◎神話的ヴィジョンの魅惑と個としての肉体の不在
竹重伸一(舞踊批評)
今迄のBATIKの作品を観てきて踊りのディテールが欠如しているという印象を受けてきた。唯一ディテールを感じたのは「SHOKU」のラスト、数人で横並びになって白い下着姿のお互いの肉体をまさぐりながらゆっくりと前に歩んでくるシーンだけである。ディテールがないということは、つまりダンサーの個としての肉体が感じられないということであり、個としての生(記憶)が感じられないということでもある。代わりに思春期から大人の女性になる微妙な移り目にしか発しないような独特な熱っぽい生理的エネルギーが集合的になって渦を巻くように奔出してくるのである。そして速度。黒田育代の振付の目的はダンサーから余計な自意識を奪い、速度と生理的なエネルギーの美にひたすら奉仕させる抽象的な存在にすることである。