連載企画「外国人が見る小劇場」 第1回

◎スタッフがすばらしい チケット・ノルマにびっくり、演技にがっくり
 金世一さん(韓国)

 日本の劇団、ダンスカンパニーの海外公演が多くなった。海外に出かけて欧米、アジアの演劇に親しむ人も珍しくない。しかし最近は海外から日本にやって来て、小劇場の演劇やダンスに関心を持つ人たちも目に付くようになった。どこにどんな魅力があるのか、共通のテーマやモチーフが見えるのか、異質の何かが隠れているのか-。
 世界の垣根が低くなったと言われている折り、異なる文化的背景で育った「眼」を通してみると、日本発の舞台芸術がはらむ意外な特徴が浮かんでくるかもしれない。日本の演劇やダンスに詳しいアジアや欧米の人たちの話を聞いてみた。
(ワンダーランド編集部)

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サブテレニアン プロデュース 「キル兄(あん)にゃとU子さん」

◎近くて遠い国に伝うべきもの。
 柾木博行

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 晴れ渡った青空の下、ゆったりとのぼり旗がたなびいている。ずんぐりとした年配の男がマイクを片手に話す。
「全国の皆さん、お元気でしたか。今日も世界各地で希望を胸に頑張っておられる海外の同胞や勤労者の皆さん、ボランティアの皆さん、蒼い大海原を渡る外航と遠洋漁船員の皆さん、韓国を守る兵士の皆さん、そして全羅北道金堤市の市民の皆さん、ありがとうございます…」
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サンプル「永い遠足」

◎変態をつづける者たち
 三浦彩歌

 フェスティバル/トーキョー13(F/T13)の主催プログラムの一つである『永い遠足』は、フェスティバルのテーマである「物語を旅する」という観点から見ても、これまでの松井周の発言からしても、とても納得のいく作品であったように思える。(註)

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万博設計「鮟鱇婦人」

◎落語と劇と一人の女優
 小泉うめ

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「鮟鱇婦人」公演チラシ

 「一世一代」というような言葉はいささか古めかしいが、今時この言葉を使うとしたら、このような時なのだと思う。万博設計「鮟鱇婦人」、それは女優・千田訓子の一世一代の一人芝居だった。観た者の心に刻まれて、これから長く語り続けられていくであろう。

 舞台装置は和室の一室を想わせるシンプルなもので、そこにセミの鳴く声が聞こえてきて真夏の様相を醸し出していた。風鈴がぶら下っているが開演時には風はないので音はしていない。照明は裸電球が一つだけ、寂しげに灯っていた。 “万博設計「鮟鱇婦人」” の続きを読む

【レクチャー三昧】2014年2月

 先月に引き続き、まことに少なくて申し訳ございません。数じゃなくて質ですよ、ともたびたび言っていただいてはおりますが、ご興味を引くものがあれば幸いでございます。
(高橋楓)

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ポツドール「愛の渦」パリ公演

◎饗宴の外側にあるもの
 堀切克洋

 ポツドールの作品が、フランスで初めて上演された。上演作品は、2006年に岸田國士戯曲賞を受賞した三浦大輔の出世作、『愛の渦』(2005年)だ。

 ポツドールが、2010年に初めて海外公演(ベルリン)を行った際に選んだ作品は『夢の城』(2006年)であり、2011年夏にブリュッセル、ウィーン、モントリオールで、同年冬にミュンヘンで公演が行われた際にも同様であった。それは端的に、狭小かつ乱雑なアパートの一室で繰り広げられる若者たちの生態が「無言劇」というスタイルによって描かれているからであろう。

 同様の(無言劇的な)スタイルは部分的に見られるとしても、基本的に役者たちの台詞と演技によって構成される『愛の渦』が海外で上演されたのは、去年のベルリン公演が初めてのことだった。今回のフランス上演は、その流れにつづくものである。連日満員の客席には、日本とはやや様子が違って、比較的年齢の高いインテリ層の観客が座席を占めていたようである。
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サンプル「永い遠足」

◎万延元年ではなく、1973年でもなく、2013年の…「遠足」、しかも、「永い」…
 高橋英之

 見知らぬ世界の話を聞くのが病的に好きだった。[注1]
 一時期、十年も昔のことだが、手あたり次第に仕事で出会った人間をつかまえては、自分の知らない世界の話を聞いてまわったことがある。
 カリフォルニアでベンチャー企業を創設した生物学者は、きまって皇居の横のパレスホテルを定宿にしていた。ランチタイムなら時間があると言われて、そのホテルのラウンジのレストランで、ペスカトーレ・ビアンコを食べながら聞いた話は、新型のヌードマウス[注2]の開発についてだった。
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チェルフィッチュ「現在地」

◎「〜だわ」の裏にある恐怖
 仲野マリ

genzaichi_flyerTG 2013年11月から12月にかけて行われたフェスティバル/トーキョーで、岡田利規主宰チェルフィッチュ「現在地」を観た。ある「村」の湖のあたりに突然現れた「青い雲」をきっかけに、「村が破滅するらしい」という噂が聞こえ始め、その村で暮らす7人の女性たちが、その噂を信じるのか信じないのか、その噂を広めるのか広めないのか、噂を広める人間を受け入れるのか受け入れないのか、村から脱出するのかとどまるのかを描いている。
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