象牙の空港「女体出口」(クロスレビュー挑戦編)

「女体出口」公演チラシ
「女体出口」公演チラシ

 「象牙の空港」は京都大学生の伊藤元晴が2012年3月、自作を上演する個人ユニットとして旗揚げ。この名称は「長年住み慣れてすっかり寂れた象牙の塔に、外界との窓口として空港を設置する」とのねらいで付け、「言葉と物語と身体に基点を置いた表現活動を模索」しているそうです(ユニットHPより)。今回の公演は父親に頼まれて「見たこともない祖母を探す」旅らしいのですが、実際の舞台はどうだったのでしょうか。レビューは★印と400字コメント。掲載は到着順。末尾は観劇日時です。(編集部)

水牛健太郎(ワンダーランド編集長)
 ★★★
 「女体出口」という意味ありげな名前の土地を巡る話。政治や地元の名家の内幕などが絡んで、サスペンス風である。硬派のプロットを、椅子取りゲームをしたり、血縁を象徴する「赤いひも」を椅子や人物に巻きつけたり、突然踊ったりして、ほぐしながら語っていくのだが、そのあたりがいかにも小劇場風。無意識のうちに「小劇場はこういうことをしなくちゃいけない」と思ってるんじゃないか、と感じた。面白い工夫もないではなかったが、思いつきのような箇所も多い。どっちに転ぶか紙一重ではあるけれども、もう少し詰めてほしかった。そういう「ほぐし」を除くと結構がっちりした会話劇。会話には精彩があり、まぶされたユーモアはセンスがよく、展開も面白い。ただ、明かされた「秘密」はやや月並みな印象。第2回公演「20のアマルガム」で抱いた期待値からすると、今回公演は平均点といったところなので、★3つ。もっとできるはずだ。
(11月17日13:00の回)

森山直人(演劇批評家/京都造形芸術大学教員)
 ★★☆(2.5)
 平田オリザの文体は「セミパブリックな空間」における人々の対話を基調としているが、本作の登場人物が出会う場所もまたそうした空間が多い。初対面の人間同士がおずおずと言葉を交わし始める。だが、突然彼らはそうした儀礼に耐えられなくなり、隠れていた情動が、穴の開いた水風船から水が噴き出してくるみたいに噴き出してくる。この作品の見るべきところはそうした部分だろう。そこからは「郊外」特有の明るい絶望感が臭ってくる。メインのシーンとサブのシーンが同時に進行したり、並べられた椅子が無意味に倒されたり赤い糸で結ばれたりする空間の使用法は、このフィクションに固有の内的論理が整備されれば、「雑然性の美学」というべきものがもっと効果的に表現されるだろう。俳優の演技が、書かれた言葉を再現することに力点を置こうとしているのか、書かれた言葉を食い破るリアリティに力点を置こうとしているのかが分かりにくい。要は演出の問題である。
(11月17日13:00の回)

広瀬泰弘(ブログ「習慣HIROSE」主宰)http://blog.goo.ne.jp/ponyasu007
 ★★★
 とても不思議なタイトルだ。まず、それだけで興味がそそられる。しかも、設定も実におもしろい。だが、あまりに単純なオチにがっかりした。せっかく提示出来た可能性を、自らの手で、もいでしまうのはもったいなくはないか。安部公房ばりの心の迷宮をさりげない日常のその先に作りながら、その闇の迷路を自らのミスから閉ざす。
 場末の喫茶店での男と女のやりとりから、そこで語られる「女体出口」という不思議な場所 へと導かれ、行方不明になった祖母の謎は解かれていく。そこには忘れ去られていた自分の家族の謎が隠されてある。それはとてもよく出来た入り口である。それだけに、大事な出口の方があれでは納得がいかない。姥捨て山でもいいけど、被災地の被爆した瓦礫の集積所でもいいけど、その先の闇が作品の中でちゃんと描けなくてはつまらない。これは彼が失っていたはずのものを取り戻す旅であるはずなのだ。それが何なのか、それこそが描くべきものだった。惜しい。
(11月16日18:00の回)

中西理(演劇・舞踊批評)
 ★★
 舞台を見てまず考えたのは老人介護や家族・夫婦間の葛藤などを粘着質に描いていくような戯曲テキストの持つ質感からすればオーソドックスな群像会話劇として上演した方が座りがいいのではないかということだった。ところがこの舞台はそうはなっていなかった。舞台上の椅子を弄ぶような演出が多用されるが、なかでも2人の男の争いを椅子取りゲームとして描き出す場面など遊びの要素などを取り入れた演出は面白いアイデアだ、ただ戯曲が本来持つ方向性とは異なる向きを向いているように思えた。「女体出口」はこうした戯曲と演出・演技の方向性のかみ合わなさが、どうにももどかしかったのだ。
 ただ、続けて見ていくと、別の側面も見えはじめる。テキストと様式のかい離は物語性の強い戯曲に対して、演出の部分で意識的に距離感を作ることで感情移入を阻害するようなある種の異化効果を確信犯的に狙ったものなのだろうということが分かってくるからだ。こういう在り方はこの世代によく見られる特徴でもある。それでも今回の場合テキストと演出様式の関係性をもう少し緻密に考える必要があるのではないか。
(11月18日13:00の回)

【上演記録】
象牙の空港#3「女体出口」
京都・東山青少年活動センター(2012年11月16日-18日)
作・演出:伊藤元晴

【キャスト】
 大田雄史
 崎田ゆかり
 小林欣也
 永榮紘実
 谷脇友斗
 三宅陽介

【スタッフ】
舞台監督:ミテイ 塩見沙耶
舞台美術:右田梨子 高原颯時
衣装:小梶慎吾
照明:ぷっちヨ
音響:Production EION
撮影:若井宏樹 牧野裕也
演出助手:小葉竹脩也
宣伝美術:山本
制作:溝川知佳 河西美季 脇山美春

協力:劇団ケッペキ 劇団愉快犯 同志社小劇場 劇団月光斜 ×団ミテイ 京都市東山青少年活動センター シマフィルム

一般前売:¥800 一般当日:¥1000
学生前売:¥500 学生当日:¥800

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください