はえぎわ「ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~」

◎男と女の「典型」を描き出す
 堀切克洋

公演チラシ
公演チラシ

 劇団はえぎわを主宰するノゾエ征爾は、今年2月に『○○トアル風景』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞している。ノゾエを含めた三名に対する同時授賞は、審査員のひとりである野田秀樹の言葉を借りれば、「選考会の混迷ぶり」を示すものでもあった。が、同時に野田は、ノゾエが「去年、受賞するべき作家だった」から「ノゾエ氏の受賞そのものには異論はない」とも述べている。
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【レクチャー三昧】2013年8月

8月は大学は「夏期休暇」(一応、とは教員の知り合い曰くですが)ですので、イヴェントの数は多くありません。新たに情報を入手しましたら【レクチャー三昧】カレンダー版に入力致します。猛暑の折、皆さまご自愛下さいませ。
(高橋楓)
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城山羊の会「効率の優先」

◎劇評を書くセミナー 東京芸術劇場コースII 第2回 報告と課題劇評

 ワンダーランドの「劇評を書くセミナー 東京芸術劇場コースII」第2回は7月6日(土)東京芸術劇場のミーティングルーム7で開かれました。今回取り上げた公演は城山羊の会「効率の優先」で、ある会社のオフィスを舞台に、恋愛と暴力の連鎖が思わぬ事態へと展開していくブラック・コメディ。講師は大岡淳さん(演出家、劇作家、批評家、パフォーマー)でした。当日提出された劇評は16本。そのうち執筆者の了承が得られたものを掲載します。(編集部)
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城山羊の会「効率の優先」

◎はたしてこれは効率を優先した結果なのか?
 大岡淳

「効率の優先」公演チラシ
「効率の優先」公演チラシ

 この芝居のタイトルが『効率の優先』と銘打たれているのは、直接的には、2件の殺人が起きてのち、緊急時の対応を先送りし犯罪を隠蔽してまでも、なお仕事を継続させようとする精神を指しているのだろう。安全対策を先送りにして「安全神話」をふりまくことにばかり専心してきた東京電力に象徴される、日本企業の無責任体質が揶揄されていることは明白である。まずはこの点を評価したい。同じテーマを扱っていても、新国立劇場『効率学のススメ』なる愚作と比べれば、はるかにこちらの方が面白かった。
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ふじのくに⇄せかい演劇祭2013「黄金の馬車」

◎演劇の祝祭性と政治性
 柴田隆子

ふじのくに⇄世界演劇祭2013公演チラシ
演劇祭チラシ © Ed TSUWAKI

 宮城聡演出の新作『黄金の馬車』は、静岡にある舞台芸術公園内の野外劇場「有度」で上演された。境界のない野外空間を有効に使った本作は、演劇祭の名にふさわしく祝祭性に富んでいた。

 舞台中央の白木で作られた簡素な社は、劇中劇を演じる舞台にも、「黄金の馬車」にもなる。登場人物を演じていた俳優は、コロスとして舞台を語り、楽団で演奏もする。演劇という虚構において、本当らしさは見せかけに過ぎず、確かなものは何もない。賑々しい音楽と共に劇場空間そのものも姿を変えていく。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第26回

◎「空気の底」(手塚治虫 秋田文庫・手塚治虫文庫全集)
  鈴木ユキオ

「空気の底」の表紙
「空気の底」表紙

 手塚治虫さんの短編集、「空気の底」を選びました。

 他にもいくつか好きな本がありますし、手塚治虫さんの作品でも他にも推薦したい本があるのですが、今回何を選ぼうかなと思いをめぐらした時に、ふっと頭に浮かんだのがこの本です。さっそく本棚をさがしたのですが、そういえば友達に貸したままになっていました。だからかな、よけいに心の中で印象が強くなっているのかもしれません。
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shelf 「班女/弱法師」

◎「なるほど」がある演出
 水牛健太郎

公演チラシ
「班女/弱法師」公演チラシ

 三島由紀夫は言わずと知れた大作家だが、演劇にも大変な情熱を注いだ人だ。自己演出に凝ったり人をかついだりと、存在自体演劇的だったし、書いた戯曲の数も小説に匹敵するぐらいあった。ひょっとして演劇の方が小説より好きだったんじゃ、と思うほどにもかかわらず、「そもそも三島の戯曲ってどうよ?」とか言われてしまうのは、天才にして思うに任せないもんだ世の中は、ねえ三島君、と急になれなれしく呼びかけてみる。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第25回

◎「ナポレオン」(作者/出版社不明)
  益山貴司

 小学校の図書館で、人気があるのは当然漫画で、「はだしのゲン」は必読のベストセラーだったし、手塚治虫の「陽だまりの樹」は、おっぱいぽろりがあって人気があった。「ズッコケ三人組」シリーズもみんな読んでたし、「ぼくらの七日間戦争」ではじまるぼくらシリーズは、本格的に流行ったのは中学校からで、この頃は一部の女子しか読んでいなかった。
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三条会「三人姉妹」

◎女たちの『三人姉妹』
 梅田径

 去年の『ひかりごけ』が忘れられない。

 洞窟の闇から花咲く天上への大胆な場面転換。美しい舞台美術と衣装、照明、音響、一人で対立する検事と弁護士の両者を演じきった榊原穀の迫力ある演技。いったい何をどう述べればこの魅力を文章に起こせるというのか。それまでも噂や劇評では名前を聞いていたものの、初の三条会は衝撃の一言だった。僕の短い観劇経験の中で静かな衝撃と、心動かされた演劇として、記憶に強く強く残る。
 神奈川の奥地に住んでいる僕にとって、三条会のアトリエがある千葉は行きにくく、いろいろな意味で遠い場所である。旅行というには近すぎるし、他に用事がある時の「ついで」にはすこし遠すぎた。三条会の東京公演は年に一度しかやらない。その機会を逃したらまた一年間待たなければならない
 そのような狂しい思いで求めた三条会の演劇。2013年の東京公演となる今作は、チェーホフの『三人姉妹』であった。当日パンフレットによれば、演出家として長いキャリアと実績をもつ関美能留氏にとっても、今回が初のチェーホフ作品であったらしい。
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小西耕一ひとり芝居「既成事実」

◎俳優の仕事-虚構と現実をむすぶ鍵-
  宮本起代子

「既成事実」公演チラシ
「既成事実」公演チラシ

【俳優小西耕一のこと-荒野に立つ四男-】
 小西耕一の出演した舞台は、2010年春elePHANTMoon(以下エレファント)公演『ORGAN/ドナー編』(マキタカズオミ脚本・演出)や、2011年秋同じくエレファント公演『業に向かって唾を吐く』などをみている。いずれも物語の脇筋や副筋に位置し、堅実で的確な演技をする俳優という印象をもった。
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