Port B 「Referendum – 国民投票プロジェクト」

◎いつか、トーキョーを離れるために
 堀切克洋

 2011年3月11日。この日を境にして、原発問題をめぐる膨大な発言が蓄積され、今日に至っている。けっして数は多くないが、演劇もまたさまざまなかたちでこの現実に応答しようと試みている。

 「非戦を選ぶ演劇人の会」による朗読劇『核・ヒバク・人間』(8月27-28日、全労済ホール)、劇団ミナモザ(主宰=瀬戸山美咲)の原発をめぐる私小説的なメタ演劇『ホットパーティクル』(9月21日-27日、Space雑遊)、F/T「公募プログラム」に参加しているピーチャム・カンパニーの『復活』(10月29日-11月4日、都立芝公園集会広場)、12月にはドイツの劇作家エルフリーデ・イェリネクが福島第一原発事故について描いた『光のない。』(9月初演)のリーディングが行われる予定である(12月16日-18日、イワト劇場)。

 これらの作品がすでに書かれたテクストの舞台上演を前提としているのに対して、高山明が主宰するPort Bの公演『Referendum-国民投票プロジェクト』(2011年10月11日-11月11日、都内各所および福島県内各所)には、通常の意味におけるテクスト(戯曲)、役者(俳優)、そして舞台(劇場)は存在しない。この公演は、端的に言えば、映像インスタレーションを内蔵したキャラバンカーで各所を巡るというプロジェクトであるが、主軸をなしているのは、「インタビュー」、「フォーラム」、そして「トラベローグ」という三つの要素である。
“Port B 「Referendum – 国民投票プロジェクト」” の続きを読む

Port B 「Referendum – 国民投票プロジェクト」

◎劇評を書くセミナーF/T編 第5回 課題劇評 その1

 劇評を書くセミナーF/T編 第5回(最終回)は11月19日(土)午後、にしすがも創造舎で開かれました。取り上げた公演は2本。F/T主催公演の掉尾を飾ったジェローム・ベル 「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」と、ほぼ1ヵ月間、東京近隣だけでなく福島県内を会場にしたPort B 「Referendum – 国民投票プロジェクト」でした。早稲田大演劇博物館研究助手の堀切克洋さんを講師に迎えた当日のセミナーは、名前を隠して事前配布された劇評を読んで意見交換し、最後に筆者から感想を聴くというスタイルで進みました。属人的な要素をとりあえず外し、書かれた原稿だけを基に合評するのはちょっとスリリングでもありました。ここではPort B 「Referendum – 国民投票プロジェクト」を対取り上げます。

【課題劇評】
1.いつか、トーキョーを離れるために(堀切克洋)
2.それは魂鎮めなのか(大泉尚子)
>> ジェローム・ベル 「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」課題劇評ページ
“Port B 「Referendum – 国民投票プロジェクト」” の続きを読む

ジェローム・ベル 「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」

◎劇評を書くセミナーF/T編 第5回 課題劇評 その2

 「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」公演チラシ
公演チラシ(表)

劇評を書くセミナーF/T編 第5回(最終回)は11月19日(土)午後、にしすがも創造舎で開かれました。取り上げた公演は2本。F/T主催公演の掉尾を飾ったジェローム・ベル 「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」と、ほぼ1ヵ月間、東京近隣だけでなく福島県内を会場にしたPort B 「Referendum – 国民投票プロジェクト」でした。早稲田大演劇博物館研究助手の堀切克洋さんを講師に迎えた当日のセミナーは、名前を隠して事前配布された劇評を読んで意見交換し、最後に筆者から感想を聴くというスタイルで進みました。属人的な要素をとりあえず外し、書かれた原稿だけを基に合評するのはちょっとスリリングでもありました。ここでは「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」を対象にした5本を掲載します。

【課題劇評】(到着順に掲載)
1.イヴはなぜ楽園を追放されたのか(山崎健太)
2.ポピュラー音楽の/による親しみやすさ(中山大輔)
3.なぜ舞台は続けられなければならないのか(クリハラユミエ)
4.ポップスターの悲劇(堀切克洋)
5.イエス、ヒズ・ショー・ゴーズ・オン(都留由子)
>> Port B 「Referendum – 国民投票プロジェクト」課題劇評ページ
“ジェローム・ベル 「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン」” の続きを読む

田上パル「日記ちゃん」「タイトな車」(クロスレビュー挑戦編 第18回)

「熊本弁、多彩なアクション、ファンタジー性を絶妙なバランスで散りばめた、緩急の利いた疾風怒濤の展開で、観劇後の爽快感を生み出す」(劇団HP)という田上パルの公演。今回取り上げるのは、ひと味違うスペシャル2本立て企画です。主宰の田上豊が作・演出する一人芝居「日記ちゃん」と、広島の劇団ブンメシの作品を高羽彩(タカハ劇団)演出、田上も俳優として舞台に立つ「タイトな車」。どんな味わいだったか、★印による5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順。末尾の括弧内は観劇日時です。(ワンダーランド編集部)

“田上パル「日記ちゃん」「タイトな車」(クロスレビュー挑戦編 第18回)” の続きを読む

維新派「風景画-東京・池袋」

◎最も東京らしい呪われた風景画を描く
 岡野宏文

「風景画-東京・池袋」公演チラシ
「風景画-東京・池袋」公演チラシ

 「風景は涙にゆすれ」とは、言わずと知れた宮沢賢治の魅力的な詩のワンフレーズであるけれど、涙にゆすれるような飛び切りの風景の発見こそ、いま私たちが力を注がねばならぬ肝要な営みの一つなのではあるまいか。

 「見た目に美しい自然の景観」というのが「風景」というもののとりあえずの謂であると思われる。だが私たちが日々呼吸するぬくもりをまとった時間の中で、風景とは決して霧にかすんだ摩周湖や逆光の空に赤くはめ込まれた富士の肢体なんて洒落臭いしろものばかりではありえない。銭湯の番台に小銭を置く指先から匂う口紅の甘やかな横顔や、夜の裳裾がともしていくざわめく街角の千の眼も、誰恥じることのない風景の風上である。

 風景はなまめかしいページをしまっている。
“維新派「風景画-東京・池袋」” の続きを読む

遊園地再生事業団「トータル・リビング 1986-2011」

◎幽霊と記号あるいは没入と忘却
 木村覚

幽霊と記号

「トータル・リビング」公演チラシ
「トータル・リビング」公演チラシ

 死者が自分を死者と認識せぬまま現世の夢を見続けたお話、ということだけは分かった。主人公であるドキュメンタリー作家が「あの日」に福島県の塩屋崎灯台下にいたこと。その岬で津波に遭遇し、死に至ったこと。死の事実に気づかぬまま「南の島」にいると思いこんでいたこと。これらのことが終幕直前に突然、彼の仕事先の映像学校の生徒たちによって彼に告げ知らされる。だから、このことは間違いない。

 そうとなれば、天使のような存在感で不思議な問答を繰り返してきた二人の女「欠落の女」と「忘却の女=灯台守の女」は、彼の死後の魂の内を漂うなにかで、彼が自分の死を忘却していたこと(また塩屋崎灯台がその灯を消してしまっていること)のメタファーであり忘却が招いた欠落のメタファーである、ということも分かってくる。
“遊園地再生事業団「トータル・リビング 1986-2011」” の続きを読む

遊園地再生事業団「トータル・リビング 1986-2011」

◎劇評を書くセミナーF/T編 第4回 課題劇評 その1

「トータル・リビング」公演チラシ
「トータル・リビング」公演チラシ

 ワンダーランドの「劇評を書くセミナーF/T編」第4回は11月12日(土)、にしすがも創造舎で開かれました。取り上げた公演は、遊園地再生事業団「トータル・リビング 1986-2011」(2011年10月14日-24日)と岡崎藝術座「レッドと黒の膨張する半球体」(10月28日-11月6日)です。講師の木村覚さん(日本女子大講師)も劇評を執筆。参加者の原稿と併せて公演内容や時代背景、劇作家の特質などにも話が及びました。
 最初に「トータル・リビング 1986-2011」評4本を掲載します。
 この作品は若い女性が舞台奥に飛び降りるシーンを早々に配置。バブル前夜の1986年(チェルノブイリ原発事故が起こった年)と2011年を往還しながら「忘却」と「欠落」をさまよい、「世界の歪みとそれでもなお続く私たちの生活が浮かび上がる」(FTサイト)舞台を、それぞれどのようにとらえたのか-。じっくりご覧ください。掲載は到着順です。

1.「忘却」を忘れられない者たちは、この作品で「忘却」を忘却できるだろうか? (髙橋英之)
2.幽霊と記号あるいは没入と忘却 (木村覚)
3.白くつるんとしたもの (都留由子)
4.忘却に抗い穴を穿て (山崎健太)

“遊園地再生事業団「トータル・リビング 1986-2011」” の続きを読む

岡崎藝術座「レッドと黒の膨張する半球体」

◎劇評を書くセミナーF/T編 第4回 課題劇評 その2

公演チラシ
公演チラシ

 ワンダーランドの「劇評を書くセミナーF/T編」第4回は11月12日(土)、にしすがも創造舎で開かれました。取り上げた公演は、遊園地再生事業団「トータル・リビング 1986-2011」(2011年10月14日-24日)と岡崎藝術座「レッドと黒の膨張する半球体」(10月28日-11月6日)です。講師の木村覚さん(日本女子大講師)も劇評を執筆。課題原稿をたたき台にして、公演内容や時代背景、劇作家の特質などが話し合われました。
 岡崎藝術座「レッドと黒の膨張する半球体」はセミナーで取り上げた公演のうち、最もインパクトがあったという意見でほぼ一致しました。不快と不可解の合わせ技がかかり、なおかつ不思議なほど記憶に引っかかるのはなぜか-。以下の6本はそんな謎にも触れながら舞台をさまざまに読み解いています。当日は、岡崎藝術座の神里雄大さんも参加。活発な討論になりました。掲載は到着順です。

1.「移民」というニセのテーマ (髙橋英之)
2. 「レッドと黒の膨張する半球体」評(水牛健太郎)
3.このとりつくしまのない居心地の悪さ(大泉尚子)
4.明快な物語を切実に訴える過剰な表現(小林重幸)
5.孤独で恐ろしい肖像画(木村覚)(初出:artscape 2011年11月1日号
6.汚れることを恐れているのは誰か? 汚れたのは誰か?(クリハラユミエ)
“岡崎藝術座「レッドと黒の膨張する半球体」” の続きを読む

ピーチャム・カンパニー「復活」

◎地霊が呼び寄せた野外劇
 芦沢みどり

「復活」公演チラシ(表)
「復活」公演チラシ(表)

 観劇の夜(10月31日)、友人二人と御成門駅の出口で待ち合わせ、会場の芝公園23号地を目指して歩き始めて道に迷った。三人が揃いもそろって方向音痴だったわけだが、そのお陰でこの作品が依拠したという中沢新一の『アースダイバー』の世界を部分的ながら実地検分することができた。本の中で東京タワーは「死霊の王国跡」に建てられた電波塔と位置づけられている。増上寺と東京プリンスホテルの間の細くて薄暗い道へと迷い込んだわたしたちは、水子地蔵が立ち並ぶ墓地を横目で見ながらそこを足早に通り抜け、ライトアップされた東京タワーに導かれるようにしてようやく会場に辿り着いたのだった。明るい塔の周辺は、思いのほかひっそりと闇に沈んでいる。芝東照宮のすぐ近くには前方後円墳跡があり、芝丘陵一帯は東京大空襲で一面の焼け野原になったという。中沢は東京タワーを「死のなかに復活の萌芽をふくんだタナトスの鉄塔」と呼んでいる。
“ピーチャム・カンパニー「復活」” の続きを読む

クロスレビュー挑戦編の12月公演決まる

クロスレビュー挑戦編の12月公演が決まりました。
リクウズルーム「ノマ」(12月2日-6日、アトリエ春風舎)と、劇団ヘルベチカスタンダード「夢幻地獄」(12月23日-25日、京都大学内 西部講堂)の2本。東西に別れてのクロスレビューとなります。公演をご覧になった方の投稿を歓迎します。5段階評価と400字コメント。締め切りはいずれも千秋楽の翌日です。
新年1月のクロスレビュー挑戦編の応募公演を受け付けています。実験的な試みや先進的な活動を展開している劇団、カンパニー、ユニットなどの応募を歓迎します。締め切りは12月15日(木)。詳細は、次のページをご覧ください。(編集部)
>> クロスレビュー応募要項