三条会「失われた時を求めて~第7のコース『見出された時』~」

◎忘れえぬ「時」が来て「作品」を生きる 公演史・劇団史・個人史の交点で
 -三条会版「失われた時を求めて」の解説にかえて
 後藤隆基

 そしてある日、すべてが変わる――。

 三条会の「失われた時を求めて~第7のコース『見出された時』~」は、こんな言葉で幕をあけた。公演からひと月が経った今なお、この一言のはらむ〈意味〉が、これほど重く感じられるとは予想もしなかった。もちろんその〈意味〉とは、原作小説の解釈などではなく、舞台をみている自分が勝手に付与していたものなのだけれど、この「ある日、すべてが変わ」ってしまうということは、三条会アトリエにいた誰もが共有しえた感覚だったのではないだろうか。もしかするとそれは、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』とはまったく関わりのない価値観である。けれども、三条会の「失われた時を求めて」にとっては、欠くべからざる価値観であったようにも思われる。とすると、それは同時に、三条会を媒介として、私たちがプルーストとつながりうる瞬間であったかもしれないのだ。
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クロスレビュー挑戦編(5月)の対象団体決まる

 クロスレビュー挑戦編第5回(2011年5月)に応募したのは6団体でした。ワンダーランド編集部で話し合い、次の3公演を取り上げることになりました(上演予定順)。

・ガラス玉遊戯 第4回公演『わたしのゆめ』(作・演出:大橋 秀和)下北沢「劇」小劇場(2011年5月11日-15日)
・趣向「 解体されゆくアントニン・レーモンド建築 旧体育館の話」(戯曲:オノマ リコ、演出:黒澤世莉(時間堂)神奈川芸術劇場大スタジオ(5月21日-23日)
・劇団森キリン『ホッパー』(作:森下なる美 演出:森山貴邦)アトリエ春風舎(5月26日-29日)

 それぞれの公演を見た人は、未発表のレビューであればどなたでも応募できます。締め切りは楽日の翌日。その次の日にサイトに掲載します。詳しい応募要項は次のページをご覧ください。
・クロスレビュー挑戦編応募要項:http://www.wonderlands.jp/crossreview_challenge/

ブルーノプロデュース「ひとがた流し」(クロスレビュー挑戦編第4回)

 今回のクロスレビュー挑戦編は、北村薫「ひとがた流し」を舞台化したブルーノプロデュース公演を取り上げます。結成から3年あまり。「どうしようもなくアナログな身体を持つ俳優たちに、フィジカルな《思い出》とデジタルな《プロフィール》をフィードバックさせ、《記憶と記録》の離散と集合、断片と連続を描いていく」とWebサイトで自分たちの特徴を描いています。3月には写真家・小林紀晴の小説「暗室」を写真スタジオ(の暗室)を使って上演した彼らが、新聞連載の長編小説をどのように取り上げるか注目しました。レビューは星印による5段階評価と400字コメントです。掲載は到着順。(編集部)

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時間堂「廃墟」

◎多層的な「行き場のなさ」から生まれる時代の俯瞰
 齋藤理一郎

 2011年3月30日ソワレにて時間堂「廃墟」を観ました。
 戯曲に描かれたキャラクターたちの個々を実直に演じつつ、終戦直後を生きる人々それぞれの「行き場を失った」感覚をしなやかに作り上げた、奥行きとボリューム感を持った舞台に浸潤されました。
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韓国演劇見学記2011

◎国境を越えられる演劇って何だろう? 韓国演劇見学記2011
 鈴木アツト

 2011年2月10日から一週間、再び韓国の演劇状況を見に行ってきた。前回は、韓国の蜷川幸雄と呼ばれるイ・ユンテク(李潤澤)氏の劇団・演戯団コリペにお世話になり、イ・ユンテク氏の周辺から韓国演劇を覗いた。しかし、あれから韓国語と韓国の演劇について本格的に学び始め、コリペは韓国内でも特別な劇団だということが、おぼろげながらわかってきた。私自身も、2010年には韓国から女優を招いて、日韓国際交流公演なるものを2公演実施し、コリペ以外の韓国の演劇人とのつながりもでき、もう少し詳しくソウルの演劇事情を知りたくなっていった。というわけで、今回の訪韓の目的は、一般的なソウルの劇団の公演や活動を見に行くことであった。同時に、日本の小劇場の劇団が韓国で公演をするためには、何が必要になるのか、具体的に知りたいと思った。このレポートがそういった海外公演のための参考資料になれば幸いである。
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連載「芸術創造環境はいま-小劇場の現場から」 第8回

中島諒人さん(鳥の劇場主宰)
◎地域や社会に必要とされる劇場とは

 今回は、再び地方へと足を延ばし、寄稿者の藤原ちからさん(フリー編集者)とともに、鳥取の鳥の劇場を訪ねました。廃校を活用したこの劇場では、演劇・アートを通して人々と多様なかかわりをもとうと、秋の「鳥の演劇祭」をはじめ、一年を通して多彩なプログラムが展開されています。また鳥の劇場は、劇場名であるとともに創作集団の名前でもあるというところもユニーク。主宰で演出家の中島諒人さんに、お話をお聞きしました。(編集部)

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ブルーノプロデュース「ひとがた流し」公演のレビュー募集

 まだよく知られていない劇団や演劇ユニット、ダンスカンパニーなどに「周知と評価の場」を提供する「クロスレビュー・挑戦編」の次回は、ブルーノプロデュース「ひとがた流し」公演(4月22日-25日、新宿・タイニイアリス)です。北村薫原作をどのように舞台化するか注目です。ブルーノプロデュース主宰の橋本清さんは東京デスロックの演出部所属。ワンダーランドは当公演のレビューを募集します。締めきりは4月26日(火)。公演を見た方はどなたでも応募できます。
 5月公演は締め切り、現在審査中。4月20日(水)に発表します。
 いま6月公演の応募を受付中です。締め切りは5月15日(日)。
 この企画は劇団、演劇関係者からの参加を広く募り、毎月1-2回、複数のレビューを星(★印)付きでワンダーランドに掲載します。旗揚げ間もない劇団、これまでの活動が評価されていないと感じているグループ、短期間の公演で周知/宣伝が広がりにくいカンパニーなどの積極的な応募を歓迎します。詳細は次のページ参照。
クロスレビュー応募要項>>

荒川チョモランマ「偽善者日記」

◎熱が伝わるとき-偽装とベタの間で
 梅田径

「偽善者日記」公演チラシ 劇場MOMOに足を踏み入れれば、舞台中央に鎮座まします螺旋階段のデカさに度肝を抜かれ、同時に不安も覚える午後四時前。荒川チョモランマ『偽善者日記』の観客席は千秋楽を控えてほぼ満席である。
 まず諸注意と主宰の挨拶があった。続いて、元気いっぱいに「エアロビを披露いたします!」の号令がかかるやいなや、俳優たちが満面の笑顔で、舞台いっぱいにあらわれた。モーニング娘。「恋愛レボリューション21」のリズムにあわせて軽快かつ爽やかなエアロビが始まるも、センターに陣取った男の子は階段に足を取られてうまく踊れないようだ。センターのタコ踊りに主宰がぶちギレ、舞台にあがって説教をはじめたかと思いきや、あかりが落ちて暗転した。
 再び照明がつくと、エアロビの時とまったく同じ姿勢で、スーツ姿の男性が上司の女性に怒られている……。

 劇の始まりだ。
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NODA・MAP「南へ」

◎分からないことにチクッとする自虐的嗜好への思慕
 岡野宏文

「南へ」公演チラシ 野田秀樹の演劇は面白い。
 野田秀樹の演劇は分からない。
 このふたつのフレーズを上手に貼り合わせると、こういう命題が出現する。

 世の中には、さっぱり分からないくせに飛びっ切り面白いものがある。

 なかなか頼もしい言葉ではある。とくに演劇を愛し、志すものにとって。
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高嶺格「Melody Cup」

◎民主主義的演出へのアンビバレンス
 竹重伸一(舞踊批評)

 最前列の客席より一段窪んだ所一面に、四面を板で囲まれてブルーシートが敷かれている。奥の壁には白いスクリーン。スクリーンと舞台後方の板の間の通路もパフォーマンス空間である。この1時間45分の作品のラスト、舞台前面の板の前に一列に並んだ12人のパフォーマー全員でビージーズの「メロディ・フェア」を歌うのを聴いている内に舞台作品としては久し振りに幸福な感情に襲われたが、一方で作品全体からは拭い難い違和感を感じる部分も私の中にあることは否定できない。その辺りの感情の曲って来る所を考えてみようと思う。
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