OM-2 「作品No.7」

◎身体に降り注ぐ言葉の雨
芦沢みどり

「作品No.7」公演チラシ日暮里シアターアーツ/フェスティバル(2.12-3.21)参加作品の『作品No.7』を観て、再び舞台表現における<言葉と身体>について考えさせられた。再び、というのは5年前にこの集団の作品として初めて観た『ハムレットマシーン』によって、舞台表現の根幹である(と思われる)<言葉と身体>の問題を考えるうえで大いに刺戟を受けたからだ。それはハイナー・ミュラーの「ハムレットマシーン」を上演することの意味と正面から向き合った作品だったが、その中で佐々木敦という若い肥満体の俳優が、金属バットを振り回してテレビやテープデッキ、机を次々に叩き壊すシーンがあった。そのナマの破壊力はすさまじく、客席にいて背筋が寒くなるような怖さを覚えたものだが、同時に、彼の身体から発する負のエネルギーが、経済弱者へと追いやられた現代日本の若者層の鬱屈や怒りとダブって見えた。そして破壊シーンは痛ましくも共感できるものに変わっていた。セリフがない分、それは直接的だった。

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ガールズ・トーク「4.48 サイコシス」(サラ・ケイン作、飴屋法水演出)

これまで何回か掲載した「鼎談」企画の復活第一弾として、座談会をお届けします。取り上げるのはフェスティバル/トーキョーで大きな話題を呼んだ「4.48 サイコシス」(作:サラ・ケイン、演出:飴屋法水)。イギリスの女性劇作家の作品を、4人の女性に思う存分語っていただく趣向です。題して「ガールズ・トーク『4.48 サイコシス』」。次々飛び出す目から鱗の発言にご注目あれ。

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劇団サーカス劇場「カラス」

◎抒情から喜劇へ 新生サーカス劇場の挑戦
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

「カラス」公演チラシ見えるかい 亀が歩いてる
時間という名の亀が
少女を惑わすウサギより速く
アキレスの眼にもとまらぬほどに
三〇世紀 東京は森
見てごらん 鉄の木立の上に 一千万のカラスがとまる

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三条会「ロミオとジュリエット」

◎知的刺激は受けたけど、泣かせてほしかったロミオさま
(鼎談)水牛健太郎+杵渕里果+芦沢みどり

三条会「ロミオとジュリエット」公演チラシジュリエット芝居-どんな上演だったか

芦沢みどり:ワンダーランド鼎談第2弾は、下北沢のザ・スズナリで上演された三条会の『ロミオとジュリエット』。三条会は知的なたくらみと遊び心に満ちた演出と、俳優それぞれに個性があって魅力的であることが定評になっています。さて、今回はどういう『ロミオとジュリエット』だったか。公演チラシには「むかしむかしロミオとジュリエットという人がいました。2人とも恋をしました。2人とも死にました。もしかしたら1人だったのかもしれません」というナゾめいた言葉が置かれています。公演パンフレットの方では、「今回の台本は、ジュリエットが登場している場面だけを抜粋して構成しました」と言っている。原作のうち、ヴェローナの広場や街路での立ち回り(喧嘩)、乳母の長セリフ、マキューシオの長セリフ、修道士ロレンスの長セリフなどがばっさりとカットされています。登場人物は八人。ロミオとジュリエット、あとはキャピュレット、キャピュレット夫人、乳母、パリス、ロレンス修道士、ティボルトですね。キャストは全員ジュリエットを演じるシーンもあります。

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野田地図第14回公演「パイパー」

◎美しいイメージの中に世界を投げ捨てる滅びのメルヘン
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

「パイパー」公演チラシキャストがすごっ!松たか子、宮沢りえ、橋爪功、大倉孝二、北村有起哉…と聞いただけで卒倒しそう。そこへもってきてダンス集団コンドルズまで加えてしまって、殿、な、なにをなさるおつもりか???と、クエスチョンマーク3ケ付き好奇心で出かけて行きました。もちろん劇場へ。

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世田谷パブリックシアター「友達」(作:安部公房、演出:岡田利規)

◎鼎談 不条理劇、岡田演出、個性派俳優のブレンドの味
芦沢みどり、香取英敏、水牛健太郎

「友達」公演チラシ世田谷・シアタートラムで開かれた「友達」公演(2008年11月11日-24日)は、芝居好きの間で事前にかなり話題になりました。安部公房の代表的な戯曲を、チェルフィッチュ主宰の岡田利規が演出するうえ、小林十市、麿赤兒、若松武史、木野花、今井朋彦ら人気、実力、個性の際だった俳優が登場するからです。不条理劇と岡田演出と個性派俳優陣との組み合わせが注目されたのでしょう。その結果はどうだったのか、ワンダーランドの寄稿者3人が舞台をさまざまな角度から検証しました。(編集部)

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急な坂スタジオ「ラ・マレア横浜」(上)

横浜・吉田町のを舞台に10月3日-5日の3日間、「ラ・マレア横浜」と呼ばれる街頭パフォーマンスが繰り広げられました。アルゼンチンの劇作家・演出家の作品を、日本人の俳優をオーディションで選んで上演する国際企画です。母国のほか、ブリュッセル、ベルリン、リガ、ダブリンなどで、その都市のコンテクストに合わせたバージョンを発表してきたそうです。では横浜版はどういう相貌をみせたのか。本誌「ワンダーランド」の執筆者に読み解いてもらいたいと主催の急な坂スタジオの協力を得て、本公演はもちろん、「プレトーク」への参加、稽古見学などをお願いしました。以下、レビューを2回に分けて掲載します。(編集部)

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A.C.O.A「人間椅子」

◎観客の半分は女なのだぁーっ!
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

アトリエセンティオは東武東上線・北池袋駅から歩いて五分、路地の突き当たりの線路際にある。これが比ゆでなくマジで線路のすぐ横なのね。かつて舞踏グループが稽古場にしていた小屋だと聞けばナルホドと思うけど。開場までの数十分、ひっきりなしに通過する夕方のラッシュの車両を、暮れなずむ路地裏で眺めているうちに不安になった・・・こんな場所でまともに芝居が観られるのかなぁ。

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「春琴」(サイモン・マクバーニー/演出・構成)

◎身体と言葉‐陰翳のポリフォニー
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

「春琴」公演チラシ谷崎潤一郎は『春琴抄』の冒頭を、<私>が大阪市下寺町にある春琴の墓を訪ねて行く場面で始めている。『鵙屋春琴伝』という架空の原テクストを設定した谷崎は、たまたま入手した小冊子の内容を紹介するという形でこのあと春琴と佐助の物語を展開させて行く。したがって冒頭部分は、墓参りをしている<私>(たぶん谷崎)が物語の作者ではなく解説者であることを読者に印象づけるためのプロローグなのである。さらにこの小冊子は春琴の弟子であり事実上の夫であった佐助が晩年に、そばに仕えた鴫沢てるに話して書き取らせたものであることまでほのめかしている。なぜ谷崎は物語を語るのにこのような複雑な構造にしたのか? それについて岩波文庫版『春琴抄』の解説者である佐伯彰一は、「谷崎流の語りの戦略」だと言っている。一人語りでは当然、語られる知識の内容が限定せざるを得ない。これはその視野の狭さを解消して語りにさまざまな声を取り込むための仕掛けなのだという。つまり作者、解説者、物語の語り手という複数の声を投入して一人語りを多彩なものにする装置というわけだ。

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サーカス劇場「隕石」

◎若さと、かく乱のエネルギーと、真っ当さと
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

「隕石」公演チラシ劇団サーカス劇場・・・どこか郷愁を感じさせる蠱惑的な名前に惹かれて、雨の夕方、下高井戸の「不思議地底窟 青の奇蹟」へ出かけて行った。「隕石」は2001年に東京大学のキャンパスで旗揚げされたグループの14回目の公演だが、筆者はこれが初遭遇。
急な階段を地階へ降りて行くと、え、え、えー!これが劇場なの?何とも狭い空間だ。奥に畳が6枚敷かれた舞台があり、その手前には1列5、6人ほどの座布団席が2列とベンチが1脚。これで全てだ。早速ベンチ席を確保して左右に目をやると、ビリジアン色に塗られたテーブルらしきものが壁いっぱいに畳み込まれていて、見ていると海の底に迷い込んだ気分になる。たぶんこれを壁から外して広げれば、あら不思議。劇場がバーに、バーが劇場に早変わりする仕掛けなのだろう。超矮小空間を二通りに使い分ける悪魔的頭脳に感心してしまった。この壁が狭い空間に不思議な雰囲気を与えていた。

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