連載企画「外国人が見る小劇場」第5回

シュリンゲンジーフの挑戦

-たくさんある公演の中から、自分で舞台を選ぶ基準や方向性は何でしょう。どんな内容、どんな方向の作品が見たいと思いますか。

クラウトハイム ドイツでフリーシーンという、公立劇場と別の手法を探って創作している人たちがいます。学生のころから俳優にそれほど興味がなくて、参加型のパフォーマンスというか、意外なことが起きる、結果は分からない、過程を仕掛けるというやり方に惹かれていました。日本だと、Port B の高山明さんのようなやり方です。最初にPort B を見たのが「サンシャイン62」公演(2008319-23日、池袋サンシャイン60周辺地域)でした。自分の参加の仕方によって変わっていくもの、みんなで作り上げるものに興味があります。

【写真は、ウルリケ・クラウトハイムさん。撮影=ワンダーランド 禁無断転載】
【写真は、ウルリケ・クラウトハイムさん。撮影=ワンダーランド 禁無断転載】

 ドイツ演劇の流れで言うと、私にとっていちばん偉大なアーチストはクリストフ・シュリンゲンジーフです。F/Tで「外国人よ、出ていけ!」(Ausländer raus!“, Christoph Schlingensief / Paul Poet)の映像を上映しました(2011111日、東京ドイツ文化会館ホール)。仕掛けを考えるのは彼ですが、彼にも何が起きるか分からない。ときに脱線しますが、社会の中に隠されている葛藤がそのまま表に出てきます。でも結論は出ません。そういうプロセスを仕掛けるものが私にとっておもしろいし、関心があります。

(編注)“Ausländer raus!” 2000年にウィーン芸術週間で展開された7日間のプロジェクト。ウィーン歌劇場の正面に「外国人よ、出ていけ!」と大書されたコンテナハウスを設置。中にいる12人の亡命希望者をめぐって、コンテナの周囲に集まった人々の間で、さまざまな見解がせめぎ合う現場となった。「演劇史に残る事件」と言われている。

-シュリンゲンジーフとPort Bのやり方は違いますか。

クラウトハイム Port Bは柔らかい。ドイツの場合は対立がはっきりしていて、激しく言い争ったりします。日本だと、そういうやり方は合ってないかもしれません。F/T13で行われた公演「東京ヘテロトピア」(2013119-128日、都内各地)を知り合いのドイツ人に案内しました。日本がいま抱えている問題や葛藤はアジアに関係していると思います。それが表に出てこない。出てくる部分は一部だけ。だからこの公演はとてもよかったと思います。何かが爆発するわけではないですけど、普段耳にしない情報を聞ける。普段そういう情報は押さえられていることも浮かび上がるし、表と裏の関連を感じました。特にアジア人の声を日本で聞くことがほとんどない。コンビニや居酒屋で働く中国人というイメージが強いですけど、高山さんのプロジェクトで取り上げたのは、思想的な運動を起こすような人物で、とても参考になりました。

(編注)東京ヘテロトピア 参加者はガイドブックと携帯ラジオを手に、レストランや公園などを歩く。目的の場所でラジオから聞こえてくるのは、かつてその場所に生きた人や縁のある都市、国の物語。観客は未知のアジア、「現実の中の異郷=ヘテロトピア」としての東京に出会っていく-。アジアからの留学生たちの痕跡を歩く「旅」の演劇とも言われる。

おとなしい? 日本人

-シュリンゲンジーフさんがいまの日本で仕掛けるとしたら、東京で行われているヘイトスピーチの動きを演劇的に取り込むような発想を抱くのではありませんか。日本ではそういうアイデアを避けているのでは…。

クラウトハイム うーん。それは日本で成立しますか。

-ウルリケさんが来日した2000年代の日本は、比較的おとなしい人たちが多いというイメージでしょう。でもヘイトスピーチの参加者を、すぐそばで糾弾する抗議デモも組織されています。いまは少数であっても、みながみなおとなしいままではないと思いますけど。時代によって日本人も活発だったし過激な時代もありました。60年代、70年代が典型的ですね。

クラウトハイム そういう時代に出会いたかった、体験したかった(笑)。いまはほとんどの人が動かないでしょう。(東日本大)震災がきっかけになるかと思ったんですが…。

-みなさんが期待するようには動きませんね(笑)。でも何かは動いているはずですよ。それを引き出し、形にするのが芸術かもしれませんね。震災が演劇に与えた影響を感じましたか。

クラウトハイム それは感じました。F/Tでもテーマにしたし、一時期はわりに震災をテーマにした作品が出てきましたが、いまはそれほどでもないと思います。この間、たまたまチェルフィッチュの公演「地面と床」を見たんですけど、岡田(利規)さんはえらいなあと思いました。作品の出来もすばらしかったし、粘り強く震災のテーマを追いかけていくところは彼のすばらしいところだと思います。

-岡崎藝術座の神里雄大さんは震災を露わに取り上げると言うよりも、震災によって引き起こされた状況を引き受けて作品を作っているように思います。

クラウトハイム 昨年、反原発のデモに行きました。大勢の人がいましたが、いまはとても少なくなったそうですね。行かなくなった人の中に私も含まれているので忸怩たるものがありますが、それでも世の中の「空気」が明らかに変わったと感じます。原発は止まっていない、状況は変わってないのに、どうして風向きが変わるのでしょう。

-現状を確認すると、日本では現在、すべての原発が止まっています(201312月末時点)。大飯原発の2基が(2013年)9月に定期検査に入って以降、稼働している原発は一基もありません。何らかの力が作用していると考えるのが理に適ってますよね。そういう事実をことさら知らせようとしない、目立たせないようにする状況があることは間違いありません。「空気」に敏感なんですね。よくも悪くも。まあ、それはそれとして(笑)、ウルリケさんが関心を持つ劇団、アーチストはPort B のほか、どんなところがありますか。

クラウトハイム 一つ取り上げられるのは、この間、高嶺格さんが京都でやったダンス作品「ジャパン・シンドローム~ベルリン編」をネット中継で見ました。京都市役所に映像をプロジェクション(投射)しながら、集まった人たちが踊ってしまうのですが、実は厳密に言うとそんなことはしていいかどうか微妙なところだそうです。

・高嶺格 『ジャパン・シンドローム~ベルリン編』(KYOTO EXPERIMENT 2013

(編注)この1、2年、各地でクラブやレストラン経営者が逮捕され、ダンス規制のあり方が問題になった。抗議の署名活動、国会のダンス文化推進議員連盟の提言などが続いている。風俗営業法では、「社交ダンスに代表されるような男女がペアとなって踊ることが通常の形態とされているダンス(以下「ペアダンス」という。)を客にさせる営業は、その性質上、男女間の享楽的雰囲気が過度にわたる可能性があり、4号営業として規制対象となる」(「客にダンスをさせる営業に係る質疑応答について」平成24年12月、警察庁生活安全局保安課長通達)とされている。(「4号営業」とは、風営法第2条第1項第4号で「ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業」を指す)

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