SPAC『マハーバーラタ』アヴィニョン演劇祭公演

◎異国趣味と普遍性:フランスの劇評から読み取る宮城聰演出
 片山幹生

【目次】

  1.  はじめに「悦びはわれらとともに! ほら、ここに平和を見出せり!」
  2.  アヴィニョン演劇祭とは何か
  3.  ブルック『マハーバーラタ』の幻影
  4.  観客を取り囲む舞台
  5.  音楽
  6.  甘美な童話の世界へ
  7.  卓越した俳優の技術、ユーモア、そして阿部一徳の語り
  8.  絶賛の声
  9. 「詩的で政治的なフェスティヴァル」の実現:教皇庁前広場での無料特別公演の反響
  10.  総括:ジャポニスム、オリアンタリスムから普遍へ
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世田谷パブリックシアター「マクベス」

◎二つの誘惑、一つの限界
 山本博士

【「マクベス」公演チラシ】
【「マクベス」公演チラシ】

 能楽師であり俳優の野村萬斎が、シェイクスピアの悲劇『マクベス』の構成、演出、主演を担う本公演は、2008年、シアタートラムでのリーディング公演を経て、2010年に世田谷パブリックシアターにて初演を迎え、ソウルやニューヨークでも上演されたものの再演である[注1]。6月初旬のパリと、ルーマニアのシビウでの公演を経て、日本公演が執り行われた。彼は2002年から世田谷パブリックシアターの芸術監督を務めており、1990年のジョナサン・ケント演出の『ハムレット』では主役を演じ、2007年の『リチャード三世』の翻案作品『国盗人』で主役を演じるとともに、演出も担当した。もちろんそれだけには留まらずにシェイクスピア作品に深く関わってきた萬斎だが、そんな彼の『マクベス』は劇の始めから不穏な空気が漂っていた。
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ままごと「戯曲公開プロジェクト」をめぐるインタビュー(2)

◎「いま・ここ」を超える劇性の作り手
 關智子

 前回の記事では、「ままごと」の柴幸男氏と制作・宮永琢生氏に「戯曲公開プロジェクト」の企画意図と今後の発展についてお話を伺った。そこで改めて、「劇作家とはどういう職業なのか?」という問いが浮上した。
 現在、ヨーロッパを中心に、劇作家の仕事を問い直す動きが見られる。それは、いわゆる「戯曲らしい戯曲」を書かない劇作家が増えていることに起因する。
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連載「もう一度見たい舞台」第8回 蜷川幸雄演出「近代能楽集 卒塔婆小町」

◎観劇は初恋のように
 高羽彩

 私の、「演劇」というものに対する興味の芽生えは、小学校中学年頃。
 わりと早いほうなんじゃないかと思う。
 とはいっても「物心ついた頃から子役として活躍してました!」なんて人と比べれば全く話にならないし、興味が芽生えたといっても「将来は女優さんになりたいです!」なんて具体的な目標を早くから掲げたわけでもない。
 あくまでも「なんとなく」。
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トラファルガートランスフォームド「リチャード三世」

◎Tangled Cord, Strangled York, Mediated Tudor – 1970年代終盤の『リチャード三世』
 辻佐保子

 演出家ジェイミー・ロイドが芸術監督を務めるトラファルガー・トランスフォームド (Trafalgar Transformed) の第四弾である『リチャード三世』が、ロンドン中心部のトラファルガー広場に程近いトラファルガー・スタジオ1 (Trafalgar Studio 1) で現在上演されている。トラファルガー・トランスフォームドとは、普段劇場に足を運ばない若年層を観客として取り込むという使命を掲げるプロジェクトである。まだ二シーズン目であるものの、映画やテレビで活躍する俳優を主演に迎えたシェイクスピア劇の上演は話題を呼んでいる。昨年のジェームズ・マカヴォイ主演の『マクベス』に引き続き、今年は映画『ホビット』シリーズやBBCドラマ『シャーロック』で知られるマーティン・フリーマンがグロスター公リチャード役に迎えられた。
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ままごと「戯曲公開プロジェクト」をめぐるインタビュー(1)

◎戯曲のミックステープ
 關智子

 小劇場レビューマガジン・ワンダーランドを訪れる方の多くは演劇が好きな人だと思っている。したがって、今この記事をお読みになっているあなたもその一人と仮定しながら書いている。では、戯曲はどうだろうか。演劇が好きなあなた(仮)は、同じくらい戯曲をお読みになるだろうか。観客に好きな劇作家の名前を訊いて、いや、好きでなくても構わない、知っている日本の劇作家の名前を訊いて、どのくらいの名前が挙がるだろう。日本劇作家協会会員のリストを見ると、意外な多さに驚き、さらに彼らの作品の多くが容易には手に入らないことを知る。大学図書館に行ってジャンルごとに分けられた棚を眺めると「日本戯曲」の棚は狭い。その内現代戯曲は少数であり、世紀末以降となるとさらにその一部しか占めない。
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鳥公園「緑子の部屋」

◎鳥公園「緑子の部屋」から考える
(鼎談)落雅季子+鈴木励滋+野村政之

『緑子の部屋』をどう見たか

—11月にはフェスティバル/トーキョー14でも、鳥公園主宰の西尾佳織さんの作品の上演が予定されています。『緑子の部屋』は3月に大阪と東京で上演されました。今回は東京公演についてお話をうかがいます。とてもざっくりした言い方になりますが、緑子という女性がもう死んで居なくなっている状況で、緑子の兄と、一緒に住んでいた大熊という男性と、友だちだった井尾という女性が三人で集まって緑子のことをいろいろ思い出したり、昔のシーンが挿入されたりするという物語でしたね。それから、最初と最後で、とある「絵」について語る場面がキーポイントになっていました。ではまず、お一人ずつ、今日の話の糸口となるようなところから伺いたいと思います。
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マームとジプシー「ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと———-」

◎食卓は待っているか?
(座談会)林カヲル+藤倉秀彦+麦野雪+大泉尚子

「わかりやすさ」をめぐって

藤倉秀彦:6月に上演されたマームとジプシー「ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと———-」。本題に入る前に、この作品の大まかなアウトラインを説明します。舞台は海辺の小さな町で、中心となる登場人物は、長女、長男、次女の三人。ある夏、長女と次女がそれぞれの娘を連れ、長男がひとり暮らす実家を訪れる。集まったひとびとは卓袱台をかこみ、食事をするわけですが、三人きょうだいの思い出の場であるその家は、区画整理によって取り壊されることが決まっているんですね。 “マームとジプシー「ΛΛΛ かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと———-」” の続きを読む