キラリ☆ふじみで創る芝居「耽餌(たぬび)」(作・演出:下西啓正=乞局)

◎全てが自己完結した者の「自我」 屹立する「乞局」の世界
松井周(青年団リンク「サンプル」主宰)

「耽餌」公演チラシ今回の公演は純粋な乞局の公演ではないが、乞局で上演した作品『耽餌』の再演でもあるので、やはり、世界は乞局であった。「キラリ☆ふじみで創る芝居」と冠されたこの舞台は、13人の登場人物の内、10人近いメンバーをオーディションにより選出したらしい。その甲斐あってかどうかは私にはわからないが、乞局の世界を、その世界が持つポテンシャルを目の当たりにすることが出来たと思う。俳優の演技の質は高く、癖のある下西氏の文体を見事に消化していて、乞局の世界に流れる独特のトーンを途切れることなく体現していた。つまり、面白かった。しかし、これはその世界に入っていきたくなったとか、登場人物に感情移入できたとかいうことを意味しない。あくまで乞局の世界は乞局の世界で屹立していた。その屹立ぶりを改めて確認することが出来たのが、今回の収穫だった。

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タッタタ探検組合「ハイパーおじいちゃん3 おじいちゃん月へ行く」

◎面白いことならなんでも演ろう 演劇の可能性を開く舞台
西村博子(アリスフェスティバル・プロデューサー)

「ハイパーおじいちゃん3」公演チラシ運がいいと年に数回、ええッ、こんな○○○芝居あり!?と驚くことがあるが、タッタタ探検組合の「ハイパーおじいちゃん3-おじいちゃん月へ行く」(牧島敦作/牧島・谷口有演出)はまさにその一つだった。○○○にはヘンなと入れてもいいし、楽しいとか素敵なでもいいし、要するに、私にとって新しい発見があり、演劇の可能性をまた一つ開いてくれた、という意味である。

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最優秀賞に山口茜さん(京都) 若手演出家コンクール2006

若手演出家コンクール2006審査風景「若手演出家コンクール2006」(日本演出者協会主催)の最終審査会が5日、東京・下北沢の「劇」小劇場で開かれ、最優秀賞にトリコ・Aプロデュース主宰の山口茜さん(京都)が選ばれました。賞金50万円。観客賞はピチチ5の福原充則さん(東京都)が受賞。今回は97人が応募。第1次、第2次審査で選ばれた5人の優秀賞受賞者が1時間の作品を上演し、約3時間かけて公開審査されました。

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青年団リンク サンプル「シフト」

◎ナチュラリズムとナショナリズムの狭間で、ナラティヴは。
小澤英実(舞台批評)

サンプル「シフト」公演チラシ久しぶりにワクワクする作品に出逢った。青年団の松井周が、自身のユニット「サンプル」を立ち上げた、その旗揚げ公演「シフト」。そこで私が目の当たりにしたのは、「静かな演劇」のヴァリエーションのなかに留まっていたように思えた前作『地下室』から異なるステージに移行して、松井が自身の演出手法を見つけつつあること、そしてここに日本の小劇場演劇にとっての新しい声が生まれつつあるところだった。

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