studio salt「八OO中心」

◎演劇的一期一会-今夜からの隣り人
 宮本起代子(因幡屋通信発行人)

「八OO中心」 公演チラシ
「八OO中心」 公演チラシ

 タイトルは「はちまるまるちゅうしん」と読む。
 椎名泉水を座付作家・演出家とし、横浜を拠点に活動するstudio salt(以下ソルト)が最新作の会場に選んだのは、ずばり八OO中心という名のビル最上階だ。中華街の延平門から歩いて数分のところにある。「横浜中華街より世界へ向けて、表現でのコミュニケーションをはかるべく始動したシェアオフィス」(公式サイトより)として、昨年2月にオープンした。この風変わりな名は無限の数を表す「八百万」「∞」に由来し、さまざまなものが集まって円を描くようにつながり、世界に向かって発信したいという願いがこめられている。
 観光客がいっぱいのにぎやかな中華街の一角で、ソルトは週末3日間の上演を4週間行った。
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【レクチャー三昧】2012年7月

 7月から大学も夏休み(名目的には)ですので、公開イヴェントは少なめです。と、書いておいてから検索したら、いやオソロシク沢山見つかってしまいました。ご興味をそそられるものがあれば幸いです。
(高橋楓)
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ロンドン・ヤングヴィック劇場「カフカの猿」

◎猿と人間の狭間からの出口
 關智子

「カフカの猿」公演チラシ
「カフカの猿」公演チラシ

 開演時刻が近くなり、劇場内の「禁煙」と書かれたランプが消灯された。しかし、舞台上の非常口のランプは消えない。妙だと思った。客席上の照明が落とされても、まだ消えない。しばらくしてその非常口から、燕尾服を着て大きな鞄とステッキを持った、小柄な人物が現れた。彼は舞台上のスクリーンに映された猿の写真を見て戸惑ったように肩をすくめ、それから学術的な口調で語り出した、自分がいかにして猿から人間になったかを…。
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ワンツーワークス「ジレンマジレンマ」

◎3.11後の「正義」
 宮武葉子

「ジレンマジレンマ」公演チラシ
「ジレンマジレンマ」公演チラシ

 状況の説明なしに、三つの取り調べを同時進行で見せられる。時間の経過とともに、この三件がいずれも3.11に関わるものであるということが分かってくる。ワンツーワークス「ジレンマジレンマ」は、「正義」とは何かを問いかける意欲作である。タイトルはゲーム理論「囚人のジレンマ」に由来する。ただし、劇中で囚人のジレンマが直接描かれるわけではなく、わずかに第三の取り調べにその痕跡を残す程度である。
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サンプル「女王の器」「自慢の息子」評に応えて

◎生きる「物語」人間
 松井周

 4月11日掲載の山崎健太さんと前田愛美さんの「女王の器」評及び5月2日掲載の西川泰功さんの「自慢の息子」評に対して、サンプル主宰で作・演出の松井周さんが論考を書いてくださいました。上演された作品の劇評、その劇評への作り手からのさらなる言葉という往復運動によって、新たな演劇的磁場が立ち上がりを見せるのではと考えます。(編集部)
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die pratze 「授業」フェスティバル

◎イヨネスコの不条理劇はどう料理されたか?(下)
 芦沢みどり

「授業」フェスティバルのチラシ
「授業」フェスティバルのチラシ

 さて。マガジン294号に掲載された()の続きである。
 前回の文章を読み返してみたところ、実験演劇集団「風蝕異人街」の舞台の記述が言葉足らずだったことに気づいた。このグループはフェスティバルで唯一、テキストのハーケンクロイツのくだりを復活させていた。それについて「どうせなら大日本帝国軍人でやってくれたらよかった」と書いた。そのあとに、「そうすれば日本の加害の歴史が見えてきたはずだ」と補足しておきたい。
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月面クロワッサン「夏の目撃者」(クロスレビュー挑戦編第30回)

 月面クロワッサンは2011年、京都大学在学中の作道雄を中心に旗揚げ。「基本的にはシチュエーションコメディが得意」だが、「ファンタジー、ミステリー、SF、サスペンスといった要素が綿密に織り込まれた、骨太かつトリッキーな構造の群像劇に特長」(劇団サイト)があり、京都を拠点に活動しているそうです。今回は作道雄・丸山交通公園の共同執筆脚本、作道雄演出というスタイルで挑みます。どんな舞台になったのでしょうか。5段階評価と400字コメントをご覧ください。掲載は到着順。各レビューの末尾は観劇日時です。(編集部)

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ロ字ック「鬼畜ビューティー」(クロスレビュー挑戦編第29回)

 ロ字ックは初公演から3年。「女性特有の視線から切り取られるがちゃがちゃ人生観」をモチーフに「人間の本能・性質・悪意を独特のロッキントークでポップに描く」のが特徴だと劇団Webサイトにありました。今回の第5回公演は性格の違う姉妹の愛憎を軸に、学校や風俗店にまで舞台は広がります。実際はどんな展開だったのか、5段階評価と400字コメントの各レビューをご覧ください。掲載は到着順。末尾は観劇日時です。(編集部)

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東京デスロック「モラトリアム」

◎あまやかな拷問、あざやかな審問
 綾門優季

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 劇場に入った瞬間、真っ先に脳裏をよぎった、切迫した疑問は、「観客が、ひとりも、存在しない」という、これまで抱いたこともないような焦燥を募らせるものだった。

 もちろん、存在しないわけはなかった。ただ、そう映らなかった。
 そこにいる人間の、だれが俳優で、だれが観客か、区別する意味を、見失ってしまったのだから。

 舞台もなければ客席もない。目の前に広がるのはただただ真っ白な部屋、劇場であることを知らなければ間違いなくそこは部屋、知っていても劇場としての目印を奪われた空間は紛れもなく部屋、どうしようもなくそこは、空白の部屋とでも呼ぶしかない空間だった。
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バナナ学園純情乙女組「翔べ翔べ翔べ!!!!!バナ学シェイクスピア輪姦学校(仮仮仮)」

◎いわゆるバナナ事件について
  水牛健太郎

公演チラシ
公演チラシ

 バナナ学園純情乙女組(以下「バナナ学園」)の公演『翔べ翔べ翔べ!!!!!バナ学シェイクスピア輪姦学校(仮仮仮)』において、5月27日(日)にトラブルがあった。ツイッターに友人を通して公表された被害者のメールによると「舞台上にいきなりあげられて、知らない男に胸をわしづかみにされて、下半身すり付けられてガンガンされて、それを他のお客様に見せつけて笑われてパフォーマンスにされたことは本当に辛かったです。相手も段ボール被ってて誰かわからないし、土下座してもらいたい」ということである。要するに、バナナ学園のパフォーマンスに巻き込まれた女性観客が、深刻な不快感と怒りの念を抱き、間接的ながら、抗議の意向を表明したということだ。

 バナナ学園のサイトは6月2日付で「不快な想いをさせてしまったお客様ご本人と5月31日時点でお会いし、事の真相をご説明した上でご不快な想いをさせてしまった事に対してお詫び致しました」としている。このように当事者間では一応の決着を見たものの、注目を集める公演で起きた今回の事件(以下「バナナ事件」とする)は、大きな波紋を広げ、ツイッターやブログなどで様々な意見が交わされた。本稿ではバナナ事件について、創造的行為と社会規範の緊張関係という観点から論じてみたい。
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