龍昇企画「夫婦善哉」

◎アゴラにて 旨味すくなき 作之助 なんのかの言っても 生きたもん勝ち

三ヶ月経ってしまった。
五月の舞台である。五月に一回見て、書いて、不評で、「ちょっと練り直します」で三ヶ月。
かくもおそろしや平田オリザ。私は、彼が龍昇企画のために書き下ろしたという触れ込みの前に委縮していた、なんつて。日本の演劇史を「オリザ以前」「オリザ以後」にわけた張本人の脚本+前回公演「モグラ町」でスピーディーにオヤジっぷりを描いた龍昇企画、ひどかった、わけではもちろん、ないのであるが。

平田オリザ本人がチラシの裏に書いた宣伝文が何日たっても劇の印象と合致しなかった。

織田作之助の原作『夫婦善哉(めおとぜんざい)』に登場する、大阪「自由軒」のカレーライスのことを書いていた。自分もそのカレーライスが大好きだということ、そしてそのカレーライスのおいしさを小説中で語った織田さんに捧げる戯曲として、男女が「ひたすら食べ続ける。それだけの話である」と言っていたのである。今回の公演のことを。

え、そんなにうまそうなもん食ってたっけ。

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ポツドール「顔よ」

◎芸能人だから歯が命か
杵渕里果

「顔よ」公演チラシ三浦大輔率いる劇団、ポツドールの新作『顔よ』は、タイトルそのまま、友人に向かって、お前の顔はよいとか悪いとか、お世辞なのに本気にしたか、とか論評しあう、いわば、ミもフタもない芝居である。

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三条会「綾の鼓」

◎団塊ジュニア世代の「ニヤリズム演劇」
 鳩羽風子(新聞記者、演劇評論)

 三島由紀夫が割腹自決を遂げたのが1970年。その2年後に、今回取り上げる『綾の鼓』を演出した関美能留は生まれた。私も同い年だ。「三島」が既に歴史となっていた同世代が、彼の作品をどう受け止め、今の時代にどう映すのか興味があった。

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岡崎芸術座「三月の5日間」

◎見る人と見られる人と、大衆よりもっと大きなもの

お江戸上野広小路邸の、全席桟敷の寄席舞台に、開場と同時に入ったのに、かぶりつき一列にすでに先客がいる。目の前の舞台をテーブル代わりにして、お茶菓子やつけものを並べている。
すぐ後ろに座ると「食べる?」と声がかかった。かぶき揚げと栗のお菓子を食べながら、最前列の「観客」たちの動向を眺める。
「社長! 社長!」と声を上げながらビールを呑むおばちゃんたちと、その隣のフィリピンパブのおねえちゃんとは有り体に言うといかにも下町、という感じで、電車の中でもケータイでしゃべりそうな雰囲気で、現代っ子世代から言うとかなりうっとうしい。目障りだけどしらけた視線を送る以外に対抗しようがないタイプの人達。
が、私を含む二列目の客はにやにやしながらその様を見ている。
すでに芝居が始まっていることを皆分かっているのだ。だって「社長」「部長」と呼ばれている上手客席の二人は、顔まで白黒に塗り分けたパンダの仮装をしてる。いくら寄席を知らなくても、でかいパンダの頭かぶって見に来る客はいないだろう。

で、非日常的な仮装で観客として客席に座っている「社長」と「部長」は、「見る側」なのか「見られる側」なのか。

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クロスレビューはサンプル「家族の肖像」

第2期ワンダーランドの最初のクロスレビューは、サンプル「家族の肖像」を取り上げます。既に公演が始まり、8月31日(日)まで五反田のアトリエヘリコプターで開かれています。
応募要領は、これまでと同じです。☆印による5段階評価。レビュー本文(コメント)400字。名前と肩書き。それに郵便番号と住所を書き添えてください。送り先はwonderlands@northisland.jp 。締め切りは、9月2日(火)となります。一般の方の応募、大歓迎です。採用分には薄謝を進呈します。

これまでのクロスレビューは次の通りです。
http://www.wonderlands.jp/archives/12398/(ポツドール)
http://www.wonderlands.jp/archives/12406/(阿佐ヶ谷スパーダース)

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青年団「眠れない夜なんてない」

◎夢見る力に何かができるか?
大泉尚子

「眠れない夜なんてない」公演チラシ舞台は、南国リゾート地のホテルのロビーのようなしつらえである。バックには椰子系の観葉植物が置かれ、ソファと椅子に男と女がひとりずつ座っている。一人の女が現れて、何気なく言葉をかけ合い、暗転もないまま芝居は始まるともなく始まっている。

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「かもめ・・・プレイ」(エンリケ・ディアス演出)

◎作品と現実との距離を融解 『かもめ』を逸脱、ときに深く読み込む
 高橋宏幸(演劇批評)

 チェーホフの『かもめ』が、『ハムレット』を下敷きにして作られていることはよく言われている。『ハムレット』の台詞が引用される行などは直截的で目につくが、他にも母アルカージナとその息子トレープレフが親子の愛情と苛立ちを爆発させるさまは、ハムレットとガートルードの関係を引き移しているといえるし、母を奪い取って王となったクローディアスは、同じように母の愛人である作家トリゴーリンの位置と重なる。もちろん、人物の対比関係を挙げれば他にもまだまだ共通点はある。また、構造として『かもめ』も『ハムレット』のように、劇中劇として舞台の上演が挿入されて、演劇そのものの形式を問題にする。それはメタシアターとして、作品および演劇という形式性を自己言及する視点を、あらかじめ作品に組み込んだ機能を有しているといえるだろう。

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第2期ワンダーランドを始めるにあたって

 暑い日が続きますが、お元気ですか。
 ワンダーランドのメールマガジン版が100号を迎えたのが6月末。それから2ヵ月あまり、早めの夏休みを過ごしていました。この間、2004年のスタート時から一緒に活動してきたメンバーと、これからどうするか話し合いました。寄稿していただいた何人かの筆者とも意見交換しました。その結果、第2期ワンダーランドを次の通り始めることにしました。

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劇団青羽「足跡のなかで」

◎「私たち」を描く申し分ない同時代劇
西村博子

劇団青羽「足跡のなかで」公演チラシ舞台の冒頭、憂いを含んだピアノ曲。そのリズムに乗って町の人々が列をなしてソ、ソ、ソ、そ、そ、そと、やや漫画チックに走りこんで来て舞台後方や両袖、それぞれ所定の位置につく。と、つづいて青格子のシャツ、スラリと背の高い、ちょっと憂いを含んで美しい青年(李憲在)が中央の小さな空き家、米屋という看板のある廃屋にすうっと立つ。これはイクゾ!と思った。そしてその予感はみごとに的中した。

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