佐藤佐吉演劇祭2012

||| 星(★)の付け方

-先を急がずに、その前にもう少し話し合いたいことがあります。小林さんにお聞きしたいのですが、クロスレビューは毎回、到着順に掲載しています。小林さんは10回とも★3つでしたね。特別な意味やねらいがあったんでしょうか。

小林:別にねらいがあってやったわけでないんです。実は、レビューで星(★)を付けるのはとても難しい行為だと思っています。400字コメントで、★の数の理由を詳しく説明することはできません。でも先にも話したんですが、どの公演もあるレベルに達していて、だいたいそこに集まってしまったんです。どうやってみても、結局そこに落ち着く。従来の演劇の枠組みを大きく踏み出すとか、ある基準から外れることになれば話は別です。そのときは★が4とか5になるか、あるいは1つか2つになるでしょう。そういう意味では今回の舞台は、ある評価軸で捉えると、一定の範囲内に収まっていたので、結局こうなってしまいました。

大泉:ある基準を巡って考えていくうちに、結果的に3になってしまったということはおもしろいですね。私は★の付け方にとても苦しんだので、その付け方、基準をもう少しうかがいたいんですが。

齋藤:コンペティションなら、ある種の基準があって、その観点からどのくらいの水準かという判断がなされるのかもしれませんが、今回はそのような基準があったわけではないので、私は、過去に舞台を見ていた団体については、舞台のレベル感にそこから何かの踏み出しがあったら増やす、従前の作品ほどのレベルがないと感じたら減らすというようなさじ加減を加えて星をつけました。

大泉:10作品を比較したのではなくて、その劇団の過去の作品と比べた相対評価ですね。

齋藤:作品自体に感じるクオリティなども勘案はしたのですが、各作品ともある程度粒がそろっていたので、結果的にある作品の★と、別の作品の★の数の差には過去の作品との比較の部分が強く反映することになりました。演劇を見るベクトルは一つではないので、数値的な評価は本来難しいと思います。三つぐらいのトリガーがあって、それぞれを評価するのであれば多少なりとも付けやすいのかもしれないけれど、そういう個別の分け方が必ずしも正しい作品全体の評価に結びつかないのも事実ですよね。

小林:私は逆に、その劇団の前後のことはあまり考えませんでした。毎年150本前後見ている中で、その芝居はどのあたりに位置するのか、変わりつつある流れの中でどういう方向に向かっているか。そんなことを考えていました。あと、いま齋藤さんが触れた個別分野に分けて評価するということですが、脚本とか舞台美術とかに分けてしまうと逆に私は評価できなくなってしまう。分けると、それぞれについて個々の評価軸を決めて、さらにその結果が作品全体に対して如何ほどの効果があったのかという、さらに難しい評価を問われてしまいますよね。細かな分け方は止めてほしい。せいぜい総合評価にとどめてほしいなあという気がします。

大泉尚子さん(手前)と都留由子さん
【写真は、大泉尚子さん(手前)と都留由子さん。撮影=ワンダーランド 禁無断転載】

-ほかの方はどうですか。

都留:私はビックリしたものに★が多くなったと思います(笑)。私の★4つは、劇団競泳水着「Goodnight」とピンク地底人「明日を落としても」の2本です。ピンク地底人はボイス・パーカッションにすっかり心を奪われてしまいました。競泳水着は淡々としているのにおもしろく、なぜだろうと思った。どちらも驚いたんです。★が少ない方でビックリしたのは、ぬいぐるみハンターでした。登場する男と女の扱いが、とてもクラシックに思えました。お母さんが家にいて子どもを見守る。お父さんは外に出て世界中を放浪する。そしていきなり、ルールを決めるのは俺だ、と言う。そこで私は、なんでおまえが決めるんだと、思った(笑)。多分年代的な考え方、私自身の育ち方や性格もあるでしょうけれど、若いのになんでこんなにクラシックなんだろうとビックリしたので、★は2つになりました(笑)。おもしろいなと思ったら★3つ。それにビックリが加わると4つになったり2つになったりしたんですね。

大泉:芝居を見て、ビックリしたいということですよね。

都留:せっかく芝居を見るなら、こんなの見たことないとか、こうなるとは思わなかったなとか、普段とは違うことにぶつかってみたい、驚いてみたいですね。

大泉:このレビューは私なりの定点観測だと思っていました。基準がぶれそうになって焦ったんですけど、私の平均は結果的にいうと★2なんです。いいと思えば3、ものすごくよければ4といった感じです。5は付けたことがない。そして、劇団に対する期待度が高くて辛くなる場合もある。例えば、悪い芝居「カナヅチ女、夜泳ぐ」を★2つにしてしまいましたが、これは総合的に見て2というよりは、あなたたちならもっとできるでしょう、という意味をこめての2なんです。それで私は、齋藤さんのように劇団の過去作品を参考にしての相対評価と、それ以外に全10作品の中での位置付けという二つの軸を立ててしまったので、とても悩んだところがあります。それから、演劇祭全体のレベルが高いと感じたので、クロスレビュー挑戦編より、星の付け方が厳しくなってしまったということも言えます。

-クロスレビューの★を付ける基準、やり方をワンダーランドは定めていません。それぞれに任せているので評者の見方も考え方も違い、一見ばらばらで、凹凸もあればモザイク状になるかもしれませんが、少し離れて全体を見たら、舞台の輪郭が見えてくるのではないか、と考えてこれまでやってきました。ワンダーランドの活動は、このクロスレビューと劇評が両輪と言ってもいいのではないでしょうか。劇評は書き手がほぼ単独ですが、自分で感じたり考えたりして論を立て、全面展開が可能です。クロスレビューは字数が400字、それに★印を付ける仕組みなので、劇評より参加しやすいと思いますが、舞台の模様を詳細に書き込むには無理があります。それでも数人、場合によっては十人を超える人たちのレビューが並ぶと、舞台が多面的に見えてくるというのが長所ではないでしょうか。どちらの枠組みにもそれぞれの特徴があります。二つを組み合わせてこれからも考えて活動したいですね。

「佐藤佐吉演劇祭2012」への14件のフィードバック

  1. ピンバック: まごころ18番勝負
  2. ピンバック: 待山佳成
  3. ピンバック: ゆうた
  4. ピンバック: 王子小劇場
  5. ピンバック: 薙野信喜
  6. ピンバック: ピンク地底人
  7. ピンバック: ピンク地底人3号
  8. ピンバック: 待山佳成
  9. ピンバック: 司辻有香
  10. ピンバック: 竹子
  11. ピンバック: ピンク地底人5号
  12. ピンバック: 辻企画
  13. ピンバック: 司辻有香

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