劇団文化座「二人の老女の伝説」

◎命を使い切る老女の姿が感動的 二人のベテラン女優が描き出す
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

「二人の老女の伝説」公演チラシ讃岐うどんと団扇で知られる香川県の丸亀で芝居を観た。盛夏の数日を旅に出たいと思っていた矢先、四国で再演される舞台があるという話を耳にした。2005年2月に紀伊国屋サザンシアターで初演された劇団文化座の「二人の老女の伝説」で、私は観そびれていた。タイトルロールの二人の老女を佐々木愛と新井純が演じると聞き、ぜひ観てみたいと思った。そこで旅は四国と定め、この芝居の観劇を旅程に加えた。さいわい出発までに間があったので、つてを頼って上演台本を送ってもらった。台本の表紙には<コーラスと音楽を伴うドラマ:二人の老女の伝説:ヴェルマ・ウォーリス『ふたりの老女』、星野道夫『森と氷河と鯨』他による。脚本・詞・演出=福田善之>とたくさん文字が並んでいる。これは大変。そこで今度は図書館へ走り、ウォーリスと星野道夫の本を借りてきて読んだ。両方ともこの夏の猛暑を忘れるほどの面白さだったが、芝居に対する興味と同時にまた疑問も膨らんで来た。

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ピッポ・デルボノ・カンパニー「戦争」「沈黙」

◎<特異な俳優たち>が芸術と生の壁を爆破する(下)
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

「Shizuoka 春の芸術祭2007」パンフレット雨中観劇の巻

「戦争」を観終わった時、外は雨が降り出していた。どうやら天気予報が当ってしまったらしい。もう一つの演目「沈黙」は野外劇場で夕方7時半の開演である。それまでに雨が上がらなかったら、雨の屋外での観劇ということになる。どういうことになるのやら見当もつかなくて、通りがかったスタッフに尋ねると、みんなでビニール合羽を着て観劇しますという返事。「これがけっこう盛り上がるんですよ」という明るい声に励まされて、芸術センターそばの「ジョナサン」で本を読みながら時間を潰すことにした。晴れていれば劇場のある公園を散策することもできただろうに・・・。

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ピッポ・デルボノ・カンパニー「戦争」「沈黙」

◎<特異な俳優たち>が芸術と生の壁を爆破する(上)
芦沢みどり(戯曲翻訳家)

「Shizuoka 春の芸術祭2007」パンフレット静岡県舞台芸術センターでは2007年4月に芸術総監督が鈴木忠志から宮城聰に交代した。新芸術総監督は初企画となる「春の芸術祭」に16演目を用意したが、そのうちの10作品は海外からの招聘だった。イタリアのピッポ・デルボノ・カンパニーもその一つである。筆者が静岡県舞台芸術センターへ足を運ぶのは、じつはこれが初めて。イタリアからやって来たカンパニーをわざわざ新幹線に乗って観に行くのである。どうせならと、このカンパニーが持ってきた2つの演目を一日で観ることができる日を選び、ちょっとした旅行気分で新幹線に乗り込んだ。2つの演目とは「戦争」と「沈黙」。「戦争」は屋内の静岡芸術劇場(客席数350)で、「沈黙」は野外劇場の「有度」で上演された。

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ヤン・ロワース&ニードカンパニー「イザベラの部屋」

◎音楽とダンスと演劇と美術の融合による記憶のコラージュ
芦沢みどり(戯曲翻訳者)

「イザベラの部屋」公演チラシこの2月に彩の国さいたま芸術劇場でヤン・ファーブルの「わたしは血」を観た。その2カ月足らず後、同じベルギー人という以外何の予備知識もなしに、同じ劇場でヤン・ロワースの「イザベラの部屋」を観た。当然ながら舞台から受けた印象と感動の強度はそれぞれ違うが、どちらもダンス、音楽、演劇、美術が融合した作品だった。

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OM-2「ハムレットマシーン」

◎ぎりぎりのところで成立している<極限の演劇>
 芦沢みどり(戯曲翻訳者)

 1月の中旬に帯状疱疹になってしまった。特に疲れがたまっていたわけでもないから、たぶん加齢とストレスが原因だろう。帯状疱疹というのは、ほぼ24時間、とても痛い。筆者はひと月間、デスクワークはあきらめてワープロから自分を解放し、「ことばと身体」がせめぎ合う舞台芸術を求めて、劇場通いの日々を過ごした。幸いにもこのテーマに絞って演劇、ダンス、パフォーマンスを観ようと思えば、選択肢はいくらでもあった。この傾向は、3月に入ってますます勢いづいているように思う。劇場入り口で配布されるチラシの分厚い束―最近は座席に置かれていることが多いが―それを開演前に眺めていると、「国際」とか「アジア」が付いた芸術祭や演劇祭が目白押しで、領域横断的な演目も数多い。これでは病気が癒えてもなかなかデスクワークに戻れないわけだ。

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太陽劇団「Le Dernier Caravanserial《最後のキャラヴァン宿》」

◎テクストと身体-日本の翻訳劇制作現場で考える  芦沢みどり ▽太陽劇団の最新作に即して  このところ学校でのいじめを苦にした小中学生の自殺が頻発して、教育委員会の対応やマスメディアの報道のあり方も含めて、社会の関心の的 … “太陽劇団「Le Dernier Caravanserial《最後のキャラヴァン宿》」” の続きを読む

◎テクストと身体-日本の翻訳劇制作現場で考える
 芦沢みどり

▽太陽劇団の最新作に即して
 このところ学校でのいじめを苦にした小中学生の自殺が頻発して、教育委員会の対応やマスメディアの報道のあり方も含めて、社会の関心の的になっています。最近の子どもには他者への想像力が欠けている、といった言説もメディアを通して聞こえてきます。昨今の日本が子どもに限らず想像力を欠いた社会であることは間違いないにしても、自他ともに人を尊重しなくてはいけないといった倫理観は、自他の概念が曖昧なまま思考停止のミーイズムに陥っているかに見えるこの国では、いくら学校が道徳教育に力を入れたところでそう簡単に育つものではなかろうに、と思うのですが。

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