Hula-Hooper 「WATAC I」

◎現代日本演劇史についてWAGAHA Iが知っている二、三の事柄
 西 悟志

チラシ50(Hula-hooper) ひらめいた、セキタンヲバハヤツミハテツ。千早振る神無月はとうに終わった12月8日の月曜日、Hula-Hooper の『WATAC I』(わたし)楽日のこと、夜更けてから楽日の本日観劇せしと云う北嶋さんより劇評のオファー有、どこに発表云々抜きにしたって今回こそは菊川芝居について何らか書いておかねばならぬと息巻いて覚悟決めていた矢先、渡りに船とはこのこととて、事のうまく運ぶ時には本当に事のうまく回るもの也と思うけれども、さらと書いてみてはという先方のご提案、やWAGAHAIとしてはひとつ演劇作るってほどの大作文になるやもしれぬと考えていたのだから、一風呂浴びながらぐるぐる頭巡らせて書きたいもの求められるもの別個にして書くのやら例えば大長文書き上げてその一部掲載して貰うのやら、もくもく思い巡らせて湯に沈むところ。ひ、ら、め、い、た、このアイデア可能ならばオファー受けた現時点にして石炭をば早や積み果てつつつつつ、つまり『石炭はもう積み終えてしまった…』とは要するにつまりその劇評、オファー受けた現時点にしてほとんど「もうすでに書けている」
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鳥公園「緑子の部屋」

◎鳥公園「緑子の部屋」から考える
(鼎談)落雅季子+鈴木励滋+野村政之

『緑子の部屋』をどう見たか

—11月にはフェスティバル/トーキョー14でも、鳥公園主宰の西尾佳織さんの作品の上演が予定されています。『緑子の部屋』は3月に大阪と東京で上演されました。今回は東京公演についてお話をうかがいます。とてもざっくりした言い方になりますが、緑子という女性がもう死んで居なくなっている状況で、緑子の兄と、一緒に住んでいた大熊という男性と、友だちだった井尾という女性が三人で集まって緑子のことをいろいろ思い出したり、昔のシーンが挿入されたりするという物語でしたね。それから、最初と最後で、とある「絵」について語る場面がキーポイントになっていました。ではまず、お一人ずつ、今日の話の糸口となるようなところから伺いたいと思います。
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shelf「deprived(仮)」

◎私/たちのありかを問う
 中村みなみ

shelf_vol17_omote 「deprived(仮)」という一風変わったタイトルは、当初「private」とされていたらしい。privateとdeprived(奪われた)とは同語源の言葉である。privateには、人間がみな属しているpublicから分離した/所属関係を奪われた状態の意が含まれているそうだ。

 2014年4月に上演された「deprived(仮)」は、時代・国・形式の異なるさまざまなテキストがコラージュされた演劇である。
 shelfはこれまでも「untitled」(2011)、「edit」(2013)等でテキストコラージュに取り組んできたが、今作品は『日本国憲法前文』に始まり、太宰治による小説『おさん』『人間失格』、ベルトルト・ブレヒトの戯曲『セツアンの善人』、武者小路実篤のエッセイ『ますます賢く』、武田泰淳の短編小説『ひかりごけ』、日本国歌『君が代』、童謡『手のひらを太陽に』、賛美歌『アメイジング・グレイス』、英詩人ウィルフレッド・オーエンの『不思議な出会い』と、特に幅広い種類の言葉が引用されている。

 6名の俳優たちはそれぞれが各パートを負う形となっており、川渕優子による『日本国憲法前文』朗誦に続いて三橋麻子が『おさん』の終局部分を語ると、その次には別の俳優が別のテキストを…といった具合に展開していく。
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ぬいぐるみハンター「トムソンガゼル」

◎多層化された可能性
 中村直樹

 新中野に古びた一件の建物がある。「風みどり」。知らなければ見過ごしてしまうような小さな小さな建物だ。だがしかし、その中で展開されたものは大きな大きな世界を物語っていた。

 ぬいぐるみハンターのオルカアタックvol.1「トムソンガゼル」は2014年1月28日から3月2日まで上演された作品である。

 会場となった風みどりは、元々はヨーロッパで仕入れてきた雑貨を売る店だったようだ。なので、作りは洒落た感じである。そして20人も入ればいっぱいになってしまうような狭い空間。そこにパイプ椅子が並べられている。板の間なのでとても寒い。電気ストーブが入り口そばに置いてあるが、それだけでは会場は到底暖まりきらない。目の前にはアコーディオンカーテンが掛かっており、奥の部屋を隠している。

 時間となり、アコーディオンカーテンが開いた。電子レンジに流し台に炊飯器。そこは台所だった。その台所には1人用のテーブルが置いてあり、プレートとカップが置かれている。その席にガゼル役の役者が優雅に座っている。しかし、その優雅な時間はあっという間に崩れ去った。奥の勝手口が開きトムを演じる役者とソンを演じる役者が駆け込んできたからだ。
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ココロノキンセンアワー演劇部「カレー屋の女」

◎新聞紙で作る竈に無言の想い
 西村博子

currywomen0a 公演後毎回催されたアフタートーク「3.11後の演劇を語る」で、公務の傍ら観劇歴30年という佐々木久善氏から仙台をはじめ東日本の様子を聞くことができた。
 それによると大震災を描いた作品は非常に多く、あまり多いので暫く自粛しようよと話し合った演劇コンクールさえあったほどという。佐々木氏は高校演劇の審査員もされているのだが、それでも、津波で亡くなった生徒をモチーフにした宮城県名取北高校の「好きにならずにはいられない」が東北地区の最優秀賞に選ばれ、昨年(2013年)10月に長崎で開かれた第59回全国高等学校演劇大会に出場し、優良賞に選ばれたと。

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アトリエセンティオの8年

◎消費文化のサイクルから離れて(インタビュー)
 山田裕幸(ユニークポイント)+鳴海康平(第七劇場)

 東京・北池袋にあるアトリエセンティオが、8年間の活動を経て3月いっぱいで閉鎖になりました。ユニークポイントと第七劇場という二つの有力劇団の活動拠点であり、毎年開くSENTIVAL!という演劇フェスティバルの会場でもありました。アーティスト本位の運営、地方劇団の招聘、公演終了後に毎回開くトークが観客に好評でした。拠点の開設から閉鎖まで、活動のようすを両劇団の主宰者である山田裕幸さん(ユニークポイント)と鳴海康平さん(第七劇場)に伺いました。(編集部)

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チェルフィッチュ「現在地」

◎「〜だわ」の裏にある恐怖
 仲野マリ

genzaichi_flyerTG 2013年11月から12月にかけて行われたフェスティバル/トーキョーで、岡田利規主宰チェルフィッチュ「現在地」を観た。ある「村」の湖のあたりに突然現れた「青い雲」をきっかけに、「村が破滅するらしい」という噂が聞こえ始め、その村で暮らす7人の女性たちが、その噂を信じるのか信じないのか、その噂を広めるのか広めないのか、噂を広める人間を受け入れるのか受け入れないのか、村から脱出するのかとどまるのかを描いている。
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木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談−通し上演−」

◎南北原作の魅力引き出す
 中西理

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 フェスティバル/トーキョー2013(F/T13)で私が個人的にもっとも期待していた舞台が木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談−通し上演−」だった。今春東京に引っ越したが、それ以前に住んでいた関西でここ数年、もっとも注目している若手劇団が木ノ下歌舞伎だからだ。昨年は東京デスロックの多田淳之介を総合演出に迎え「義経千本桜」の通し上演を行った。私はそれをwonderlandの年末回顧でベスト1に選んだが、この「四谷怪談」もそれとは方向性の異なる公演ながらも、匹敵する水準の好舞台だった。ポストゼロ年代の若手劇団でトップランナーの一角を占めていることを改めて示したといえよう。
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◇墨田区在住アトレウス家 Part 1&2/豊島区在住アトレウス家/三宅島在住アトレウス家《山手篇》《三宅島篇》

◎アトレウス家の過ごし方 その3(座談会)
斉島明/中村みなみ/日夏ユタカ/廣澤梓

■わりと普通になってしまった

廣澤:10月にワンダーランドに掲載した「アトレウス家の過ごし方」その1、その2は、2010年より始まった「アトレウス家」シリーズについて、それらを体験した観客の側から、思い思いに過ごした時間を示し、また考えることはできないか、と企画したものです。

アトレウス家の過ごし方 その1
アトレウス家の過ごし方 その2

 今日はその執筆メンバーに集まっていただきました。この座談会について、まずは発案者の日夏さんよりお話いただけますか。
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NPO法人向島学会×東京アートポイント計画「墨田区在住アトレウス家」Part 1&2

◎アトレウス家の過ごし方 その1
 中村みなみ/日夏ユタカ

 アトレウス家はギリシャの神話や演劇に登場する家族である。一家が現代の東京に住んでいたら?—このような発想から始まったという「アトレウス家」のプロジェクトは2010年にスタートした。『墨田区在住アトレウス家』『豊島区在住アトレウス家』『三宅島在住アトレウス家』と上演の度に名前を変え、一家は住む場所を変えてきた。

 上演は住む人がいなくなった民家、地域の複合文化施設、島の林道などで、いわゆる劇場では行われない。つまり、ここにいれば全てを見通せるという点は設定されていない。そこでは観客が、何を見聞きし、また何を見聞き逃すかを、意識的にも無意識的にも選択することになる。

 家はそこに住む人と場所の両方を意味する。「家」を標榜するこの作品は時間と空間の枠組みであり、訪れた人たちは各自でその「家」での過ごし方を模索することとなる。ここでは中村みなみ、日夏ユタカ、斉島明、廣澤梓の4名の「アトレウス家」での時間を紹介します。
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