田野邦彦(青年団リンク・RoMT主宰)、太田宏(青年団)

◎一人芝居とワークショップによって作り出される《共有体験》:RoMT第4回公演「ここからは山がみえる」再演を前に

 上演時間、3時間30分。出演者、1人。
 しかも日本ではほとんど知られていない英国人作家の翻訳劇である。青年団リンク・RoMTを主宰する田野邦彦は、青年団所属の俳優、太田宏とタッグを組み、2010年にこの壮大な一人芝居を上演し、大きな成果を獲得した。そして初演から3年後の春、マシュー・ダンスター作「ここからは山がみえる」が、ふたたび東京と福岡のほか、全国各地で上演される。インタビューではこの大胆な公演についてのほか、田野邦彦さんには彼のもう一つの演劇活動の軸であるワークショップについて、フランスの舞台でも活躍する太田宏さんには日仏の演劇事情の違いなどを聞いた。
(聞き手・構成 片山幹生@ワンダーランド編集部)
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カトリ企画UR「紙風船文様」

◎3人によるクロスレビュー

 今回の企画は、アトリエセンティオで2013年4月4-7日に上演されたカトリ企画UR「紙風船文様」を同時に観劇した3人の方のお申し出により、それぞれの視点から批評していただいたものです。3人は昨年フェスティバル・トーキョー(通称F/T)の関連企画「Blog Camp in F/T」で知り合い、F/T終了後も不定期に集まっては、各々が観た作品を話し、議論してきたとのことです。
 それぞれ違うバックグラウンドを持つ評者が一つの作品に関して書く事で、「紙風船文様」という作品の様々な側面が浮かび上がってきたことと思います。(編集部)
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東京芸術劇場「マシーン日記」

◎劇評を書くセミナー第9回 報告と課題劇評

「マシーン日記」公演チラシ
「マシーン日記」公演チラシ

 劇評を書くセミナー東京芸術劇場コース最終回(第9回)は2013年4月2日、東京芸術劇場セミナールームで開かれました。取り上げたのは、「マシーン日記」(作・演出:松尾スズキ)(2013年3月14日-31日)です。講師は佐々木敦さん(批評家)でした。
 セミナーはいつものように、執筆者の言葉に始まり、出席者の感想や意見を募り、最後に佐々木さんの質問や解読で締めくくられました。タイトルの「マシーン日記」とはだれが書いたのか、登場人物4人のうち一番かわいそうな人、一番ヘンな人はだれか-。こういう質問もでましたが、見解は文字通りバラバラ。見る人を映す鏡のような舞台だったのかもしれません。
 セミナーの掉尾を飾る劇評がそろいました。了解を得られた6本を掲載します。(編集部)
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流山児★事務所公演「義賊☆鼠小僧次郎吉」

◎だれが日本を盗むのか ― 鼠小僧が消えた闇の今
  新野守広

「義賊☆鼠小僧次郎吉」公演チラシ
「義賊☆鼠小僧次郎吉」公演チラシ

 流山児★事務所が『義賊☆鼠小僧次郎吉』を上演した。安政の大地震からわずか1年2ヵ月ほど後の1857年、江戸市村座の正月興行で上演された河竹黙阿弥の『鼠小紋東君新形(ねずみこもんはるのしんがた)』が原作である。東日本大震災から2年が経ったこの時期に江戸末期の泥棒芝居が選ばれた背景には、崩壊する幕藩体制と現在の日本社会の混迷を重ねる意図があったと思う。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第23回

◎『うみべのまち 佐々木マキのマンガ1967-81』(佐々木マキ 太田出版)
  鳥山フキ

 イラストレーター・絵本作家としても知られるマンガ家・佐々木マキさんのマンガ集です。
 実験的なマンガで、読むのは少しむずかしいです。
 本を開いた時、あまりにもわからなそうなので絶望的な気持ちになりましたが、比較的簡単そうな話から読んでいったら、読めました。
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ハイブリットハイジ座「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル」

◎ひねくれものの祝祭に乾杯!
  梅田 径

 一月頃に酒を酌み交わした某出版社勤務の友人がデタラメに酔っ払いながら「ハイジ座、面白いっすよ!」と強くオススメしていたものだから、劇団名は強く印象に残っていた。なんでもシアターグリーン学生演劇祭の最優秀賞を受賞しているとか、今回劇評の対象とする「ジャパニーズ・ジャンキーズ・テンプル」でおうさか学生演劇祭にも乗り込み(こちらは最優秀劇団賞を逃した)、二都市公演を行うとかで、その名前がほんのり小劇場界にも轟きはじめたころ、本作の一作前、早稲田大学学生会館で公演された短編オムニバス「天然1」を観劇した。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第22回

◎「日常生活の冒険」(大江健三郎著 新潮文庫)
  市原幹也

「日常生活の冒険」表紙
「日常生活の冒険」表紙

本の紹介からしよう。出版元のデータベースに、こうある。

『たぐい稀なモラリストにして性の修験者斎木犀吉―彼は十八歳でナセル義勇軍に志願したのを手始めに、このおよそ冒険の可能性なき現代をあくまで冒険的に生き、最後は火星の共和国かと思われるほど遠い見知らぬ場所で、不意の自殺を遂げた。二十世紀後半を生きる青年にとって冒険的であるとは、どういうことなのであろうか? 友人の若い小説家が物語る、パセティックな青春小説』

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TPAM in Yokohama 2013

◎TPAMエクスチェンジ「地域演劇」グループミーティングレポート
  廣澤 梓

 TPAMが開催地を東京から横浜に移して3年目の今年。それは名称を「東京芸術見本市」(Market)から「国際舞台芸術ミーティング」(Meeting)に変更して3年ということでもある。
 提携事業としてON-PAM(舞台芸術制作者オープンネットワーク)の設立イベントが行われたこともあり、2013年のTPAMは舞台制作者のネットワーク作りの場という性格をより打ち出そうとしていたのではないか。
 ネットワーキング・プログラムの一環として開催されたTPAMエクスチェンジは、青年団・こまばアゴラ劇場の制作であり、ON-PAMの発起人のひとりでもある野村政之さんがファシリテーターを務めた。
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国際演劇協会「第三世代」(紛争地域から生まれた演劇4)

◎『第三世代』と「リーディング公演」との意外な相性
  横堀応彦

「第三世代」リーディング公演チラシ
「第三世代」リーディング公演チラシ

 ドイツと日本を行ったり来たりする生活を始めてから1年以上が経った。
 最近ようやく演劇やオペラの舞台上で使われるドイツ語が分かるようになってきたものの、こちらに来た当初は何のことだか全くわからず、古典ならば話の内容も分かるはずと、ベルリン・シャウビューネ劇場(以下、シャウビューネと略す)で『ヘッダ・ガブラー』を見たときのこと。上演の終盤で客席からテスマン役を演じた同劇場の主演俳優ラース・アイディンガーに対して「前回見たときより、今日のお前にはやる気が感じられない!ちゃんとやれ!」とダメ出しが飛び出したのだ。
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マームとジプシー「あ、ストレンジャー」

◎むうちゃんとゾンビとキリストとを巡って
  福田夏樹

 今度はグアムで無差別殺傷事件が起きた。常夏の島グアムでの深夜の事件。
 ワイドショーでは、金か、薬物中毒か、男女関係か、納得のいく動機を探すのに必死だ。そしてコメンテーターは問う。「グアムには死刑はないんですよね。」。関心は、犯人にいかに厳罰を科すか、願わくば、極刑を科すことができないか。その点に集中する。果たして、犯人に厳罰を科すことで得られるものはなんなのか。犯人はただの罰すべき他者なのだろうか。
 そんなことを考えながら、犯行後に座り込む犯人の姿をテレビにみていると、むうちゃんの姿を思い出さざるをえなかった。
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