#3 市村作知雄(東京国際芸術祭)

日本が変わっている

-市村さんが助教授をしているのは、東京芸術大学の音楽学部音楽環境創造科ですね。国の大学に演劇専門の研究センターがなくて、芸術大学に「演劇」が落とし込まれるとこういう形になるというのは解せない面があるのですが(笑)

市村 なぜですかね(笑)。

-芸大大学院にやっと映像研究科ができました。音楽環境創造科もいいんですけど、演劇分野に国がまともに取り組むという姿勢の表れとして、演劇の教育・研究機関や活動助成の充実がもっとできないものでしょうか。

市村 にしすがも創造舎はこれまで5教室を稽古場に貸し出してきましたが、ここを使えれば演劇に専念できるのではないかという考えでした。でも甘い考えでした。そんなことぐらいでは難しい。もっと手を入れないとだめかなという考えで、教育というか講座というか、そういうことを始めようかと思っています。今夏、ボイス(声)系のワークショップを開きました。ここで稽古している人たちも参加したいという状況が生まれるほどでした。稽古もやっているし、同時にそういう講座も受けられるようなシステムを作りたいと考えています。さて、お金はどこから出してもらいましょうかね(笑)。お金の問題を最初から心配し始めると絶望的になるので、あまり考えずに後から何とかしようと思っています。先に意志があって、物事を立ち上げてしまう。そういうやり方でこれまで何とか切り抜けてきましたから。それで潰れたら致し方ない。もともとゼロから作り上げてきたのだから、それでだめなら残念ながらだめでした、ここまででしたと言うしかないかなあと考えたりしますね。

-指定管理者制度が法律で整備されて、ANJは横浜市の施設を引き受けることになりましたね。

市村 大倉山記念館を引き受けることになりそうです。ANJの柱が3つあります。ひとつは東京国際芸術祭、2つ目はにしすがも創造舎、3つ目は指定管理者ですが、これは思ったよりうまくいかなかった。問題は、本当にニュートラルな競争になっているかどうか、ですね。契約は3年から5年ですから、次の契約更新時が勝負です。そのときは本当の競争になると思います。

指定管理者制度はすごいことですが、諸手を挙げて賛成かといわれるとすぐに答えが出てきません。人の問題が絡んでくるでしょう。指定管理者制度で新しい企業や団体に変わったら、それまで働いていた人たちはどうなってしまうのでしょうかね。また赤字を出さないように運営することが前提ですから、歌謡ショーなどばかりで埋まったらどうなるのでしょうか。事業をやればリスクは大きくなりますから、やらなければ赤字の危険もない。予算を減らそうと思えば、事業をやらない方がいいということになりかねません。

-指定管理者制度を緊縮財政、予算縮小のためだけに機能させようとするといろんな問題が出てきますね。

市村 先の総選挙でも問題になりましたが、何を公がやり、何を民間が受け持つかという基本的なことは芸術分野に関してまだ議論されていない。制度をみても、アメリカ型とヨーロッパ型のどちらがいいか結論は出ていない。日本の場合、どちらに向かうのか分かりませんね。海外に行った人が、向こうは変わっているなどと言いますが、実はそれは逆で、変わってるのは日本だと思った方がいい。世界が変なのではなくて、日本が変わっているんです。そこは押さえてもらいたい。世界の演劇と日本の演劇はすごく違ってます。

-違っていても、その違いをきちんと説明できるかどうかではないでしょうか。明示できる違いだとありがたいですね。本日は長時間ありがとうございました。

(2005年10月25日 東京・にしすがも創造舎)


インタビューを終えて

アートの制作現場にいるものとして、WEB上で作品への様々な批評を述べられている方々と交流したいと常々思っていました。既存の紙媒体とWEB上のものがどのような関係になっていくか大変興味をそそられるところです。東京国際芸術祭は独自の批評サイトを立ち上げてきましたが、それをどのように展開していったらいいか、もし何かいい案をお持ちの方はぜひお知らせください。研究・批評と制作と創作がうまく相互に影響しあう良い関係が作り出せればなあ、と思っております。次回の東京国際芸術祭の記者発表はWEB上の批評家、ジャーナリストもお招きし、意見の交換をしたいと希望しています。なお、記者発表は来年1月初旬を予定しています。(市村作知雄)