範宙遊泳「さよなら日本 瞑想のまま眠りたい」

◎忘れられたものの回帰と日本の終わり
  水牛健太郎

「さよなら日本」公演チラシ
「さよなら日本」公演チラシ

 範宙遊泳は以前短めの作品も含めて3本(「労働です」「うさ子のいえ」「ガニメデからの刺客」)見たが、今回、作風が変化していて驚いた。しかし考えてみれば1年以上間を空けているので、これほど若い作り手であれば大きく変わっても全然不思議ではないのかもしれない。以前見たときの印象は、劇中で物語の進行にルールを課したり、ゲームの要素を盛り込んだりすることで、軽やかな感じを出しているということだった。だが、それほど面白いとは思わなかった。
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国際演劇協会「第三世代」(紛争地域から生まれた演劇4)

◎戸惑う者たち
  關智子

「第三世代」リーディング公演チラシ
「第三世代」リーディング公演チラシ

はじめに

 昨年行われたITI主催のリーディング&ラウンドテーブル『第三世代』(以下『第三世代』)の劇評を書きませんか、というご提案をいただいた時、かなり迷った。
 既にワンダーランドには、横堀応彦氏によるこの公演の劇評が掲載されている。横堀氏はドイツでの上演と比較し、作品のドラマツルギーを明らかにしており、さらに日本における「リーディング公演」という形式が持つ問題点を指摘している。興味深く、説得力のある劇評だった。
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【レクチャー三昧】2013年6月

 劇評講座三本を、ここにご紹介出来ることをうれしく思います。十年ひと昔前、芝居のアンケートにもっとまともなことを書きたくなって劇評講座をあちこちのカルチャースクールで探し回ったものの、殆ど見つからなかったことを思い出します。そもそも演劇関連の講座が絶対的に少なく、日本の現代演劇が語られる講座に至っては皆無に等しかったのです。独りで芝居を観続けており、カルチャーセンターしか思いつかなかったのがいけなかったのかもしれませんが。
 なお、国際演劇評論家協会日本センター/シアターアーツ主催の劇評家講座については、開始日を見落としたまま掲載しそびれており、失礼致しました。今年度より各回1,000円で参加出来るということです。
(高橋楓)
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新国立劇場「効率学のススメ」

◎「効率化」は治癒すべき「がん」であるのか?
  高橋英之

 「改善するためには、測らなければならない」
 トヨタ自動車の製造現場のカイゼン活動で、前人未到の10回の社長表彰を受けたビジネスの世界の大先輩のこの言葉は、いまや、工場に限らず、日常生活にまで浸透している。牛丼チェーンのカウンターに座れば、ものの数十秒で注文した食事が供される。このプロセスは、丼をどの手で取り、だし汁をすくいかける動作まで何秒かかり、カウンターに運ぶまで何歩かかるかが測定され、進化を遂げた成果である。いまではあたり前になった駅の自動改札では、電子カードと検知器の距離、さらには検知器の角度までをも微妙に変化させ、どのくらいのスピードで人が通過できるのかを測定し、効率化が図られたという開発努力がある。測定し、改善し、効率化し、もって充実した生活に貢献する。これは、常に進歩し拡大してゆきたいという人間としての欲望を忠実に反映した、いわば現代の基本原理といってよい。新国立劇場が、<With つながる演劇>と銘打ったシリーズの第1弾として、ウェールズから新進気鋭の劇作家アラン・ハリスと演出家ジョン・E・マグラーを招いて、舞台に上げた作品『効率学のススメ』は、この現代の基本原理に、亀裂を入れようとするものだった。
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カトリ企画UR「紙風船文様」

◎表すこと、現れるもの
  西尾佳織

 アトリエセンティオで2013年4月4日-7日に上演されたカトリ企画UR「紙風船文様」について、先日3人の方の書いた劇評を掲載しました(»)。今回はそれを同上演の構成・演出の西尾佳織さんにお読みいただいた上で、「応答する形で」寄稿をお願いしたものです。(編集部)

*

 私が構成・演出を担当したカトリ企画UR『紙風船文様』の公演が終わってすぐ、ワンダーランドの水牛さんから、山崎健太さん、落雅季子さん、宮崎敦史さんが今回の公演に対する劇評を書いてくださるそうだとうかがった。そして「それに応答するかたちで、作り手からの原稿を」とご提案をいただいた。舞台作品について、腰を据えた、粘り強い対話が必要だと常々思っていたので、一も二もなくお引き受けした。そしていつものパターンで、引き受けてから考え出した。「応答」ってなんだ?
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パルコ・プロデュース「ヒッキー・ソトニデテミターノ」

◎このどうしようもない世界にあなたといるということ
  鈴木励滋

 他者と関わるということは、ほんとうは恐ろしいことである。

 自分の人間関係の質やら規模やらが変わる際、たとえば学校に上がる時とか誰かと付き合うことになった場合とか会社に入る折なんかに、人はうっすら恐ろしさを感じているはずなのだが、大抵はそんな考えに固執などせず、新たな「世界」でいかに支障なく人間関係をこなせるのかという方へと意識を向ける。
 そんな恐ろしさにいちいち囚われてしまうのは、どこかで躓いてしまったことのある者だけなのかもしれない。
 そうなのかもしれないが、誰だって他者との関わりの中で、この自分のことがほんとうは恐ろしくて堪らないのに、それを回避するために、自らの感覚を鈍磨させ思考停止して誤魔化しているだけなのではないかと、わたしはけっこう本気で思っている。
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八幡東区役所×のこされ劇場≡「鐵いろの狂詩曲(ラプソディ)」

◎八幡の街と人を寿ぐ
  廣澤梓

「鐵いろの狂詩曲」公演チラシ
「鐵いろの狂詩曲」公演チラシ

 隙あらば、何かやってやろうと機会を伺って、無邪気に企み顔の俳優たち。平均年齢は70歳を超える。

 よく晴れた空の下、会場である八幡市民会館前の駐車場で、車の誘導をしていた人も、それくらいの年齢だった。どちらにおいでですか、と声をかけられ、劇を見にこちらへ、と市民会館を指差すと、男性はすこし意外に思ったようだった。会場の大ホールに行くには階段を上る必要があった。古い施設のため、エレベーターはない。開演前には手すりにつかまり、スタッフに支えられながら一歩一歩歩みを進めるお年寄りの姿を目にした。そして、大ホールに入るとそこに集う人々のほとんども高齢者なのであった。
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岸井大輔(劇作家)

否定の扱い方を考える中、倫理と観客を見つけた(後編)―コミュニティの外でコミュニティと付き合う人は、つまり観客と呼べると思うんです

 岸井大輔さんの6年間の活動を振り返るインタビュー前編では、その場にいる人全員をキャストとして劇を作るという考えを進めた結果、2010年の『会/議/体』という作品で、いよいよ観客を消滅させることができた。しかし、その時点で演劇でなくなってしまったというお話でした。後半部分の今回は、演劇を成立させるべく、今まさに観客を場に設定しようとしている、その過程について、そして劇作家としての今後の展望についてお聞きしました。(聞き手・構成 廣澤梓@ワンダーランド編集部)
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岸井大輔(劇作家)

否定の扱い方を考える中、倫理と観客を見つけた(前編)―これは演劇じゃないな、掃除だな、と思ったんですよ

 6年前の2007年にロングインタビュー(>>)に登場していただいた劇作家・岸井大輔さん。今回聞き手を務めた廣澤は、昨年より『東京の条件』「シェア大学(仮)実験室」(現『無知な大学』)の講座「定義し創る」で岸井さんのもと、観劇の定義について考えています。1年弱の間、岸井さんの作る演劇に触れる中で、そこではいつもパフォーマーにさせられ、観客でいることは難しいと感じていました。そこで、普段ご自身の劇作についてあまりお話されることない岸井さんに、この6年間の活動を振り返りながら、主に作品における「観客」という観点からお話を伺いました。今回は全2回のうち、前半部分をお届けします。(聞き手・構成 廣澤梓@ワンダーランド編集部)
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のこされ劇場≡「枝光本町商店街」

◎油断を積みあげること、その開きかた
  斉島明

 スターフライヤーの飛行機は鯨を模してペイントされているのだと教えてくれたのは、のこされ劇場≡の女優である沖田みやこだった。スターフライヤー社は福岡空港・北九州空港を主な起点とする航空会社である。全体が黒く、腹のあたりだけが白く塗られた、まさにその飛行機で北九州空港に着いたのが、その日の朝9時頃だった。
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