「春琴」(サイモン・マクバーニー/演出・構成)

◎「可視的であること」への信仰を相対化
野村政之(劇団・劇場制作)

「春琴」公演チラシサイモン・マクバーニー演出『春琴』は、谷崎潤一郎の『春琴抄』についての解釈と考察についての文章の朗読をNHKラジオのスタジオで収録するという舞台設定のもとで、さまざまな趣向をおり交ぜながら、朗読にのせて各場面が演じられた。以下3章にわたって、なんだったのか、考えてみたいと思う。

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新感線プロデュース いのうえ歌舞伎☆號「IZO」

◎平らな目線でふつうの人間を描く  木俣冬(文筆自由労働者)  結論から言ってしまおう。  いのうえひでのりが平らな目線を獲得した。  これまでの新感線は、異界の人間と人間の対立や共存を描く作品が多かった。ハデなアクショ … “新感線プロデュース いのうえ歌舞伎☆號「IZO」” の続きを読む

◎平らな目線でふつうの人間を描く
 木俣冬(文筆自由労働者)

 結論から言ってしまおう。
 いのうえひでのりが平らな目線を獲得した。
 これまでの新感線は、異界の人間と人間の対立や共存を描く作品が多かった。ハデなアクションも多くなるので、斜めになった八百屋舞台が必須だったし、縦横無尽に舞台空間を使っていた。リアルではないが、俳優を前後に立たせ、対話するというドラマチックな見せ方も多く用いていた。

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山岡徳貴子/ 作・演出「着座するコブ」

◎言葉にしづらい何かが滲み出る ブックオフじゃ、こうはいかないだろうな
第二次谷杉(劇作家)

▽閉じ込められる
「着座するコブ」公演チラシ東京芸術劇場小ホール、席は全て埋まっている。開演を知らせるベルが鳴る。観客席の左右、後方からシャッターを閉める効果音が聞こえる。前の席の女性が「えっ」と思わず振り返る。二間くらいの小さな商店とかのシャッターが閉まる音、電動じゃないやつ。心臓がキュッとする、ざわざわ、背中に少し汗が出る。「閉じ込められちゃったよ」心の中でつぶやく私。芝居が始まる。上手半分は古本屋の店内、下手半分にソファと小さな机、応接間、階段があり二階の廊下のようなところ、手すり越しにベッドが見える。下手奥から金槌、のこぎりの生音が断続的に聞こえる。

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青年団若手公演「革命日記」

◎「見える顔」と「顔のない声」 「ソファー」が示す権力の在処
水牛健太郎(評論家)

「革命日記」公演チラシ デザイン:京言葉の力は、暴力と対極にあるものだと思われている。ペンは剣より強し、という格言もある。五・一五事件で海軍将校のピストルに向かい合った犬養毅首相は「話せばわかる」と言葉を遺した。暴力に立ち向かう言論の雄雄しい姿。
しかし、そのような構図では忘れられていることがある。暴力の背後にあるのもまた、言葉の力、言論だということだ。言葉のない暴力はせいぜい街のちんぴらレベル。組織だった強力な暴力はいつも、言葉の力に支えられている。

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3月のクロスレビューはチェルフィッチュ「フリータイム」

 チェルフィッチュの2年ぶりの新作「フリータイム」が5日から東京・六本木のスーパーデラックスで始まりました(-18日まで)。昨年参加したブリュッセルの芸術祭「クンステンフェスティバルデザール」で注目され、ブリュッセルをは … “3月のクロスレビューはチェルフィッチュ「フリータイム」” の続きを読む

 チェルフィッチュの2年ぶりの新作「フリータイム」が5日から東京・六本木のスーパーデラックスで始まりました(-18日まで)。昨年参加したブリュッセルの芸術祭「クンステンフェスティバルデザール」で注目され、ブリュッセルをはじめウイーン、パリの芸術祭との共同制作で新作が実現。ヨーロッパ公演も決まるなど、チェルフィッチュの活動は演劇の先端を切り開くパフォーマンスとして海外でも高く評価されています。
 そこで3月のワンダーランド・クロスレビューはこの「フリータイム」公演を取り上げます。ご覧になった方々のミニレビューを広く募集します。
 名前と肩書き、5段階の評価、300字コメント(ミニレビュー)を編集部まで送ってください。採用分に薄謝を差し上げます。締め切りは3月19日(水)。クロスレビューは週刊マガジン・ワンダーランドに掲載し、間もなくWebサイトに転載します。アドレスは wonderlands(アットマーク)northisland.jp です。

青年団「隣にいても一人」

◎それでも誰かが隣にいる 平田オリザ流不条理劇
鈴木励滋(舞台表現批評)

▽「夫婦になる」とは

「隣にいても一人」公演チラシある朝、目を覚ますと昇平とすみえは夫婦になっていた。
高校で非常勤講師をしつつ小説家を目指す昇平と看護師のすみえは旧知の間柄である。昇平の兄で会社勤めをする義男とすみえの姉で国語教師の春子は別居中でありながらも、良子という子どももいる夫婦なのであった。

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