杉山剛志氏(演出家)、蔡恵美(チェヘミ)氏(女優)

◎状況を信じることのできる演劇:海外戯曲を自然にダイナミックに 演劇集団《ア・ラ・プラス》

 2011年の6月に、アトリエセンティオで見たダリオ・フォー作の一人芝居、「女がひとり」の上演は鮮烈だった。濃密な饒舌体で書かれたせりふを、70分のあいだ、しっかりとコントロールし、堂々たる演技で舞台空間を支配するチェヘミさんの演技が印象的だった。この公演で私はア・ラ・プラスという演劇ユニットに関心を持ったのだが、この後、チェヘミさんの出産、育児のため、ア・ラ・プラスの公演は行われなかった。

 ア・ラ・プラスに再会するのは、「女がひとり」上演から3年以上経過した昨年11月だった。ア・ラ・プラスの二人は、日本・セルビア演劇交流プロジェクトという枠組みで、セルビアの演劇作品の上演をブレヒトの芝居小屋で行った。東欧、それも日本にはおそらくこれまでほとんど紹介されていていないセルビアの現代戯曲の上演ということに好奇心をそそられた。私にとって二回目となる杉山剛志演出、チェヘミ出演の芝居、「バルカンのスパイ」は、3年の公演ブランクを感じさせない密度の高い充実した公演で、私は大いに満足した。その公演チラシで、演出の杉山剛志さんとチェヘミさんをはじめ、すべての出演者がスタニスラフスキー・システムの教育を受けていることが強調されていることに、私は関心を持った。心理的写実主義に基づくスタニスラフスキーの演劇理論は、少なくとも今の東京の小劇場シーンでは時代遅れといった雰囲気がある。しかしア・ラ・プラスは、敢えてスタニスラフスキー・システムを標榜し、その舞台表現は東京の他の小劇場劇団とは異質の雰囲気を持っている。海外現代戯曲を中心とした上演作品の選択にも独自の傾向がある。いったい彼らはどこからやってきて、何を目指しているのだろうか? その来歴と演劇美学について話を聞いた。
[聞き手・構成:片山幹生(ワンダーランド編集部)]

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SPAC「マハーバーラタ」

◎儀礼と演劇、近代を再考する手つきについて―SPAC『マハーバーラタ』ステートメント批判
 川口典成

「これは儀礼ではありません。儀礼についてのダンスなのです」
ピナ・バウシュ i

 2014年の日本演劇界の大きな話題のひとつであったSPACの『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』。アヴィニョン演劇祭に公式プログラムとして招聘され、7月にブルボン石切場にて上演。9月には、KAAT神奈川芸術劇場にて日本凱旋公演が行われた。アヴィニョンでは好評だったとNHKなど大メディアでも喧伝され、また9月の凱旋公演も大いに盛り上がり、ネット上にも賛辞があふれた。そうした言説の中に「祝祭的」「祝祭感」という言葉がよく見られたのは、SPAC自体がこの作品を「祝祭劇」と銘打っていることからも頷ける。だが、ここで問いたいのは、「祝祭」とはなんだろうか、ということである。演出家・宮城聡がアヴィニョンで発表したステートメントは、まさに「祝祭」をめぐってのものだった。
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