木ノ下歌舞伎「義経千本桜」(京都×横浜プロジェクト2012)

◎古典と現代の往来-カブク! 若い演劇人たち-
  田中綾乃

「義経千本桜」公演チラシ
「義経千本桜」公演チラシ

 木ノ下歌舞伎は、京都造形大学出身の木ノ下裕一と杉原邦生を中心にして、歌舞伎の古典作品を、現代的視点で多角的に捉え直す試みを行っている若手の劇団である。歌舞伎作品の現代化というのは、いまに始まったことではなく、例えば、花組芝居や山の手事情社、さらに言えばコクーン歌舞伎も古典作品を現代の感覚で再構築する作業を行っている。
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muro式「グラフ~その式を、グラフで表しなさい、~」

◎器用な客演役者と不器用な主演・演出・脚本家による3つのコント
  大和田龍夫

「グラフ」公演チラシ
「グラフ」公演チラシ

 着々と大きな劇場に移っていくmuro式。第1回は見ることができなかったが(チケットは買っていた)、第2回以降、欠かさず見に行くようにしている。今回で初回から4年が過ぎているとのことで、それなりの回をこなしているようだ。ムロツヨシなる役者の存在を知ったのは映画「サマータイムマシン・ブルース」だった。しばらくの間「ヨーロッパ企画」出身の役者だと勘違いしていた(それほど、当時は違和感がなかったというか、個性が薄かったというか)、次第にムロツヨシの存在は、濃いのか、薄いのかよくわからない謎というか、異様な役者という実感を持つようになっていた。
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ピンク地底人「明日を落としても」

◎その一瞬一瞬に前例がない瞬間へ向かうために、ピンク地底人の大いなる遠回り
 羊屋白玉

「明日を落としても」公演チラシ
「明日を落としても」公演チラシ

 京都地下に住むピンク地底人3号さんから電話がきた。かつて一度だけワンダーランドに寄稿した劇評を見つけられての指名を賜ったのである。わたし劇評家じゃないから。と言うと、そういう距離感がむしろ良いんで、と。
 まもなく過去作品の資料なども到着し、上演前のぴりっとしたふわっとした現場に立ち会わせてもらい、本編を拝見し、終演後、3号さんを劇場近くの居酒屋さんでインタビュー。3号さんはコロッケをつつきながら、公演中はあまり食欲がないの。と、地上人っぽいことを言っていた。
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忘れられない1冊、伝えたい1冊 第10回

◎「寝ながら学べる構造主義」(内田樹著、文春新書、2002)
  山口茜

「寝ながら学べる構造主義」表紙
「寝ながら学べる構造主義」表紙

 何が書いてあるのか、一度読んだだけではよく分からなくて、でも分からないのにこれはどうも自分の中に落とし込んだほうが良さそうだぞ、というのがこの本を初めて読んだときの印象でした。そしてこれを皮切りに、私はどんどんと内田樹さんの著書にはまり込んで行くわけですが、未だにこの本は何度読んでも理解した気になれません。同じ内田本でも、「こんな日本で良かったね 構造主義的日本論」や「日本辺境論」などは最後まで非常に口当たりがよくて人に勧める事が多いのですが、この本については本当に全然分かっていないので、人に勧めた事がありません。じゃあなぜ今回、挙げたのかというと、これが私の尊敬する作家、内田樹さんとの出会いとなる本だからです。
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【レクチャー三昧】2012年9月

 気が早いようですが(早くない)、フェスティバル/トーキョー12(10/27~11/25)のスケジュールとにらみあわせながら予定を入れる時期がめぐってまいりました。早く告知して下さるところは本当にありがたいです。
(高橋楓)

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ぬいぐるみハンター「ゴミくずちゃん可愛い」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 8)

「ゴミくずちゃん可愛い」公演チラシ
「ゴミくずちゃん可愛い」公演チラシ
 ぬいぐるみハンターは、「脚本・演出の池亀三太と怪優、神戸アキコ」の2人で旗揚げ。2012年より劇団化。劇団の特徴について、「かわいく装い、ガブッと噛み付く」が如く、ギャグと現実世界の狭間をギリギリアウトで駆け抜ける、とWebサイトで書いています。今回は、「この世のものは全てがゴミ予備軍。だからみんなゴミくずみたいで可愛い。世界を手にしてしまったある男と、世界の片隅でゴミくずと暮らす人々の地球みたいに回る話」だそうですが、どんなステージになったのでしょうか。5つ星(★)の採点と400字のコメントを組み合わせたクロスレビュー。掲載は到着順。レビュー末尾の丸括弧は観劇日時です。(編集部)

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公募クロスレビュー再開

 ワンダーランドの公募クロスレビュー9月公演分は、バストリオ「Very Story,Very Hungry」(横浜・BankART Studio NYK、8月29日-9月 2日)と東葛スポーツ「ビート・ジェネレーション」(原宿・VACANT、9月22日-23日)に決まりました。クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編(王子小劇場主催)も継続中ですが、公募団体のレビューを9月公演から再開します。観劇されたみなさんの投稿を待っています。詳細は >>応募ページをご覧ください。
 再開第1弾のバストリオ公演は今週8月29日(水)から始まります。★印の5段階評価と400字コメントによるレビューを募集します。
 10月公演分の締め切りは9月15日(土)です。

ままごと「朝がある」

◎love the world
 山崎健太

「朝がある」公演チラシ
「朝がある」公演チラシ

 柴幸男は世界に恋している。『わが星』では地球の一生、『スイングバイ』では人類の歩みを作品の構成の根本に置き、『テトラポット』では生命の進化をモチーフとして取り入れるなど、柴は作品に「科学的な」ガジェットを多く取り入れてきた。『朝がある』でも先例に違わず「科学的な」視点が導入されているのだが、これらは全て、柴の世界への恋心の発露なのだ。そもそも科学とは世界のことをもっと知りたいという人間の欲望の表れであり、その意味では相手のことをもっと知りたいと思う恋と何ら変わるところがない。ときに散文的な言葉でつづられる柴の作品が圧倒的なリリシズムを湛えるのはこの恋心がゆえであり、だからこそそこには世界への肯定がある。柴は作品を通して世界への愛を歌い上げる。
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新国立劇場「温室」

◎ただ廻し続けること…その誘惑
 髙橋 英之

「温室」公演チラシ
「温室」公演チラシ

ロブ:  やあ、どうぞギブス君。どうかね、近頃は?
     (二人は握手する。)
      道中楽しかったかね?
ギブス: それはもう、おかげさまで。

 常軌を逸した秩序と奇妙なぬるさが、微妙なバランスをもって共存してきたこの作品のラストシーン。体をゆがませ、極端に足を引きずったロブ(半海一晃)が登場するやいなや、それまで廻り舞台に合わせて繰りひろげられた過剰すぎるなにかや、どうしようもない俗物性はすべてご破算となり、完全静止した舞台に、本物の狂気が張り詰める。半海一晃という役者については、不勉強でよく知らなかったのだが、このわずか数分しかないロブの登場シーンで、舞台を覗きこむ観客を凍りつかせ、そこまでに舞台に登場した全ての役者のエネルギーを一人でさらっていってしまう凄まじさをみせつけられた。
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ピンク地底人「明日を落としても」(クロスレビュー佐藤佐吉演劇祭編 7)

 2006年から活動を始めたピンク地底人。拠点の京都や大阪近辺で活動していたが、今回は東京での初公演。作品は「混沌としたサイケデリックなイメージが漂い」「観客の想像力を喚起するような芝居を企む」という。色川武大やランボーの影響があるとも。王子小劇場が京都から招聘した注目劇団の登場です。レビューは★印による5段階の採点と400字のコメント。レビュー末尾の括弧内は観劇日時です。掲載は到着順。(編集部)

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