佐藤佐吉演劇祭2012

||| 演劇祭の意義、劇場の活動

大泉:佐藤佐吉演劇祭は賞と賞金が出ますね。この賞はこういう人や団体がこういう立場から出します、とはっきりしている点に好感を持ちました。役者もスタッフも、とても励みになると思います。もう一つは、劇団を育てていこう、という姿勢がきちんと伝わってきます。この二つはぜひ継続してもらいたいですね。

齋藤:最初の記者会見にも授賞式にも、ほとんどの劇団が参加しますよね。さらには賞が発表されて、だれがどんな賞を取ったのか,その公演のどこが評価されたのかなどもお互いに分かる。そんなふうにそれぞれの劇団が同じ演劇祭の土俵でお芝居を作ることは、作り手の作品に対する一種の矜持を生み出しているのではないでしょうか。そうだとすればこの演劇祭の仕組みはとても劇団やその作品の力になっていると思いますね。

-演劇祭のメーンになっているゴールデンフォックス賞は演劇祭の全公演を有料で観劇した観客の投票で選ぶんですが、そこでは観客あっての演劇という考え方が明快ですよね。また今回のクロスレビュー企画も最初に劇場側からアプローチがあってまとまりました。そういう経緯を取り上げてみても、舞台の作り手と共に、観客にも劇場の活動に参加してもらうのだという姿勢がはっきりしています。とてもうれしい、頼もしい方向ですね。
 最後に演劇祭への意見、期待をお願いします。

座談会全景
【写真は、左手前から齋藤理一郎さん、、小林重幸さん、大泉尚子さん、都留由子さん。撮影=ワンダーランド 禁無断転載】

小林:演劇祭の全公演を見せよう、見てもらいたいという劇場側の意欲を強く感じました。全部見るとゴールデンフォックス賞の選考に参加できたり、キャッシュバックがあったりするのもその表れですよね。しかもセレクションが一貫していて、全く違う分野の団体を総花的に呼ぶのではなくて、似ているけれどちょっと違いのある劇団を集めている。だから、演劇祭参加団体の半分は見たことがあって、あと半分は見たことのない劇団だったとすれば、観客はここで初めて見たら次にまた見てみようという気になると思います。だから劇団側にとっても、この演劇祭に参加したら、新しい観客を呼び込むことにつながるメリットがある。そういう点でも、この演劇祭は仕組みがとてもよくできているし、意義があると思いますね。

齋藤:役者の方が客演したりなど、既知の劇団とつながりがある団体の舞台だと自然に見に行くようになったりもしますが、まったく見たことのない劇団の公演って意外に敷居が高いのですよ。だから王子小劇場がこういう仕組みで観客にとって新しい劇団を紹介してくれるのは新たな表現に出会う貴重な機会になる。今回でいうと私にとってピンク地底人がそうでした。毎年は無理であっても、これまでのように2年に一度ぐらいのペースで演劇祭を続けてもらいたいですね。

都留:今回はすっかり引き込まれてしまったので、次も行くことになりそうですね(笑)。私も演劇祭でなければおそらく見ていなかっただろう作品があります。例えば、まごころ18番勝負。密室殺人事件で、トリックは難しくて途中からついていけませんでした(笑)。それでも、とてもおもしろかった。演劇祭は、劇場の志があってこそやれることだと思いますが、とんでもなく大変だろうと思います。その志があって、いろんな劇団が参加できるんですね。昨日、参加公演のチラシを全部並べてみたんです。そしたらホントにさまざま。紙の手触りも厚さも色彩もデザインもまちまち。それが演劇祭を一緒に作っているのがとてもいいなと思いました。

-公演レビューを求めるワンダーランドのチラシもシンプルでチープで、ほかのチラシとはひと味違ってましたね(笑)。

大泉:今回のラインナップは、最初からインパクトがありましたよね。これまではマイナーで、ややマニアックな印象でしたが、今回は間口も奥行きも広がって、行きやすくなった気がします。こういう演劇祭だと、普段は足が向かない人も出向く機会が増えるかもしれませんね。これを含めて、小劇場のこういった試みにはこれからも注目したいと思っています。
(2012年9月30日、新宿の喫茶店)
(構成:北嶋孝)

【略歴】(発言順)
小林重幸(こばやし・しげゆき)
 1966年埼玉県生まれ。早稲田大学理工学部電気工学科卒。東京メトロポリタンテレビジョン(TokyoMX)放送技術センター勤務。デジタル放送設備開発の傍ら、年間200ステージ近い舞台へ足を運ぶ観劇人。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/ka/kobayashi-shigeyuki/

齋藤理一郎(さいとう・りいちろ)
 1956年生まれ 福島県出身。4歳より学生時代までを概ね関西で過ごす。和歌山大学経済学部卒。現在は会社員、埼玉県戸田市在住。勤務地は東京都中央区。個人Blog「R-Club Annex」に芝居の感想等をまとめています。ここ数年は小劇場を中心に年間200本強の観劇。演劇だけではなくダンスや落語なども好物。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/archives/category/sa/saito-riichiro/

都留由子(つる・ゆうこ)
 阪神間で育ったので、幼稚園のころ宝塚歌劇を見たのが舞台との出会い。身軽に芝居を見に行けなかった子育て期に、子ども向けのお芝居のおもしろさを発見した。ワンダーランド編集部の新参者。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/ta/tsuru-yuko/

大泉尚子(おおいずみ・なおこ)
 京都生まれ、東京在住。70年代、暗黒舞踏やアングラがまだまだ盛んだった頃に大学生活を送る。以来、約30年間のブランクを経て、ここ数年、小劇場の演劇やダンスを見ている。2009年10月よりワンダーランド編集部に参加。
・ワンダーランド寄稿一覧:http://www.wonderlands.jp/category/a/oizumi-naoko/

【佐藤佐吉演劇祭2012】 >>
参加団体:
 劇団競泳水着「Goodnight」(2012年6月22日-7月2日)
 まごころ18番勝負「錯惑の機序、或いはn質点系の自由度」(7月5日-8日)
 悪い芝居「カナヅチ女、夜泳ぐ」(7月10日-16日)
 シンクロ少女「少女教育」(7月19日-23日)
 ナカゴー「黛さん、現る!」(7月25日-30日)
 ロロ「父母姉僕弟君」(8月5日-14日)
 ピンク地底人「明日を落としても」(8月17日-19日)
 ぬいぐるみハンター「ゴミくずちゃん可愛い」(8月22日-27日)
 北京蝶々「都道府県パズル」(8月30日-9月5日)
 アマヤドリ「フリル」(9月8日-17日)

「佐藤佐吉演劇祭2012」への14件のフィードバック

  1. ピンバック: まごころ18番勝負
  2. ピンバック: 待山佳成
  3. ピンバック: ゆうた
  4. ピンバック: 王子小劇場
  5. ピンバック: 薙野信喜
  6. ピンバック: ピンク地底人
  7. ピンバック: ピンク地底人3号
  8. ピンバック: 待山佳成
  9. ピンバック: 司辻有香
  10. ピンバック: 竹子
  11. ピンバック: ピンク地底人5号
  12. ピンバック: 辻企画
  13. ピンバック: 司辻有香

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