趣向「男子校にはいじめが少ない?」short version

◎永遠の夏を生きる男子たち
 水牛健太郎

ちらし 評を書こうという今になって思ったが、不思議なタイトルである。男子校にはいじめが少ない、という説なり調査があるのかどうか知らない。ともかくもタイトルどおり、男子校、の話であり、それもいじめとは無縁の、のほほんとした場面が展開されていく。
 といっても、男子高校生5人を演じるのは、全員女性である。おまけに歌あり、踊りありで、つまりはミュージカル。簡素な裸舞台ながら、いっそ、宝塚みたい、と言ってしまってもよい。
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連載「もう一度見たい舞台」第4回

◎新宿梁山泊「東京アパッチ族」
 水牛健太郎

 調べてみたら、この作品は一九九九年五月から六月にかけて神田花岡町の特設テントで上演されていた。私は一九九九年八月に、結果的に四年間に及んだアメリカ留学に出発したので、その直前に見たことになる。

 その頃の私は、演劇は見なかった。それまでの人生で確かに見たと言えるのは、小学生の時に市の文化会館で見せられた劇(確か、メキシコを舞台にした革命劇だった)と、高校の文化祭の演劇部の公演(作・演出の三年生が白塗りでオカマを演じた)ぐらいである。

 「東京アパッチ族」は、友人に勧められて見た。これがとても面白かったので、留学までの三か月足らずに、あと二、三本演劇を見た記憶がある。もっとも、留学中はブロードウェイで何回かミュージカルを見た程度。アメリカから帰って何か月も経ってから、「そういえば『東京アパッチ族』ってすっごく面白かった」と思いだし、これが演劇を見始める一つのきっかけになった。
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山の手事情社「ヘッダ・ガブラー」

◎生き生きしたゾンビ
 水牛健太郎

 薄暗い青い光で照らされた約2メートル四方の舞台には白い雪(繊維状の材料のようだ)が降り続いており、山のように盛り上がったところが何か所かある。そこに鮮やかな青いドレスを着たヘッダ(山口笑美)が現れると、盛り上がった雪の中から男3人が立ち上がり、ヘッダを取り囲んだ。こうして上演が始まった。
 今回の「ヘッダ・ガブラー」の特徴は何といっても、ヘッダを除く登場人物が「ゾンビ」として舞台に現れることだ。顔は白塗り、衣装はところどころ破れた薄いガーゼ状の布で覆われて、色あせてぼろぼろになった服を表現している。また彼らは舞台への登場と退場の際はぎくしゃくと不自然に身体を歪ませている。小道具は、花束や論文、ピストルなどすべてが、雪で代用されている。俳優が何かに見立てて床の雪を掴み取ると、それは指の間からはらはらと落ちていく。すべてはゆめまぼろし、死者の国での出来事であったかのようだ。

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ゴーヤル・スジャータ「ダンシング・ガール」
フォースド・エンタテインメント「The Coming Storm – 嵐が来た」
バック・トゥ・バック・シアター「ガネーシャ VS. 第三帝国」

◎F/T13の海外ものから
 水牛健太郎

 先日閉幕したフェスティバル/トーキョー。今年は海外演目も大変充実していたようだ。見られなかった作品も多いが、見た範囲で印象に残った3作品についてまとめてみた。

◆ダンシング・ガール
 最初舞台上は暗く、踊り手の姿はほとんど見えない。照明は踊り手の膝、伸ばした右手、頭などごく一部を照らしては、溶暗していく。その繰り返しが随分長く、5分ほども続いた。照明は徐々に明るくなっていくが、それでも踊り手がはっきりとは見えない状態だ。動きはゆっくりで、うごめくよう。
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サンプル「永い遠足」

◎奔放な想像力、「オイディプス王」の物語が背骨
 水牛健太郎

 にしすがも創造舎の劇場は、もともと中学校の体育館だ。がらんとした広さをそのままに、左奥の隅には白いプラスチックの大きな植木鉢がいくつも置かれ、そこから緑のツルが周り回廊の柵にまで伸びていた。持ち主に捨てられたかのような寂しさと、裏腹のたくましさ。右奥の隅にはブルーシートが何枚も、床から周り回廊の上あたりまで覆い、その中にはたぶん足場が組まれている。周囲には立ち入りを阻む黄色いテープとレッドコーン。これもセットなのだろうが、実際に補修工事か何かをしていても違和感はない感じ。全体の印象は、よく計算された雑然さ。
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ロラ・アリアス「憂鬱とデモ」
劇団しようよ「SHIYOUYO EXPERIMENT 2013 使われないプログラム」(番外編)

◎淡い憂愁を帯びたユーモア―KYOTO EXPERIMENT 2013報告(最終回)
 水牛健太郎

 ダブル台風の襲来に、高速道路でバスが立ち往生といった最悪のシナリオが頭に浮かばないこともなかったが、えいままよと出かけてみれば、バスは少しの遅れもなく早朝6時半に京都に到着した。
 京都時代の友人と湯葉など食べて自転車で京都芸術劇場春秋座に駆けつけ、プログラムの1つ池田亮司の「superposition」を見たが、ハイブロウ過ぎて歯が立たない。電子音の猛烈な連打に、深夜バスの疲れもあり、意識が飛ぶことも再三。「映像作品なのでカバー範囲外」ということにして評は遠慮させていただく。
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Baobab「家庭的 1.2.3」
She She Pop「シュプラーデン(引き出し)」
集団:歩行訓練「ゲームの終わり」

◎ごつごつした異文化の手触り―KYOTO EXPERIMENT 2013報告(第4回)
 水牛健太郎

 20日の京都は雨。朝から小雨が降りしきり、時に強くなったり、ふいに止んだり。京都らしい湿った情緒を感じさせる1日だった。自転車には乗れなかったが、この日の会場はすべて三条と五条の間。十分歩いて回ることができた。京都ならではのこんなコンパクトさは嬉しい。
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She She Pop「シュプラーデン(引き出し)」
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木ノ下歌舞伎「木ノ下歌舞伎ミュージアム”SAMBASO”〜バババッとわかる三番叟〜」
笑の内閣「高間響国際舞台芸術祭(Dブロック)」

◎めでたさの感じ—KYOTO EXPERIMENT 2013報告(第3回)
 水牛健太郎

 10月13日の京都はからっと晴れ、まさに観光日和となった。日本全国、いや世界からの家族連れや若者たちが行き交う古都。そこかしこに漂う浮き浮きとした空気に「ちっ」と舌打ちして、ただひとり観劇へと急ぐ偏屈そうな中年男の姿があった。誰あろう私である。
 忘れていた。この時期のバスは死ぬほど遅い。歩くよりは速いが、自転車よりはずっと時間がかかる。渋滞の上に、乗り降りの度に一騒動。「ピーピーピー」「一歩奥へ詰めてくださあい。ドアが閉まりません」「運転手さん、PASMOは使えるの?」……。
 バス移動を選んだのは間違いだった。私は深夜高速バスのサービスでただでもらった市バス一日乗車券を握りしめて後悔に震えた。来週と再来週は絶対に自転車に乗る。そう心に誓った。
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劇団うりんこ「罪と罰」
庭劇団ペニノ「大きなトランクの中の箱」

◎妄想と寓意—KYOTO EXPERIMENT 2013報告(第2回)
 水牛健太郎

 KYOTO EXPERIMENT 2013は例年同様、正式プログラム以外にフリンジ企画がある。今年のフリンジ企画はワークショップとか批評なども含まれるが、演劇・ダンス等の上演に特化したものとしては「オープンエントリー作品」というカテゴリーがある。去年までのフリンジ企画は主催者側がセレクトしており、東京の旬な若手劇団が多かった。今年は「オープン」だけに、「条件を満たせば、ジャンル不問、審査なしで登録可能」だという。そこで地元劇団が多く参加することになった。
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チェルフィッチュ「地面と床」
マルセロ・エヴェリン/デモリッション Inc. 「突然どこもかしこも黒山の人だかりとなる」

◎死者の権利と生者の自由―KYOTO EXPERIMENT 2013報告(第1回)
 水牛健太郎

 今年の3月末、2年住んだ京都を引き払い、東京に戻ってきた。しかし、KYOTO EXPERIMENT報告はせっかく2年やったので、今年も(できれば来年以降も)続ける。平日は東京で仕事、予算の都合もあり週末ごとに深夜バスで5回往復という強行軍になるが、それだけの価値はあるだろう。
 半年ぶりの京都は全く変わっていなかった。いや、変わっているところもあるはずなのだが、バスを降りたその瞬間から何の違和感もなく、この町に住んでいるように感じては「あ、違った。今は東京だ」と思い出すことを何度か繰り返した。
 これからひと月は私の怪しい京都弁も復活である。ひときわ美しい10月の京都を、演劇との出会いを求めて自転車で駆け回りたい。
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マルセロ・エヴェリン/デモリッション Inc. 「突然どこもかしこも黒山の人だかりとなる」” の
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