった男女。しかし会議は難航し、やがて道州制のありかた自体に対して議論がなされていく。彼らは道州制を深く理解しているわけではない。あくまで市井の人間としてそこにいるため、議論に切実さが生まれる。ただ、彼らの理解の低さから道州制の実態がみえにくく、利己的な損得だけの表面的な議論になってしまった感が否めない。主張が強いくせに人の話をちゃんと聴いているのも違和感として残ってしまい、ちぐはぐな印象を受けた。
(9月1日 14:30の回)

都留由子(ワンダーランド)
 ★★★
 道州制推進イベントの実行委員会に「各州」代表が集まり、イベントの内容を決めようとする。熱心な委員もいれば、委員になっちゃったから出てきた、みたいな委員や、道州制に反対の委員さえいる。紛糾するうち、福井県代表の道州制をどうしても導入したい衝撃的な理由が明らかになり、もう一度みんなで考えようと思い直すところで芝居は終わる。
 幕開けに全部の役者が出てきて、最後まで引っ込まない。歌もダンスも衣装替えも場面転換もない。その意味ではすごく目新しいところもなくて、とても地味なのに、各州代表の人生や身上を伺わせながら、ただ、みんなが地元愛に溢れているのはちょっと息苦しい気がしたけれど、地方と東京の差、イベントに伴う金の流れの問題など、作家・演出家・役者の力が揃って、最後まで面白かった。が、もっと面白いのは、福島代表の発言を受けて、もう一度みんなで考えるところからのようにも思う。この先がぜひ見たいと思った。
 ところで、なんで道州制なんだろう?
(8月31日 19:30の回)

北嶋孝(ワンダーランド)
 ★★★
 初めに道州制推進のイベント会議であることが提示され、登場人物の出身、考え方が一通り紹介される。次におでんから弁当への議題乗り換えという小事件が起き、「フクシマ」消去や道州制反対論の大提起が続く。揉みに揉んだあと、ささやかな着地点に降り立つ-。戯曲創作の見本のような台本でも、実際に観客を引きつけられるのは手練れの書き手に与えられる特権だろう。作者の力量は疑えない。
 しかしなぜ「道州制」なのだろう。新幹線や高速道が人、富、情報の中央集中を招いたのに、道州制はそのミニ行政版ではないのか。全国を300の基礎自治体に組み替える構想はどうなったのか、平成の市町村大合併の総括は、などなど疑問も湧く。実態が曖昧な全国会議より、国家戦略を練る裏会合を官邸などに仮構し、政治家、官僚らによるガチンコ政策バトルをみてみたい。タイトルの「都道府県パズル」は子供向けの知育ツール。しかしこの作者なら、もっと手応えのある骨太ドラマが書けるはずだ。
(8月30日 19:30の回)

【上演記録】
北京 蝶々第18回公演「都道府県パズル 」
作/大塩哲史 【山梨県出身】
演出/登米裕一(キリンバズウカ)【島根県出身】

【東京公演】(佐藤佐吉演劇祭2012 参加作品)
 王子小劇場(2012年8月30日-9月5日)
【大阪公演】
 大阪市立芸術創造館(2012年9月8日-10日)

【キャスト】
森田祐吏 【東海代表/三重県出身】
田渕彰展 【南関東代表/東京都出身】
中田麦平(シンクロ少女)【北東北代表/青森県出身】
高橋悠 【南東北代表/福島県出身】
渡辺樹里 【北陸代表/新潟県出身】
岡本篤(劇団チョコレートケーキ)【北関東代表/栃木県出身】
緒方晋(The Stone Age)【近畿代表/大阪府出身】
村上誠基 【南海代表/愛媛県出身】
中村靖 【西海代表/長崎県出身】

【スタッフ】
照明/伊藤孝
照明操作/矢野一輝
照明アシスタント/須賀谷沙木子
音響プラン/志水れいこ
音響操作/服部司
舞台美術/稲田美智子
舞台監督/鳥養友美 河村都
宣伝美術/満冨優子
スチール/金丸圭
記録映像/藤波大地
サポートメンバー/岡安慶子
スタンドイン/依田玲奈
演出助手/沼景子 望月慶一郎 柴田淳
制作協力/鉾木章浩(Basil)
制作/吉田千尋
企画・製作/北京蝶々

【スペシャルサンクス】
野島結 三矢真奈美 青野守浩 帯金ゆかり 水野友紀子 waka 安田裕美 武田聖奈 山森信太郎 神馬ゆかり(敬称略/順不同)

【入場料】
東京公演 前売り/3000円 当日/3300円
  平日昼割/2800円 学生割引/2500円(要学生証提示) 高校生以下/1000円(各回枚数限定)
大阪公演 前売り/2500円 当日/2800円 学生割引/2500円(要学生証提示)

【東京公演/イベント等】
8月30日19:30/8月31日19:30 トークショー
9月3日19:30  地方物産展(東日本編)
9月4日19:30  地方物産展(西日本編)
9月1日14:30  託児サービスを実施します。要予約。
イベント託児・マザーズ 0120-788-222  0-1歳2,000円 2歳以上1,000円

「北京蝶々「都道府県パズル」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 9)」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: ワンダーランド
  2. ピンバック: 北京蝶々

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください