エヴァ・フォン・シュワインツ「GH ( ) ST」

◎未完成な幽霊、不完全な“GHOST”
 辻佐保子

マンハッタン中心地での演劇フェスティバル「プレリュード」

 マンハッタン島の中心にそびえるエンパイアステート・ビルディングのはす向かいに、ニューヨーク市立大学 (City University of New York) の大学院がある。そこには演劇研究と実践の架橋として機能することを目的としたマーティン・E・セーガル演劇センターがあり、年に一度「プレリュード」 (The Prelude) という小規模な演劇フェスティバルが催されている (註1)。11回目となる2014年は、10月8日から10日までの3日間にわたって開かれた。

 「プレリュード」は、ニューヨークを拠点とする若いアーティストの支援を理念として掲げている。『浜辺のアインシュタイン』(Einstein on the Beach, 1978)などで知られる演出家ロバート・ウィルソンの下で長くアシスタントを務めたフランク・ヘンチュカーが製作総指揮に就き、4人のキュレーター(クロエ・バス、ジャッキー・シブリース・ドゥルリー、サラ・ローズ・レナード、そしてアリソン・ライマン)がプログラムを組むというシステムをとる。パフォーマンスやインスタレーションは主に2つの劇場(セーガル劇場とエレバス・リサイタル・ホール)とギャラリー、ミナ・リース図書館といった大学院内の施設で上演・展示された。本稿で取り上げるパフォーマンス『GH ( ) ST』(GH ( ) ST)も図書館を舞台にした出品作品の一つである。
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Asia meets Asia「Unbearable Dreams 8 Somewhere」

◎アジアという「もの」
 高橋宏幸

チラシ アジア・ミーツ・アジア(Asia Meets Asia)という、アジアとアジアが出会うとは何か、という問いを、舞台を通して行っている団体がある。1997年に始まって以来、それは継続的に、アジアのさまざまな地域の、そのなかでもとくにインディペンデントで、体制に迎合せず、ポリティカルなイシューを作品に取り混んでいる、といくつも言葉を足すことができる集団の作品を招聘して、フェスティバルを開催していた。
 もしくは、それらの劇団のパフォーマーたちを集めて、コラボレーション作品を作っている。そして、いくつかのアジアの地域を、その作品でツアーする。ただ、ここ最近は、かつてに比べれば規模自体は小さくなり、日本の演劇ギョーカイのなかで見てしまえば、マイナーな流れとなっている。
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【レクチャー三昧】2014年11月

 毎年この時季はフェスティバル/トーキョーも重なり多忙をきわめます。このページで紹介しきれない分は【レクチャー三昧】カレンダー版に掲載致しました。皆さまお身体に気をつけてお過ごし下さい。(高橋楓)
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ダンカン・マクミラン「The Forbidden Zone」ザルツブルク音楽祭演劇公演

◎通りすがりのザルツブルク、「きっかけ」としてのスペクタクル
 高橋英之

 安心した。舞台の上に、大きなスクリーン。これだけ大きなスクリーンだと、字幕も読みやすいだろう。『The Forbidden Zone』という<演劇>は、タイトルこそ英語なのだけど、セリフは英語とドイツ語のバイリンガル上演のようだから、ドイツ語の部分は英語の字幕がないとちょっと心もとない。字幕があっても、そのスクリーンが小さいと、舞台と並行して見ることが難しいことが多くて、ストーリーが追いにくい。でも、舞台の幅の半分以上もあるような大きさのスクリーンだと、その心配はない。そもそも、脚本家も演出家もイギリス人のようだし、字幕がしっかりしていれば、きっと普通に楽しめる<演劇>のハズだ。それにしても、舞台の上は装置で立て込んでいる。左手前には、実物大の列車が置かれ、舞台奥には複数に区切られた部屋がある。こんな空間で、どのような<演劇>が展開されるのだろう。そう思いながらの、観劇前の客席。オーストリア・ザルツブルク郊外、ペルナー・インゼル劇場。期待は、冒頭から、全く違った方向で裏切られる。舞台の上で始まったのは、<映画>だった。
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連載「もう一度見たい舞台」第8回 蜷川幸雄演出「近代能楽集 卒塔婆小町」

◎観劇は初恋のように
 高羽彩

 私の、「演劇」というものに対する興味の芽生えは、小学校中学年頃。
 わりと早いほうなんじゃないかと思う。
 とはいっても「物心ついた頃から子役として活躍してました!」なんて人と比べれば全く話にならないし、興味が芽生えたといっても「将来は女優さんになりたいです!」なんて具体的な目標を早くから掲げたわけでもない。
 あくまでも「なんとなく」。
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トラファルガートランスフォームド「リチャード三世」

◎Tangled Cord, Strangled York, Mediated Tudor – 1970年代終盤の『リチャード三世』
 辻佐保子

 演出家ジェイミー・ロイドが芸術監督を務めるトラファルガー・トランスフォームド (Trafalgar Transformed) の第四弾である『リチャード三世』が、ロンドン中心部のトラファルガー広場に程近いトラファルガー・スタジオ1 (Trafalgar Studio 1) で現在上演されている。トラファルガー・トランスフォームドとは、普段劇場に足を運ばない若年層を観客として取り込むという使命を掲げるプロジェクトである。まだ二シーズン目であるものの、映画やテレビで活躍する俳優を主演に迎えたシェイクスピア劇の上演は話題を呼んでいる。昨年のジェームズ・マカヴォイ主演の『マクベス』に引き続き、今年は映画『ホビット』シリーズやBBCドラマ『シャーロック』で知られるマーティン・フリーマンがグロスター公リチャード役に迎えられた。
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【レクチャー三昧】2014年10月

先日、某無料レクチャーの受付で拍子抜けしたのですが、募集要項に「要申込」と書かれていたにもかかわらず、当日は出欠チェックが全くありませんでした。
申込は半月も前に締め切られており、そんなんだったら昨日まで友人一同に教えて回ったのに、と受付に嫌味を言って来ましたが、主催者側からすればその人気度が当日まで予測できない場合もあるのでしょう。締切が終わっている講座でも、興味をそそられるようでしたら主催者に問合せされることをお薦め致します。
(高橋楓)
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劇団チョコレートケーキ「サラエヴォの黒い手」

◎歴史に向き合う自然な演技
 (鼎談)芦沢みどり(戯曲翻訳)、チンツィア・コデン(演劇研究)、北嶋孝(編集部)

「サラエヴォの黒い手」公演チラシ
「サラエヴォの黒い手」公演チラシ

北嶋 今年は第一次世界大戦の引き金になったサラエヴォ事件からちょうど100年になります。1914年6月28日、当時オーストリア=ハンガリー帝国に併合されていたボスニアの都市サラエヴォで、オーストリアの皇太子夫妻が暗殺されました。犯行グループの青年たちをセルビアが支援したとみたオーストリアは7月28日に宣戦布告。それがドイツやロシア、フランス、イギリスなどを巻き込んだ戦争に発展しました。
 劇団チョコレートケーキの「サラエヴォの黒い手」公演はこの史実に正面から取り組みました。過去の公演では、第一次世界大戦後から第二次大戦にかけて、主にドイツで起きた歴史にスポットを当てた舞台が続いていました。今回はその源流をたどる趣もあります。
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DULL-COLORED POP『プルーフ/証明』 +風琴工房『proof‐証明‐』

◎「しのぶの演劇レビュー」に教えられた「見比べ」の愉悦
高橋 英之

chirashi 観劇後も作品の残像が脳裏から離れず、そうこうするうちに、次々と関連したものに出会ってしまい、やがて、実際に舞台の客席に座っていたときよりも、さらなる深みにはまっていってしまう刺激的な作品がある。そうした作品は、観劇する前からもドラマティックな空気をまとって接近してきたりする。

 DULL-COLORED POP(以下“ダルカラ”)と風琴工房という実力派の劇団が、『proof』という作品をほぼ同時期に東京で上演すると教えてくれたのは、演劇ウォッチャー・高野しのぶさんのメルマガ「しのぶの演劇レビュー」だった。演劇ファンを自認する人なら、お世話になっていない人はいないともいえる貴重な情報源となっているメルマガで、彼女は『proof』について「見比べると、さらに面白いと思います」とコメントしていた。そのメルマガでのコメントは、たまたま出張で滞在していた米国西海岸のシアトルに届けられた。
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