アムリタ「廻天遊魚」

◎構造の結晶と不死者の悲劇を
 梅田径

「廻天遊魚」公演チラシ
「廻天遊魚」公演チラシ

アムリタを見よ!
 アムリタの前々作、第二回公演『n+1、線分AB上を移動する点pとその夢について』を見て、感心したような不安になったような不思議な感慨に捉えられたことを覚えている。
 アムリタは、演出家の荻原永璃、ドラマトゥルクの吉田恭大、俳優の河合恵理子、藤原未歩の四人による劇団である。メンバーは二十代前半、不死の霊薬を意味する劇団名だ。

 アムリタが旗揚げされる前に、荻原の演出、吉田の脚本による尾崎翠原作『第七官界彷徨』を見たことがあった。以来、多分二年ぶりぐらいに見た彼らの演劇は端的にいって「すごくよく」なっていた。その構造はほとんど柴幸男『あゆみ』の類想ではあったけれど(とはいえ、作演の荻原は『あゆみ』を見たことがなかったそうだ)、終盤に至って俳優がそれぞれにアドリブで演技を始めた時、舞台上で蠢く彼らの「夢」のまっすぐさが、若々しく純粋で、そしてちょっとユーモラスでケレン味もある。すごく羨ましくなった。舞台の上を「うらやましいなぁ」と思ったのは初めてだった。
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浙江京劇団「オイディプス王」

◎京劇で演じるギリシア悲劇
 北野雅弘

 新国立劇場で、中国の浙江省の杭州を拠点とする浙江京劇団による『オイディプス王』を観た。毎年、北京・ソウル・東京の持ち回りで開催されるBeSeTo演劇祭の一環で、東京での公演は一日だけだ。京劇の上演はずいぶん昔に「孫悟空大鬧天宮」を観たくらいで予備知識がないのだけれど、『オイディプス』は自分の専門領域とも関係があるので、どんな風に料理するのかしら?という関心が大きい。

 浙江京劇団は、1969年に結成された浙江省唯一の京劇団で、2005年には、中国の文化部によって初の「国家重点劇団」に選定されたまだ若い劇団だ。レパートリーは多岐に及び、新作や伝統的京劇など様々な作品を取り上げてきた。演出と主演を兼ねる翁国生は、まだ若手と言って良いのだろうけれど、劇団の芸術監督を務めている。
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shelf「nora(s)」

◎ノイズが無いということ
 田辺剛

「nora(s)」公演チラシ
「nora(s)」公演チラシ

 shelfの作品のシンプルさは、削られるものはできるだけ削ってだとか、引き算の発想だとか、そういうことで成り立っているのではない。わたしとしては久しぶりのshelf作品だった『nora(s)』において、久しぶりだったからこそと言うべきか、shelfの作品の核を垣間見たように思えた。
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年末回顧「振り返る 私の2013」募集中!

 1年はあっという間。もう師走です。街が冷え込み、山の頂きが白くなる季節。年末回顧アンケート企画「振り返る 私の2013」の時期がやってきました。今年見た公演から「記憶に残る3本」を挙げ、コメント400字で締めくくるワンダーランド恒例の企画です。この1年の観劇体験にとりあえずの区切りを付けてみてはいかがでしょうか。締め切りは12月20日(金)、月末25日頃に掲載予定です。多くの方々の投稿を期待しています。
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忘れられない一冊、伝えたい一冊 第34回

◎ハイラム・ビンガムがマチュ・ピチュを発見する話(タイトル/作者/出版社不明)
 杉山至

 秋口だったと思う。私が小学生だった35年くらい前の。

 小学校の2階の外れ、木漏れ日の入ってくる放課後の図書室でその一冊に出会った。
 インカ帝国? 南米ペルー? マチュ・ピチュ? 当時はまだ、名前も聞いた事のない単語が並んでいて、これが架空の冒険譚なのか実話なのかさえ知らず夢中で文字を追いかけたのを覚えている。
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大橋可也&ダンサーズ「グラン・ヴァカンス」

◎歩行の底に潜む根元的なリズムと時間
 竹重伸一

「グラン・ヴァカンス」公演チラシ
「グラン・ヴァカンス」公演チラシ

 私は舞台芸術には社会に対する思想的な批評性と美的強度が必要だと思う。どちらかならば備えている舞台を時折散見するが、両方となると極めて稀である。その両方を兼ね備えている「グラン・ヴァカンス」は私にとって今年日本で上演されたコンテンポラリーダンスで最も大きな収穫の一つであり、日本のコンテンポラリーダンスの真のオリジナリティーを示すものとして海外ツアーなども望みたい所だ。
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東京芸術劇場「God save the Queen」

◎新しい女性性を巡って(鼎談)
 落雅季子+藤原央登 +前田愛実

 2011年に大きな話題を集めた芸劇eyes番外編「20年安泰。」。ジエン社、バナナ学園純情乙女組、範宙遊泳、マームとジプシー、ロロの五団体が、20分の作品をショーケース形式で見せる公演でした。それに次いで今年9月に上演されたのが、第二弾「God save the Queen」です。今回の五劇団を率いるのは、同じく若手でも女性ばかり。そのことにも着目しながら、この舞台について三人の方に語っていただきました。(編集部)
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