忘れられない一冊、伝えたい一冊 第28回

◎「ロック微分法」(渋谷陽一著 ロッキング・オン)
 永山智行

「ロック微分法」表紙
「ロック微分法」表紙

 音楽が思考のスタート地点になっている気がする。

 劇団で「水をめぐる」というシリーズの作品をつくった時に、俳優の発語の様式として、「生活言語イントネーション」なるものを試してみた。これは、語彙としては共通語のそれを使用するのであるが、その発語においては、俳優個々の普段のイントネーションを採用するというものだ。別に、郷土の言葉を大切にしたい、などという思いではなく、話し言葉の音楽性について考えてみたかったのだ。
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ふじのくに⇄せかい演劇祭2013

◎宮城体制の完成へ向けて、或いはお別れの始まり
 柾木博行

ふじのくに⇄世界演劇祭2013公演チラシ
演劇祭チラシ © Ed TSUWAKI

 今年もまた6月の週末は静岡に通った。静岡県舞台芸術センター(以下SPACと表記)が開催する「ふじのくに⇄せかい演劇祭」を観るためである。今年は演劇祭本編で9作品、そして番外編として開催された「ふじのくに野外芸術フェスタ」は4企画6作品が上演された。前身の「静岡春の演劇祭」からリニューアルした一昨年から比べると徐々にだがプログラムの方向性が変わってきているように思う。過去2年はのれんの架け替えを周知してきたのに対して今回は内容そのものを変えたと言えるだろう。
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【レクチャー三昧】2013年9月

 ついに秋がやって参りました。10月開催の講座は【レクチャー三昧】カレンダー版に載せてございます。10月スタートでも申込締切が9月中の講座もございますのでご留意下さい。
(高橋楓)
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ミュンヘン・カンマーシュピーレ「浄化されて/渇望/4.48サイコシス」

◎ポストドラマ的テクストから作り上げられたドラマ
 關智子

【はじめに】
 イギリスの劇作家であるサラ・ケインの作品は、遺族の希望により、上演に際しての大幅な改変・削除が一切認められていない。特に後期の『渇望』(Crave)、『4.48 サイコシス』(4.48 Psychosis)は、いわゆる論理的なストーリー展開がなく、断片的な言葉によって織り上げられている、いわゆる「ポストドラマ的」なテクスト作品でありながら、テクストを解体して再構成するようなポストドラマ的演劇としての作り方は許可されていない。

 ミュンヘン・カンマーシュピーレでの上演はそのような制約を逆手に取り、『浄化されて』(Cleansed)、『渇望』、『4.48』を一回の公演で半ば連続して上演することで、個々の作品には描かれていない一つのドラマを作り出した。
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マームとジプシー「てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。」

◎ジャンルをまたぎ、、、こっきょうをこえて、、、
 芦沢みどり

 「マームとジプシーが初の海外公演をするそうだ。その作品が横浜で上演されている」という話を聞いて、4月27日夕、勇んで横浜・吉田町まで出かけて行ったのであった。

 そもそも私が日本の演劇の海外公演に関心を抱くようになったのは、『Theatre Record』というイギリスの劇評誌を定期購読し始めた10年くらい前からだ。この雑誌はロンドンおよびイギリスの地方都市で上演された舞台の新聞評をコピペしただけ、と言っては失礼だけれど、まあ、あまり編集の手間がかかっていなさそうな紙媒体だが、網羅的なのがすごいと言えばすごい。2週間おきに発行されている。
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岡崎藝術座「(飲めない人のための)ブラックコーヒー」

◎時代を切り取る装置に出会う快感
高橋 英之

「ブラックコーヒー」公演チラシ
「ブラックコーヒー」公演チラシ

 結局、3回も観てしまった。おそらく、人生で初めてのことだ。再演を観るのではなく、初演の作品を、こんなに何度も観るのは。しかも、わざわざ京都まで追っかけての3回目の観劇のあとも、いまだにこの作品が切り込んできたテーマについて、あれこれと思いを巡らせることになってしまっている。岡崎藝術座『(飲めない人のための)ブラックコーヒー』の作品の強度は、それほどまでに、衝撃的であった。
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セロリの会「遠くへ行くことは許されない」

◎善良な人たちの陥った運命
 水牛健太郎

「遠くへ行くことは許されない」公演チラシ
「遠くへ行くことは許されない」公演チラシ

 民家の居間でちゃぶ台を囲み、朝食を食べている二十代から三十代の男女五人。うち何人かはきょうだいのようだが、はっきりとは分からない。活発に会話を交わし、表情も明るく、いわゆる「和気あいあい」の範囲に納まる雰囲気のはずなのだが、見ているうちに何となく落ち着かない気持ちになってくる。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第27回

◎「ローザ・ルクセンブルク」(J.P.ネットル 河出書房新社)
 黒澤世莉

「ローザ・ルクセンブルク」表紙
「ローザ・ルクセンブルク」表紙

 人間にしか興味がないので、人間くさいものが好きだ。私にとって人間くさいものとは、完全無欠の英雄ではなく、魅力的だが時としてそれ以上に欠点が目につくような人物だ。さっそく話は逸れるが、だから夢を題材にした作品はどんなに名作と言われているものも楽しめないし、夢オチに出くわすと落胆する。日常的にも他人の夢の話を聞くことに何の興味も持てず聞き流してしまう。たとえ虚構であっても、虚構の人物たちにとっての現実がはっきりしているものが好きだ。
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枝光本町商店街アイアンシアター

◎誰もがアーティスト
 前田瑠佳

 福岡県北九州市八幡東区枝光本町にある民間劇場「枝光本町商店街アイアンシアター」。この劇場がある地域は新日鉄八幡製鉄所のお膝元として発展し、そして企業の撤退によって衰退していったところである。また、北九州市の中でも最も高齢化が進んでいるといった特徴があるという地域だ。そんな場所で地域のにぎわいを取り戻そうと、空きビルを劇場として再活用してできたのが「枝光本町商店街アイアンシアター」である。この劇場では、劇場としてスタートを切った2009年から秋から冬にかけて「えだみつ演劇フェスティバル」が開催されている。
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